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蘇る微熱
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「どう思う、桐野」
「ええ。悪くはありませんが……」
週明けの月曜日。研究室に届いた四本の香水のセットを前に、朱夏は難しい顔をしていた。隣にいる岡崎が、彼女の表情からその思いを読み取って、代弁する。
「自信を持って最高の出来だとは言えない。といったところか?」
「はい」
彼らが視線を注ぐ作業台の上にあるのは、来月の社内プレゼンに提出する予定のフレグランスセットのサンプル。パッケージング部門が、朱夏たち開発チームの商品イメージを忠実に汲み取ってくれたため、その外観は素晴らしい。
ナチュラルなオフホワイトの箱に宝物のように並ぶのは、形の違う四つの小瓶。
春は、ふっくらと丸みを帯びた花形。夏は、中央が少し凹んだラムネ瓶形。秋は、ほっそりとした三日月形。冬は、雪の結晶のデザインを刻んだ六角形。どれも、女性心をくすぐるかわいらしい香水瓶だ。
「しかし、これでプレゼンに挑むと決めたのはきみのはずだ」
「ええ。……そうなんです。見た目に文句はありませんし、四季それぞれの香りも、開発前に行った消費者へのアンケート結果をふまえた上で、納得するまで突き詰めたつもりです。でも、なんというか。今ひとつ、魅力が足りないような気がしてしまって」
見た目もいい。香りもいい。四千円弱という価格設定も申し分ない。なのに、現物が目の前に届くと、なにか物足りない。朱夏は自分でもその原因がわからなかった。
折り曲げた人差し指を口もとにあててじっと考え込む朱夏の隣で、岡崎が言う。
「俺は、この試作品が今できるベストだと思うよ。桐野は少し、完璧主義が過ぎるんじゃないか?」
「そうでしょうか……」
岡崎の人間性はともかく、仕事上の判断力に関しては信頼できる。そんな彼に指摘されると、自分の考えすぎだろうかという気もしてくる。
それでもなかなか迷いを断ち切れないでいると、岡崎が探るような目で尋ねた。
「桐野、プライベートでなにかあったんじゃないのか?」
「えっ?」
朱夏はどきりとした。貴人とは、土曜のデートで別れたきり、話をしていない。電話やメッセージも、無視を決め込んでいた。だからといって、仕事中に顔に出るほどプライベートの感情を持ち込んだつもりはないのだが。
朱夏がなにも言えずにいると、岡崎が腕時計を一瞥する。
「あと数分で昼休みだ。一旦肩の力を抜いてメシにしよう。俺でよければ話を聞くよ」
「いえ、そんな。岡崎さんにお話しするようなことはなにも」
あからさまに警戒心をあらわにする朱夏に、岡崎が苦笑する。
「嫌われたもんだな。別に、取って食ったりしないよ」
「そういう心配をしているわけじゃ!」
「じゃあいいだろ、メシ。社員食堂ならどうだ? 絶対に変なことはできない」
朱夏は迷ったが、これ以上断るのも逆に自意識過剰なので、結局承諾した。
社員食堂なら親密な会話はできないだろうし、同じ部署の男女が食事をしていてもそれほど不思議じゃない。そう思いかけ、ふと自嘲する。
いったい誰の目を気にしているのだろう。たとえば貴人に岡崎と一緒に食事をしているところを見られたって、別に困らないではないか。
彼には、見た目も社会的地位も、自分よりずっと似合いの相手である涼音という存在があるのだから。
「ええ。悪くはありませんが……」
週明けの月曜日。研究室に届いた四本の香水のセットを前に、朱夏は難しい顔をしていた。隣にいる岡崎が、彼女の表情からその思いを読み取って、代弁する。
「自信を持って最高の出来だとは言えない。といったところか?」
「はい」
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「しかし、これでプレゼンに挑むと決めたのはきみのはずだ」
「ええ。……そうなんです。見た目に文句はありませんし、四季それぞれの香りも、開発前に行った消費者へのアンケート結果をふまえた上で、納得するまで突き詰めたつもりです。でも、なんというか。今ひとつ、魅力が足りないような気がしてしまって」
見た目もいい。香りもいい。四千円弱という価格設定も申し分ない。なのに、現物が目の前に届くと、なにか物足りない。朱夏は自分でもその原因がわからなかった。
折り曲げた人差し指を口もとにあててじっと考え込む朱夏の隣で、岡崎が言う。
「俺は、この試作品が今できるベストだと思うよ。桐野は少し、完璧主義が過ぎるんじゃないか?」
「そうでしょうか……」
岡崎の人間性はともかく、仕事上の判断力に関しては信頼できる。そんな彼に指摘されると、自分の考えすぎだろうかという気もしてくる。
それでもなかなか迷いを断ち切れないでいると、岡崎が探るような目で尋ねた。
「桐野、プライベートでなにかあったんじゃないのか?」
「えっ?」
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朱夏がなにも言えずにいると、岡崎が腕時計を一瞥する。
「あと数分で昼休みだ。一旦肩の力を抜いてメシにしよう。俺でよければ話を聞くよ」
「いえ、そんな。岡崎さんにお話しするようなことはなにも」
あからさまに警戒心をあらわにする朱夏に、岡崎が苦笑する。
「嫌われたもんだな。別に、取って食ったりしないよ」
「そういう心配をしているわけじゃ!」
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朱夏は迷ったが、これ以上断るのも逆に自意識過剰なので、結局承諾した。
社員食堂なら親密な会話はできないだろうし、同じ部署の男女が食事をしていてもそれほど不思議じゃない。そう思いかけ、ふと自嘲する。
いったい誰の目を気にしているのだろう。たとえば貴人に岡崎と一緒に食事をしているところを見られたって、別に困らないではないか。
彼には、見た目も社会的地位も、自分よりずっと似合いの相手である涼音という存在があるのだから。
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