曖昧なパフューム

宝月なごみ

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未熟な関係

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 行くあてのない自分を同居人として受け入れ、ハウスキーパーのアルバイトまでさせてくれた、親切な年上のお姉さん。その印象ががらりと変わったのは、一緒にパブに出かけてからおよそひと月後。

 ロンドン上空を、今にも雪が降りだしそうな厚い雲が覆った、ある冬の日だった。

 休日だった朱夏は遅くまで寝ていて、同じく仕事もスクールも休みだった貴人は、ひとりでのんびり家事をして過ごしていた。

 リビングの棚をハタキで掃除しながら、ランチのメニューを考える。

 近頃の朱夏は、失恋でもしたのか、元気も食欲もない。そんな彼女でも口にできるような、消化がよくて食べやすいもの……。あれこれ考えて、フレンチトーストを作ることにした。

『あ。卵がない……』

 冷蔵庫の扉を開けながら呟き、買い物の準備をする。そして、朱夏の部屋の扉をノックして、遠慮がちに声を掛けた。

『朱夏さん、俺、お昼ご飯の材料を買いに行ってきますね』

 中から返事がなかったので、まだ寝ているのだと想像し、物音を立てないように玄関を出た。エレベーターで五階から一階に下り、屋外に出たところで貴人の足が止まる。

『あれ? 降ってきちゃったか』

 白い息を吐き出して、空を見上げる。どんよりした灰色の空から、ちらちらと雪が舞い始めていた。

 朝、歯を磨きながらなにげなく見ていたテレビの天気予報では、たしかこれから本降りになり、夜には積もるだろうと言っていたような。

 傘を取りに行くか行くまいか悩んで、結局一度戻ることにした。家の前で気づいてよかった。そう思いながら、一度ロックした玄関を開ける。

 そして傘立てを見たが、どの傘も骨が折れてたり破れていてまともに使えそうなものが見あたらず、貴人は舌打ちをしたい気持ちになる。

 しかしふと、朱夏がいつも折り畳み傘をバッグに忍ばせていることを思い出す。記憶が正しければ、男性が使っても問題なさそうな、シンプルな無地の傘だった。それを借りよう。

 寝ている朱夏を起こすのは憚られたので、貴人は足音を殺して彼女の部屋に近づいた。

 ハウスキーパーとして働いているとはいえ、朱夏の部屋は彼女が自分で掃除するので、この部屋には足を踏み入れたことがない。だからなのか、妙に後ろめたい気持ちになりつつ、ドアノブに手を掛ける。

 もしも室内の目立つところにバッグがなかったら、傘は諦めてスーパーまで走ろう。

 そう、遠慮がちに思いながら、そっとドアを内側に押したその時――。

『ン、……あっ、はぁん』

 僅かに開いたドアの隙間から洩れてきたのは、聞いたこともない朱夏の艶かしい声。

 貴人は戸惑い、その場から立ち去ろうとしたが、なぜか足が棒になったかのように動かなかった。そして、見てはいけないともうひとりの自分がが叫んでいたが、好奇心に負けて隙間から中を覗いた。

 まず目に飛び込んできたのは、ベッドの上に投げ出された細い脚。なにも穿いていない、素肌の状態だ。

 時折ぴくんと震えるその脚を辿っていくと、足の付け根に這わされた指が、悩ましく秘部を弄る様子がハッキリと見えた。

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