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再会と急接近
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「どうして、あなたはいつも……」
だいぶ酔いが回ってきた朱夏は、トロンとした眼差しで貴人を見つめる。
「いつも……なに?」
貴人が問いかけると、朱夏はなにも言わずにかぶりを振った。しかし、胸の内だけでぽつりと呟く。
――どうして、あなたはいつも。私の抱える痛みにいち早く気づいて、一番欲しい言葉をくれるの?
彼女は貴人に向かって心が走り出しそうなのを感じていた。
しかし、もう恋はしないと決めている。そのうえ、彼は勤める会社の御曹司だ。過去の政略結婚は断ったようだが、近い将来、彼にはその身分にふさわしい縁談があるだろう。自分たちは住む世界が違うのだ。
朱夏は自分にそう言い聞かせ、加速しそうな気持にブレーキをかける。
「相変わらず鈍いんだな、朱夏さんって。昔と全然変わってない」
「え?」
不意に貴人が放ったひと言に、朱夏は首を傾げた。鈍いとは、なにに対してだろう。
キョトンとして貴人を見つめる朱夏にクスッと人懐っこい笑みを浮かべた貴人は、彼女の取り皿にひと切れのミートパイを乗せる。
「さて、頑張って食べましょっか。ちょっとペースアップしないと、閉店までに食べ終わらなそうです」
「ちょ、それは貴人くんのせい……!」
「ははっ」
朱夏はすでに腹十二分目まで、料理とお酒でいっぱいだった。
なのにこれ以上食べろと!?
憤慨しながらちびちび料理を口に運びつつ、朱夏は無邪気な貴人の笑顔に否応なく胸がときめいていることに、気づかぬふりをしていた。
食事の後、貴人は朱夏をタクシーでマンションまで送った。
店では明るく楽しい時間を過ごしたふたりだったが、タクシーでの移動中はなぜか無言で、後部座席に隣あって座っているにもかかわらず、どことなく気まずい空気が流れていた。
やがて到着したマンション前で、タクシーから降りようとする朱夏に貴人が問いかける。
「部屋まで送りましょうか?」
「ありがとう。でも大丈夫。ここ、わりとセキュリティがしっかりしているの」
朱夏は丁重に断り、「今日はご馳走様」と小さく頭を下げる。
できるだけ普通に、さっぱりと別れよう。そう言い聞かせながら、朱夏が今度こそ車を降りようとした瞬間だった。
ガシッと貴人に手首を掴まれて強引に振り向かされ、驚いて目を瞬かせている間に、おでこに柔らかい熱が触れた。懐かしい彼の甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
ほんの一瞬、前髪の上からの軽いキス。にもかかわらず、朱夏の心臓はドキンと大きく跳ね、頬がみるみるうちに赤く染まった。
唇が離されてもなお、彼の顔は息のかかる距離にあって、朱夏は鼓動が彼に聞こえてしまうんじゃないかと不安になりながら、上目遣いに彼を見る。
「また、誘ってもいいですか?」
貴人が、年下とは思えぬ蠱惑的な目をして問いかけてくる。
ダメと言うのだ。これ以上彼と深く関わったら、傷つくのは自分。頭ではそうわかっていても、断りの言葉が口から出ない。
「なにも言わないなら、期待しますから、俺」
「そんな、困るよ……」
「存分に困って下さい。……朱夏さんと離れていた間の俺みたいに」
「え……?」
どういう意味だろうか。
朱夏が戸惑ったように彼を見ると、切なそうに潤んだ瞳と視線が絡む。しかし、貴人は一度目を伏せて軽く息を吐くと、苦笑して言った。
「早く部屋に帰らないと、さらに暴走しますけどいいですか?」
「ぼ、暴走……ダ、ダメ、落ち着いて! 今、帰るから! じゃあね!」
朱夏は慌てて車を降りていき、マンションのエントランスに飛び込む。それからちらっと後ろを振り向き、高鳴る鼓動を持て余しながら、タクシーが走り去るのを見届けた。
だいぶ酔いが回ってきた朱夏は、トロンとした眼差しで貴人を見つめる。
「いつも……なに?」
貴人が問いかけると、朱夏はなにも言わずにかぶりを振った。しかし、胸の内だけでぽつりと呟く。
――どうして、あなたはいつも。私の抱える痛みにいち早く気づいて、一番欲しい言葉をくれるの?
彼女は貴人に向かって心が走り出しそうなのを感じていた。
しかし、もう恋はしないと決めている。そのうえ、彼は勤める会社の御曹司だ。過去の政略結婚は断ったようだが、近い将来、彼にはその身分にふさわしい縁談があるだろう。自分たちは住む世界が違うのだ。
朱夏は自分にそう言い聞かせ、加速しそうな気持にブレーキをかける。
「相変わらず鈍いんだな、朱夏さんって。昔と全然変わってない」
「え?」
不意に貴人が放ったひと言に、朱夏は首を傾げた。鈍いとは、なにに対してだろう。
キョトンとして貴人を見つめる朱夏にクスッと人懐っこい笑みを浮かべた貴人は、彼女の取り皿にひと切れのミートパイを乗せる。
「さて、頑張って食べましょっか。ちょっとペースアップしないと、閉店までに食べ終わらなそうです」
「ちょ、それは貴人くんのせい……!」
「ははっ」
朱夏はすでに腹十二分目まで、料理とお酒でいっぱいだった。
なのにこれ以上食べろと!?
憤慨しながらちびちび料理を口に運びつつ、朱夏は無邪気な貴人の笑顔に否応なく胸がときめいていることに、気づかぬふりをしていた。
食事の後、貴人は朱夏をタクシーでマンションまで送った。
店では明るく楽しい時間を過ごしたふたりだったが、タクシーでの移動中はなぜか無言で、後部座席に隣あって座っているにもかかわらず、どことなく気まずい空気が流れていた。
やがて到着したマンション前で、タクシーから降りようとする朱夏に貴人が問いかける。
「部屋まで送りましょうか?」
「ありがとう。でも大丈夫。ここ、わりとセキュリティがしっかりしているの」
朱夏は丁重に断り、「今日はご馳走様」と小さく頭を下げる。
できるだけ普通に、さっぱりと別れよう。そう言い聞かせながら、朱夏が今度こそ車を降りようとした瞬間だった。
ガシッと貴人に手首を掴まれて強引に振り向かされ、驚いて目を瞬かせている間に、おでこに柔らかい熱が触れた。懐かしい彼の甘い香りが、鼻腔をくすぐる。
ほんの一瞬、前髪の上からの軽いキス。にもかかわらず、朱夏の心臓はドキンと大きく跳ね、頬がみるみるうちに赤く染まった。
唇が離されてもなお、彼の顔は息のかかる距離にあって、朱夏は鼓動が彼に聞こえてしまうんじゃないかと不安になりながら、上目遣いに彼を見る。
「また、誘ってもいいですか?」
貴人が、年下とは思えぬ蠱惑的な目をして問いかけてくる。
ダメと言うのだ。これ以上彼と深く関わったら、傷つくのは自分。頭ではそうわかっていても、断りの言葉が口から出ない。
「なにも言わないなら、期待しますから、俺」
「そんな、困るよ……」
「存分に困って下さい。……朱夏さんと離れていた間の俺みたいに」
「え……?」
どういう意味だろうか。
朱夏が戸惑ったように彼を見ると、切なそうに潤んだ瞳と視線が絡む。しかし、貴人は一度目を伏せて軽く息を吐くと、苦笑して言った。
「早く部屋に帰らないと、さらに暴走しますけどいいですか?」
「ぼ、暴走……ダ、ダメ、落ち着いて! 今、帰るから! じゃあね!」
朱夏は慌てて車を降りていき、マンションのエントランスに飛び込む。それからちらっと後ろを振り向き、高鳴る鼓動を持て余しながら、タクシーが走り去るのを見届けた。
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