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宮殿の車止めの見える部屋で、私はため息を吐く。

「マルガリーテ様、もう後には戻れません。あの様子を見ればお分かりでしょう?オリンタール様は我がレテルリア帝国の国民に血を流させても何とも思わない人間に成り下がりました。」

様子を見ていた私の後ろから声が掛かる。

「タニソーリア、もう言うな。分かっておる。後戻りはできん・・・。あれは私の娘では無い・・・。国賊じゃ。明日は手筈通りにせよ。」

「は!」

何とも虚しいのう・・・。

我が子を国賊にするのだから・・・。

・・・カロンに会いたい。

あの声で癒して欲しい・・・。

華奢な身体で私を抱き締めて欲しい。

・・・私はこんなにも弱い人間だったのか。

「マルガリーテ様、カロン様の所にお寄りなさいませ。明日はその様なお顔をなさいませんように。」

タニソーリアは、私の弱さを分かっておる。

分かっていて、それでもなお娘を討てと言う。

それが為政者として正解なのだろう。

だが・・・。

「カロンの元に行く・・・。」

「はい。」

タニソーリアは頭を下げて私を見送る。

私は腹を擦る。

この子が産まれる前に内政を荒らされる訳にはいかない。

私はこのレテルリア帝国の女王なのだから。

後宮のカロンの部屋に入ると、私を見たカロンが笑顔で出迎えてくれる。

「マルガリーテ様!体調はいかがですか?・・・あ、お顔の色が悪いです!侍医長を呼んだ方がいいのでは?アーサン!アーサン!侍医長を呼んで下さい!ああ!マルガリーテ様!こちらのソファーに座って下さい!」

カロンが慌てる姿を見ると、少し気分が落ち着いてくる。

「・・・カロンよ、近こう寄れ。」

カロンは私をソファーに座らせ、隣に腰を下ろした。

「マルガリーテ様、お願いです。ご無理はしないで下さい。はち切れそうなお腹をしていて、動き回るのはよくないのでは・・・?」

カロンの心配に心が癒される。

「カロン、腹はもっと大きくなる。今の内に動かんと動けなくなるからのう。運動せんとな。」 

「でも・・・。」

カロンはおずおずと私の腹を触る。

「もっと大きくなったら、歩くのも大変なのでは・・・?」

私は腹の上のカロンの手に触る。

「カロン、そんなに心配するでない。これでも7回子を産んでおる。8回目のこの子とて、逆子でもなし安産であろう。それにそなたの子は大人し過ぎる。腹を蹴る回数も少ない。私の事を心配するそなたと同じじゃ。」

カロンはそれでも安心した様子は無い。

「・・・全く。子を産むのは私ぞ?今からそんなに心配していては、出産時にどうするのじゃ?」

カロンの泣きそうな顔に意地悪を言う。

私はカロンの唇にキスをする。

カロンは素直に唇を開けて私の舌を待っている。

どれ程キスをしていたか、アーサンがランキを連れ部屋に入ってきた。

私達がキスをしているのを見ると、ランキが頭を下げる。

「・・・女王陛下、申し訳ございません。体調がお悪いと聞いたのですが・・・。」

私はランキを手で制する。

「良い。体調不良ではないが、脈で言う診てもらおうかの。」

「はい。・・・王女殿下は、今日も順調にお育ちでございます。ようございました。体調不良と聞いた時はどうなる事かと思いましたが、何の心配もございません。ご気分が優れないのでしたら、お薬をお持ちしますがいかが致しますか?」

ランキはそんなに心配していない顔で言っている。

「要らん。カロンの顔を見たら、気分も良うなった。アーサン、食事を持て。カロンと共に食す。」

アーサンは頭を下げて部屋を出て行く。

ランキも下がらせる。

すると、カロンが泣き出した。

「どうした?カロン?」

「・・・お産みになるのは王女様なのですね。母上が聞いたらきっと喜ぶでしょう・・・。」

カロンに問う。

「・・・母御に会いたいか?」

「・・・はい。生きて会える日を待ちたいと母上と約束したんです。僕は父王に疎まれていました。だから、母上と離宮で育ちました。一度も父王と会ったこともなくて、マルガリーテ様に婿入りするように言われたのが初めての御目見えでした。もう会う事は無いでしょうが、母上には会いたいです。僕に子供ができたと知ったらどんなに喜んでくれるでしょうか・・・!」

私はしくしくと泣いているカロンの髪を撫でてやる。

「・・・カロン、では合わせてやろう。ガンゼル国から、母御を迎えて来ようぞ。だから、子供のようになくでない。」

カロンは潤んだ目で私を見てくる。

「・・・本当ですか・・・?」

「うむ。約束は守ろうぞ。」

カロンは私に抱きついてきた。

そして、私の肩が濡れる程泣いた。

余程、母御との絆が深い様だと自嘲気味に笑う。







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