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第一章 旅立ちの日に母親を寝取られるとは、情けない!
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しおりを挟む「お、王様ともあろうお方がどうしてこのような所に!?」
「勇者殿の母君とは、一度お話をしておくべきだと考えていました」
「それなら、私がお城に参りましたのに…」
「ははは。それでは勇者殿の母親に対して礼を欠いてしまいます」
今でも夢なのではないかと思ってしまう。この国を治めるハロルド様が、お一人でいらっしゃっているのだ。
と、とにかく、失礼のないようにしないと。
「そ、そんなことはありませんわ!そんなことより、王様を玄関に立たせておくわけには参りません。何もない家でよろしければ、お上がりください…」
「それでは、お言葉に甘えましょう」
ハロルド様は爽やかに微笑み、敷居を跨いだ。私は慌てて茶菓子とお茶を用意する。こんなものが王様のお口に合うかも分からないけど…
ハロルド様は大陸の六賢者に数えられるほどの名君だ。歳は30前半くらいで、私と同じくらい。理性的で民想いの性格をしており、民からの信頼も厚い御方だ。まさに、雲の上のような存在だ。
そんな御方が、領土の外れにある小さな村に住む私に会うために、わざわざお忍びでやってきたのだという。いったい、何が何やら分からない。
「本日、ご無礼を承知で伺ったのはアンナ殿のことが気がかりになったからです」
「わ、私ですか?」
「はい。貴女の旦那様は行方不明になったと聞いております。そして本日ご子息が勇者として旅立った」
「は、はい」
「もしその事で、少しでも心を痛めていらっしゃるなら、この通り…」
そう言うと、ハロルド王は椅子から立ち上がり、私に向かって深々と頭を下げた。
「そ、そんな!王様ともあろう御方が!頭をお上げください!」
「いえ、そうは参りませぬ。勇者を必要とするのは我が国が不甲斐ないからです!アンナ殿のように、新たな勇者が誕生することで心を痛める方がいるのなら、それは私の責任です」
ハロルド王の言葉は力強くて、優しくて、暖かい。私のような民の気持ちを考えて、立場を気にせず頭を下げてくれる。それはまるで、私の心に空いた穴を埋めてくれるようだ。この御方が王たる所以が分かった気がする。
「お顔を上げてください。王様ともあろう御方が、私などに頭を下げるべきではございません」
「そうですか、それでは…」
そう言うと、ハロルド様は顔を上げて、私の右手を両手でぎゅっと握った。
「私にできることがありましたら、何でも仰ってください」
「ハ、ハロルド様…」
いつぶりかも分からない男性からのボディタッチに一瞬、身体がドギマギとしてしまう。ハロルド様の指は無骨だけど、芸術を嗜むような繊細さを感じる。
それだけでない。ハロルド様は驚くほど真っ直ぐに私のことを見つめていた。その目をずっと見ていると、吸い込まれそうな気がした。気恥ずかしさから、私は思わず目を逸らしてしまう。
「あ、ありがとうございます、ハロルド様…今のところは何も困ったことはございません」
「そうですか。分かりました…あっ!」
急にハロルド様は何かを思い出したようだ。
「ははは。謝ることばかり考えていて、お土産をお渡しするのを忘れておりました。ワインをお持ちしたのですが、お口に合いますかな?」
「こ、こんな高価なもの、頂けませんわ!」
ハロルド様は袋から他国の特産品のワインを取り出した。それも最高級品だ。
一体どんな味がするのかしら。私のような庶民が一生口にすることのない高級酒…でも、流石に受け取ることはできない。
「ふむ、それではこういうのはいかがでしょうか?実は私は部類の酒好きでしてね。いつもこうやって酒を持ち歩いているのです」
「え?」
私は、急に何の話が始まったのだろうと疑問に思う。
「そして今、たまたま訪れた民家で、急にお酒を飲みたくなったのです。私はグラスをお借りするお礼として、家主に対してもお酒を振る舞うのです。これならいかがでしょう」
私は思わずくすりと笑ってしまう。ハロルド様は誠実でお優しいだけでなく、ユーモアもある方のようだ。こんな高貴なお方に失礼かもしれないけど、庶民のようなお茶目さを感じてしまい、ほっとした。
「ふふふ。晩酌に付き合えというわけですか?一杯だけならよろしいですわ。では、グラスを2つ用意しないといけませんわね」
ここまでお膳立てされたのなら、一杯くらいは飲まなければ失礼だろう。それに高級酒の味も気になるから…
そういえば、ハロルド様は昔はかなりの遊び人だったという噂がある。そこから心を入れ替えて、「うつけ者」から「名君」になったと言われている。とはいえ今の様子を見るに、遊び人時代に磨いたユーモアは健在というわけなのだろう。
私はグラスを用意して、ワインを注ぐ。まさか王様と晩酌をするとは、私の人生のちょっとした思い出になるだろう。
「それでは、乾杯!」
グラスを軽く当て、私とハロルド様は最高級のワインを飲み始めた。
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