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第一章 旅立ちの日に母親を寝取られるとは、情けない!

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「母さん、それじゃあ行ってくるよ」
「エルド、気をつけるのよ」

 僕は今日、元服を迎えた。今から僕は魔王を退治する旅に出かける。1週間前、この地を治めるハロルド王への謁見を済ませた。そこから自宅に戻り、今は母さんへ最後の挨拶をしているところだ。
 物心ついた時から、僕の家には父さんがいなかった。父さんは勇者として旅に出て、魔王に敗北したと言われている。だから、母さんは女手一つで僕を今日まで育ててくれた。人一倍大変だっただろう。
 僕が父さんのような勇者になりたいと初めて伝えた時は、猛反対された。そりゃあそうだ。父さんに続いて僕まで喪うことになったら、母さんは独りになってしまう。それでも僕の熱意を知り、母さんは僕が勇者になることを認めてくれた。そして、父さんのような勇者になるためと、勇者の心得を叩き込んでくれた。
 綺麗で、優しくて、厳しくて…僕の自慢の母さんだ。僕は絶対に母さんを悲しませない。絶対に戻ってくる。寂しいけど、今は絶対に泣かない。絶対に、立派な勇者になるんだ。
 僕は母さんに背を向けて、ゆっくりと歩き出した。

 さあ、冒険の始まりだ!



「まったく、涙ぐらい見せてくれたっていいじゃない」

 私は勇者エルドを見送りながら、ぽつりと呟いた。小さな頃は「泣き虫エルド」なんて呼ばれていたあの子も変わったものだ。愛する我が子の成長が、とても頼もしく感じた。
 さあ、あの子の部屋の掃除をしなくっちゃ。いつ帰ってきてもいいように、ちゃんと綺麗で清潔な状態を保っておきたい。

「誠に申し上げにくいのですが、恐らく貴女の旦那様は…」

 その時、私にとって最悪の記憶が一瞬頭を過ぎった。掃除用具を取り出していた私の動きがピタリと止まる。
 エルド、旅はきっと貴方を大きく成長させてくれる。でも、どうか…どうか、お願いだから生きて帰ってきて。

「御免下さい。勇者エルド殿の母君、アンナ殿はいらっしゃいますか?」

 その時、玄関から男性の声が聞こえた。私は早速「勇者の母君」として扱われるようだ。以前は「勇者の奥方」だったのに。しかし、いきなり誰がきたのだろう?

「はいはーい」

 私は少し気の抜けた返事をして、玄関へと向かう。そして、腰が抜けるか思うくらいに驚いた。
 そこには、先週、エルドが謁見をしていた御方、つまり、この国を治めるハロルド王が立っていたのだから。
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