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第二章 私がキスをするまで

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「リザはもう大丈夫なようですわ。取り乱す様子もなく、今はぐっすりと眠っています」
「そうですか。よかった…」

 フロラヴィ婦人がリザの部屋から出てきて、リザの容態を私に伝えてくれた。部屋の前で祈るように待機していた私は安堵した。
 いずれにしても、私はリザを傷つけてしまった。リザの心の傷を抉るように、強引にことを進めようとしてしまった。そんなことをすればどうなるかなど、分かっていたはずなのに…
 それに今回の件は、私一人で反省して済む問題ではなくなった。この館のことをまだまだ知らない私では、リザの容態を安定させるには力不足だった。そのため婦人の協力を仰ぐほかなかったのだ。

「さて、ザール様…何が起こったのか、納得のいく説明をしてもらいます」

 婦人の顔はいつになく険しかった。私に対する静かな怒りを感じる。婦人のこんな顔を見るのは、私とリザの婚約を認めてくれなかった時以来か…
 私は覚悟を決めて、赤裸々に成り行きを打ち明けた。日に日に高まっていった婦人への情欲が元凶であるということは隠して…



「要するに、リザとの約束を守れずに、リザを傷つけた…そういうことですね」
「婦人の仰る通りです。私は最低なことを…」

 私がそう言うと、婦人は何かを考えるかのように黙り込んだ。私にとって、とても心苦しい沈黙だった。婚約を破棄されることも覚悟していたからだ。
 すると、ようやく婦人がその口を開いた。

「ザール様は不慣れな環境の中、アンジュー家当主としての責務を果たそうと努力をしていらっしゃいました。しかしご自身でも気が付かぬうちに、鬱屈としたものが心の中に蓄積されてしまったのでしょうかね」

 意外にも婦人は私を叱責することもなく、冷静でいてくれた。その上、私が置かれた境遇を理解しようと歩み寄ってくれているのだ。

「たまには気晴らしに街に出かけたらいかがでしょうか。酒場にでも出かけて気分転換をするのも悪くないでしょう」

 しかし私はお酒をほとんど飲んだことがない。酒場の喧騒が私にはどうも苦手なのだ。婦人も、いまいち乗り気でない私の反応に気がついたようだった。

「あら、ザール様はお酒は嗜まれないのですか?」
「それが、ほとんどないのです。恥ずかしながら私、趣味らしきものもほとんどなくて…」
「それでしたら、お酒を飲んでみますか?この館には高級酒も眠っております。気分転換には良いかもしれませんわ」

 話が逸れていっているのには気がついていた。しかし私は婦人のご厚意を無下に扱うのは気が引けた。それに私自身、今は何かにすがっていたい気分だった。だから私は婦人の提案を断ることもなく、なすがままに受け入れた。
 
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