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第二章 私がキスをするまで

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「リザ、気をつけて行ってくるのよ」
「はあい。それじゃあ、お母様、ザール君、行ってきます」
「ああ、リザ…行ってらっしゃい」

 あれから私は、週に一度、フロラブィ婦人に護身術を教えている。もちろん、そこまで本格的な指導をしていない。婦人には身の危険が迫ったときには、まず逃げること、もしくは相手を無闇に刺激しないことを教えておいた。その上で、いくつか技を絞って教えている。
 …このことはリザにも言っていない。婦人は「武芸は殿方の嗜み」と散々リザを叱っていた手前、自分が武芸を学ぶことを知られたくないようだ。だから、護身術のことリザに言わないようにお願いされた。だから些細なことかもしれないが、私と婦人の間には「秘密」ができてしまった。
 それから婦人は週に一度、リザに外出の用事を任せるようになった。リザが不在の2人きりの時間に、空き部屋を用いて…私は婦人に護身術を教える。そして今まさに、私と婦人は外出するリザを見送ったところだった。

「あの子ったら、あんなに馬を飛ばして…」
「はは、リザらしいですよ」

 婦人が母親らしくため息をつく。しかし、おてんばなところが抜けきっていないのもリザの魅力だ。そんなことを考えていると…

「さあザール様、今日はどんな技を教えてくれますの?」

 私にそう尋ねる婦人の顔は、つい先ほどまでリザに見せていた「母親の顔」ではなかった。きっと私の思い込みなのだろう。しかしそれでも私にはこの時間の婦人の顔が「女の顔」をしているように思えてならないのだ。
 …私は不貞行為は何もしていない。リザに内緒で婦人に護身術を教えているだけだ。それは大したことではないはずだ。しかし、リザと行為に及ぶことを我慢し続けている私にとって、婦人との関係はインモラルで…刺激が強かった。
 婦人は護身術の時、肢体のラインが浮き出る服を着てくる。動きやすい服とのことらしいが、婦人のグラマラスな肢体がくっきりと分かって…情欲がかきたってしまう。
 婦人の肌は雪のように白くしっとりとしている。技を教える時、どうしても婦人の身体に触れることになる。柔らかくてすべすべとした肌は…リザの母親であることを忘れてしまいそうになる。
 そして婦人は毎回香水を変えてくる。清楚で爽やかな香りを纏うこともあれば、どこかほのかに情熱的な香りを纏うこともある。その全てが官能的に思えてきて…いつしか私の本能は至近距離で婦人の香りを嗅ぐことを楽しみにしていた。

「ザール様、今日も楽しかったですわ」
「よ、良かったです」
「たまにはこうして体を動かしたほうがスッキリしますわね。ではまたお願いしますわ」

 指導が一区切りつくと、婦人は満足そうに先に退室していく。残された私はすぐさま自室に戻り、先ほどまでの婦人の姿を思い出して自慰行為に耽る。そして、何にも形容し難い罪悪感を覚える。このままだとダメだ。リザも婦人も私も、不幸な結末を迎えてしまう。そう思った私はある決心をした。
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