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第二章 私がキスをするまで
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「フ、フロラヴィ義母様!」
「あら、その呼び方はしないで欲しいと申し上げたはずですわ。まだ貴方の正式な義母になってはいませんもの」
「し、失礼しました」
厳格な性格をしているフロラヴィ夫人は、私に「義母様」と呼ばれるのを嫌っている。そのことは分かっていたのが、突然のことで思わず口走ってしまった。
案の定、婦人は少し不機嫌な顔になっている。しかし、いつもと違ってどこか優しさが残った温かい表情にも感じる。婦人は一呼吸置くと、心配そうに私に尋ねてきた。
「何かお悩みがありまして?」
「い、いえ…」
「本当にそうなのですか?」
私のことを心配してくれていることが伝わる、優しくて温かい声だ。
「ザール様にとって、この環境は不慣れでしょうから…苛立ちも大きいのではありませんか?」
「い、いえ…」
リザとの性の関係でもどかしさを抱えているなんて、婦人には口が裂けても言えない。私は思わず口籠もってしまう。すると婦人はハッと何かに気がつくと、私の手をぎゅっと握った。
「もしや、私が原因なのですか?」
「え?」
「貴族としての礼儀作法について、ザール様に対して口うるさく指導した自覚はございます」
「ははは。婦人は何も関係がございません。それに、そもそも悩みというのも大したことではありませんよ」
見当外れの婦人の心配に私は思わずクスリと笑ってしまった。そんな私の反応に婦人は安堵したようだ。私の手を握ったまま、じっと私の目を見つめてはにかんだ。
「あら、外れていましたか。悩みの種は私に分かりませんが…それでも、ザール様に笑顔が戻って何よりですわ」
そう言い終えると婦人は、にっこりと笑みを見せる。その一連の所作はさりげないものではあったが、気高く上品で、むんとした濃厚な色気が漂わせている。
「い、いえっ…!」
身体の奥底から得体の知れない高揚感が込み上げてくるのを感じてしまう。私は慌てて目を逸らして返事をするのが精一杯だった。
「うふふ。それにしても…ザール様、凄く男らしい手をしていますわ」
そんな私の様子を気に留めることもなく、婦人は私の手をまじまじと見つめ始めた。優しく私の手を握っている。それだけのはずなのに、白く細長い婦人の指がしっとりと私の手に絡みついているよう錯覚してしまう。
「骨太で手の皮も厚い…雄々しいですわ。相当の鍛錬を積まれたのですね」
「たっ、戦いを生業としていた者として当然のことです…」
「ふふふ。それにとても暖かい。逞しくて優しい殿方の手ですわ。ザール様の人となりが現れています」
婦人の指が私の手の平を優しくなぞる。その刺激は手を伝って、私の身体の中枢へと到達する。ほんの僅かの間ではあるが、身体を甘く痺れさせる官能的な刺激が襲った。
「い、いえっ…そんなことは…」
「私たち母娘にとってザール様はまさに救世主ですわ」
「そ、そんな…もったいない、お言葉ですっ」
「ふふふ、謙虚なお方ですこと」
私は上擦った声で返答をするのが精一杯だった、そんな私を見て、婦人のおしとやかに笑っている。しかし笑っている間もその瞳は真っ直ぐ私の瞳をじっと捉えていた。まるで野生動物のような底知れぬ獰猛さを秘めた瞳で、じっと私を眺めている。
「っ!!」
私は本能的に婦人の発する上品で濃密なフェロモンを感じ取ってしまったのだろうか。性的欲望に飢えた私の身体は、熱くたぎっている。あろうことか婦人を「女」として認識してしまったのだ。
それだけはあってはならないことだ。私のためにも、リザのためにも、そして婦人のためにも…
私は慌てて手を振り払い、強引に話題を変えることにした。
「そ、それで婦人は私に何か用があるのでしょうか…?」
私の言葉に婦人の顔が神妙な面持ちへと変わった。それと同時に濃密なフェロモンが消えていく。私は思わず安堵した。
そんな私の心の内を知る由もなく、婦人は何かを決意したようにゆっくりと話し始めた。
「実は、ザール様に護身術を教えていただきたいのです」
「あら、その呼び方はしないで欲しいと申し上げたはずですわ。まだ貴方の正式な義母になってはいませんもの」
「し、失礼しました」
厳格な性格をしているフロラヴィ夫人は、私に「義母様」と呼ばれるのを嫌っている。そのことは分かっていたのが、突然のことで思わず口走ってしまった。
案の定、婦人は少し不機嫌な顔になっている。しかし、いつもと違ってどこか優しさが残った温かい表情にも感じる。婦人は一呼吸置くと、心配そうに私に尋ねてきた。
「何かお悩みがありまして?」
「い、いえ…」
「本当にそうなのですか?」
私のことを心配してくれていることが伝わる、優しくて温かい声だ。
「ザール様にとって、この環境は不慣れでしょうから…苛立ちも大きいのではありませんか?」
「い、いえ…」
リザとの性の関係でもどかしさを抱えているなんて、婦人には口が裂けても言えない。私は思わず口籠もってしまう。すると婦人はハッと何かに気がつくと、私の手をぎゅっと握った。
「もしや、私が原因なのですか?」
「え?」
「貴族としての礼儀作法について、ザール様に対して口うるさく指導した自覚はございます」
「ははは。婦人は何も関係がございません。それに、そもそも悩みというのも大したことではありませんよ」
見当外れの婦人の心配に私は思わずクスリと笑ってしまった。そんな私の反応に婦人は安堵したようだ。私の手を握ったまま、じっと私の目を見つめてはにかんだ。
「あら、外れていましたか。悩みの種は私に分かりませんが…それでも、ザール様に笑顔が戻って何よりですわ」
そう言い終えると婦人は、にっこりと笑みを見せる。その一連の所作はさりげないものではあったが、気高く上品で、むんとした濃厚な色気が漂わせている。
「い、いえっ…!」
身体の奥底から得体の知れない高揚感が込み上げてくるのを感じてしまう。私は慌てて目を逸らして返事をするのが精一杯だった。
「うふふ。それにしても…ザール様、凄く男らしい手をしていますわ」
そんな私の様子を気に留めることもなく、婦人は私の手をまじまじと見つめ始めた。優しく私の手を握っている。それだけのはずなのに、白く細長い婦人の指がしっとりと私の手に絡みついているよう錯覚してしまう。
「骨太で手の皮も厚い…雄々しいですわ。相当の鍛錬を積まれたのですね」
「たっ、戦いを生業としていた者として当然のことです…」
「ふふふ。それにとても暖かい。逞しくて優しい殿方の手ですわ。ザール様の人となりが現れています」
婦人の指が私の手の平を優しくなぞる。その刺激は手を伝って、私の身体の中枢へと到達する。ほんの僅かの間ではあるが、身体を甘く痺れさせる官能的な刺激が襲った。
「い、いえっ…そんなことは…」
「私たち母娘にとってザール様はまさに救世主ですわ」
「そ、そんな…もったいない、お言葉ですっ」
「ふふふ、謙虚なお方ですこと」
私は上擦った声で返答をするのが精一杯だった、そんな私を見て、婦人のおしとやかに笑っている。しかし笑っている間もその瞳は真っ直ぐ私の瞳をじっと捉えていた。まるで野生動物のような底知れぬ獰猛さを秘めた瞳で、じっと私を眺めている。
「っ!!」
私は本能的に婦人の発する上品で濃密なフェロモンを感じ取ってしまったのだろうか。性的欲望に飢えた私の身体は、熱くたぎっている。あろうことか婦人を「女」として認識してしまったのだ。
それだけはあってはならないことだ。私のためにも、リザのためにも、そして婦人のためにも…
私は慌てて手を振り払い、強引に話題を変えることにした。
「そ、それで婦人は私に何か用があるのでしょうか…?」
私の言葉に婦人の顔が神妙な面持ちへと変わった。それと同時に濃密なフェロモンが消えていく。私は思わず安堵した。
そんな私の心の内を知る由もなく、婦人は何かを決意したようにゆっくりと話し始めた。
「実は、ザール様に護身術を教えていただきたいのです」
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