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第二章 私がキスをするまで

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 勇者として世間でそこそこの名を馳せていたとはいえ、所詮は町人の出自だ。まさか巡り巡って名家として名高いアンジュー家の当主になるとは思いもしなかった。
 幼少期、ひょんなことからリザと出会って、運命的な再会を果たして…まさか婚約をすることになるとは。つくづく人生とはわからないものである。


 私がアンジュー家に迎えられて1ヶ月が経った。初めのうちは新しい生活に戸惑うことばかりだったが、ようやく少しずつ慣れてきた。アンジュー家当主として生活には何も心配はないだろう。
 しかし、婚約段階にあることが本当にもどかしい。同じ屋根の下に住んでいるというのに、私とリザは正式に結ばれているわけではない。
 だから、愛を育むこともできていない。リザとは正式に婚姻関係が成立した時に、愛を育むことを約束してしまった。だから私は、可愛いリザがこんなにも近くにいるのに、何もできず生殺しの状態でいるのだ。
 いっそ、そんな約束は破ってリザのことを…しかし、それではリザは戸惑い、抵抗するだろう。リザは恥ずかしがり屋で、約束を破る男は嫌いだから。そんな「初めて」は私の本意ではない。

「ああ、どうすれば…」

 私は思わずぽつりと呟く。すると不意に背後から女性の声がした。

「あら、どうなさいまして?」
「っ!?」

 突然の声に私が驚き、振り向くと…そこにはフロラヴィ義母様が立っていた。
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