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第一章 私が婚約をするまで

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「ですから、2人の結婚は認められませんわ」
「もう!お母様の分からず屋!!」
「リザ、落ち着くんだ!」

 ザール君は、机をバンと叩いた私を嗜める。ザール君の言う通りだ。物に当たるのは良くない。でも、物に当たりでもしなければやっていられない。
 私はザール君に想いを伝えて、結ばれた。晴れて結婚…と思いきや、そう話はうまく進まなかった。結婚にはお母さまの承諾が必要だけど…肝心のお母様が私たちの結婚を認めないと言うのだ。
 簡単に言うと、身分差のある結婚だからダメ、というわけだ。私の出自は貴族。一方のザール君は今をときめく勇者様だけど、出自は町人だ。確かに貴族の世界は出自がモノを言うかもしれない。だけど相手は勇者様だ。認めてくれてもいいじゃない。

「フロラブィ婦人…どうしても私たちの願いは聞き入れられませんか」
「アンジュー家は苦しい状況にあります。確かザール様は素晴らしい殿方です。ですが後ろ盾がないとなると…アンジュー家を託せませんわ」

 お母様が何かを言うたびに、私のイライラが募る。何よそれ。じゃあ好きでもない人と結婚しろって言いたいわけ?こんなに好きな人に出会えたのに。そんなの辛すぎる。私はザール君と一緒にいたいだけなのに。
 私は思わず禁断の言葉を発してしまう。

「結婚を認めないのなら、私は家を出て行くわ!」
「リザ!何てことを言うのです!」

 お母様が声を荒げて私を嗜める。もういい。こうなったら思いの丈を全部ぶつけてやる。

「好きな人と一緒になるのが、そんなにいけないわけ!?それにザール君はアンジュー家を託せる人物なのは、お母様だって分かっているでしょ!?」
「…」

 意外にもお母様は黙って私の言葉を聞いてくれているようだ。それならいいと言わんばかりに、私はもっとまくしたてる。

「出自よりも大切なことなんか、いくらでもあるわ!そもそも身分差のおる恋愛も今どきは珍しくないの!お母様の時代の物差しで測られるのなんて、もうたくさん!」
「リザ、もうやめろ!」

 私のあまりの剣幕に、ザール君は気が気でないようだ。慌てて私を制止する。
 あーあ、言ってしまった。お母様はカンカンに怒っているだろうし、本当に家から追い出されるのかもしれない…

「分かりました。二人の愛を認めますわ」
「「え?」」

 お母様の口から聞こえた言葉は、予想とは正反対のものだった。私もザール君も呆気に取られてしまった。

「私も覚悟を決めました。『絶対にダメ』などという固定観念を捨て、愛を尊重しようかと思います」

 お母様の口から、お母様らしからぬ言葉が次々飛び出す。何かの覚悟を決めた顔つきだ。結婚を認めてくれるのは嬉しくいはずなのに、お母様の変わりようへの驚きが勝ってしまっている。

「その代わり、一つだけ条件があります」
「な、なんでしょう、お母様?」

 今更ながら私はお母様へ敬語で接する。そして、条件について恐る恐る尋ねた。

「婚約期間を設けさせてもらいますわ。もちろん、ザール様はこちらの館にお住まいになって構いませんわ」

 なるほど。ちゃんと共同生活をしてみて、愛が本物かどうか確かめる期間が必要というわけね。そのくらいのこと、どうってことはない。

「分かりました。その、先程は怒鳴ってしまい失礼しました」
「ふふふ。いいのですよ。ザール様も、娘をよろしく頼みますわ」
「は、はい!ありがとうございます!」

 こうして、アンジュー家はザール君を迎え入れることになった。
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