上 下
3 / 21
第一章 私が婚約をするまで

3

しおりを挟む


 アンジュー家の館の近くは湖がある。私のお気に入りの場所だ。私は今、そんな湖のほとりで、考えに耽っている。
 あれから数日が経った。当主であるお父様を失ったアンジュー家は、以前の影響力を失ってしまうだろう。それでも、私たちの境遇に同情してくれた他の貴族たちの色々と工面をしてくれることになった。しばらくは生活に困らない。
 だから、私には今のうちにやるべきことがある。アンジュー家の当主に相応しい男を、夫にしなければならない。
 政略結婚なんて最悪だと思っている。でも、そんなことを言っている場合じゃない。今のアンジュー家には男手が必要なんだ。
 分かっている。分かっているのに、ザール君のことがちらついてしまう。ザール君は私とお母様を助けてくれた。そして、あの日のことを憶えていた…
 いや、淡い期待をしたって馬鹿を見るだけだ。きっとザール君には素敵な恋人がいるのだろう。あんなに逞しい勇者になっているのだから。分かっている。分かっているのに…

「見つけたよ、リザ」

 その瞬間、私の背後で聞き覚えのある声がした。振り返ると、そこにはザール君がいた。

「ザール君!?どうしてここに…」
「館を訪問したら、君のお母様に、リザならここにいると言われたんだ」
「た、旅はしなくていいの?」
「しばらくはこの地に留まろうと思っているんだ。君たち親子の様子も心配だから」

 ザール君はゆっくりと私の方へと歩いてくる。

「隣、いいかな?」
「うん」

 そして、ザール君は私の隣に腰を下ろした。そこから私とザール君は他愛無い話をした。初めて会った時の思い出話に花を咲かせた。あたりはすっかり夕焼けに染まっていた。

「もう帰らないとね」
「なあ、リザ」
「何?ザール君」
「また会いに来てもいいか?」

 ザール君は少し恥ずかしそうに俯いている。そんな風にされると、私もドギマギしてしまう。

「…うん。いいよ」

 私は今できる精一杯の返事をした。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

もう、追いかけない

恋愛 / 完結 24h.ポイント:497pt お気に入り:3,447

【完結】【R18】伯爵夫人の務めだと、甘い夜に堕とされています。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:440pt お気に入り:580

人妻六英雄は自ら股を開く

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:344

ごきげんよう、元婚約者様

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,349pt お気に入り:177

夫には愛人がいます

恋愛 / 完結 24h.ポイント:32,938pt お気に入り:296

こっそりと仕返してから、公認で愛人持ちますね。

恋愛 / 完結 24h.ポイント:603pt お気に入り:1,056

幼馴染と結婚したけれど幸せじゃありません。逃げてもいいですか?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:99pt お気に入り:1,458

側室は…私に子ができない場合のみだったのでは?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:518pt お気に入り:17

処理中です...