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第一章 私が婚約をするまで
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※
今日は私の人生最悪の日だ。
「ぐああ!フロラブィ…リザベット…」
「そんな!お父様!」
「ああ…あなた!なんてこと…」
「ぐはは!この道を通ったことが運の尽きよ」
隣国への外遊に向かう道中、私たちアンジュー家は盗賊団の襲撃を受けた。盗賊達は腕が立つようで、従者たちでは相手にならなかった。そしてたった今、私たちを守ろうと戦ったお父様の命までをも奪ってしまった。
今生きているのは、私とお母様だけ。どうしてなの?さっきまでは、みんな幸せそうに笑っていたじゃない。
私も戦わないと。ダメだ。身体に力が入らない。息も苦しくなって、身体が震える。
「2人は丁重に扱えよ!貴族の美女となりゃ高値で売買できらぁ!」
ああ、おぞましい。抵抗しないと。このままでは…分かっている。分かっているのに身体が言うことを聞かない。
誰か…誰か…助けて…
その時だった。後ろで盗賊の野太い断末魔が響いた。
振り向くと、地面に突っ伏している盗賊と、大きな剣を持った屈強な体躯の男性がいた。その男性は清潭な顔立ちをしていて、目は怒りに燃えている。
「な、なんだぁ!?」
「貴様らの鬼畜の所業、見過ごすわけにはいかぬ」
「そ、その剣!てめぇ!もしや、ゆ、勇者ザールか!?」
「問答無用!」
ザールと呼ばれた男は、素早い身のこなしで、次々と屈強な盗賊達を薙ぎ倒していった。あれだけ強かった盗賊達がいとも簡単に倒れていく。
ザール…巷で話題になっている勇者の名だ。でも私にとっては、それだけじゃない。ああ、この人はもしかして…
※
いつの間にか、盗賊達は全滅していた。お母様は私と同じように、勇者様の強さに呆気に取られている。勇者様は背中の鞘に大剣を納めて、私たちにゆっくりと近づき、そして、ひざまづいた。
「御婦人、お怪我はありますか」
「い、いえ…」
「私はザールと申します」
「アンジュー家当主夫人、フロラブィと申しますわ…」
先ほどの戦闘時とは一転して、勇者様の紳士的な態度で私たちに接してくれている。思わずお母様もたじろいだようで、か細い声で挨拶をした。私も名乗らないと。
「アンジュー家当主子女、リザベットと申します」
「フロラブィ夫人、リザベット嬢、今回のこと、お悔やみ申し上げます。もう少し早く、私がここに通りかかっていましたら…」
「勇者様のせいでは御座いませんわ!」
私が思わず強い口調で否定してしまった。そうだ。勇者様のせいじゃない。悪いのはアイツらなんだ。
3人の間にやり切れない沈黙が流れている。その沈黙を破ったのは勇者様だった。
「…街に戻りましょう。私が警護致します。ひとまず、近くの村で馬を借りましょうか」
今日は私の人生最悪の日だ。
「ぐああ!フロラブィ…リザベット…」
「そんな!お父様!」
「ああ…あなた!なんてこと…」
「ぐはは!この道を通ったことが運の尽きよ」
隣国への外遊に向かう道中、私たちアンジュー家は盗賊団の襲撃を受けた。盗賊達は腕が立つようで、従者たちでは相手にならなかった。そしてたった今、私たちを守ろうと戦ったお父様の命までをも奪ってしまった。
今生きているのは、私とお母様だけ。どうしてなの?さっきまでは、みんな幸せそうに笑っていたじゃない。
私も戦わないと。ダメだ。身体に力が入らない。息も苦しくなって、身体が震える。
「2人は丁重に扱えよ!貴族の美女となりゃ高値で売買できらぁ!」
ああ、おぞましい。抵抗しないと。このままでは…分かっている。分かっているのに身体が言うことを聞かない。
誰か…誰か…助けて…
その時だった。後ろで盗賊の野太い断末魔が響いた。
振り向くと、地面に突っ伏している盗賊と、大きな剣を持った屈強な体躯の男性がいた。その男性は清潭な顔立ちをしていて、目は怒りに燃えている。
「な、なんだぁ!?」
「貴様らの鬼畜の所業、見過ごすわけにはいかぬ」
「そ、その剣!てめぇ!もしや、ゆ、勇者ザールか!?」
「問答無用!」
ザールと呼ばれた男は、素早い身のこなしで、次々と屈強な盗賊達を薙ぎ倒していった。あれだけ強かった盗賊達がいとも簡単に倒れていく。
ザール…巷で話題になっている勇者の名だ。でも私にとっては、それだけじゃない。ああ、この人はもしかして…
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いつの間にか、盗賊達は全滅していた。お母様は私と同じように、勇者様の強さに呆気に取られている。勇者様は背中の鞘に大剣を納めて、私たちにゆっくりと近づき、そして、ひざまづいた。
「御婦人、お怪我はありますか」
「い、いえ…」
「私はザールと申します」
「アンジュー家当主夫人、フロラブィと申しますわ…」
先ほどの戦闘時とは一転して、勇者様の紳士的な態度で私たちに接してくれている。思わずお母様もたじろいだようで、か細い声で挨拶をした。私も名乗らないと。
「アンジュー家当主子女、リザベットと申します」
「フロラブィ夫人、リザベット嬢、今回のこと、お悔やみ申し上げます。もう少し早く、私がここに通りかかっていましたら…」
「勇者様のせいでは御座いませんわ!」
私が思わず強い口調で否定してしまった。そうだ。勇者様のせいじゃない。悪いのはアイツらなんだ。
3人の間にやり切れない沈黙が流れている。その沈黙を破ったのは勇者様だった。
「…街に戻りましょう。私が警護致します。ひとまず、近くの村で馬を借りましょうか」
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