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第1章 擬装された封印
第2話 消えた記憶、消えない想い - 黒い塊を壊せ -
しおりを挟むユウヤさまの口から発せられたお言葉は。
「レイラさま。これより他に、貴女さまを生かす道はございません。封印を拒否なさるなら、討伐を受け入れていただかなくてはなりません。
…ですが、討伐は消滅を意味します。それは絶対に避けなければなりません。封印だけが最後の望みなのです。
受け入れ難いことは承知のうえで申し上げます。封印を受け入れてくださいませ」
なにを仰っているのでしょう?
わたくしの恨み。憎しみ。
ここに至るすべての過程を、ユウヤさまはご覧になっている。
最大の嘆きが貴方さまだったことも、ご存じのはず。
- 討伐されたくなければ、封印を受け入れろと? -
確かにユウヤさまは生きておられた。
だからと言って、ユウヤさまが現れれば、わたくしが人間の罪をすべてが許し、封印を受け入れるとでも? 他の狭姫族の皆の生死すらわからぬのに?
- ユウヤさま?
…死にかけたショックで、頭がネジが数本吹っ飛んでしまわれたのですか?
誰も知らぬ土地を見つけ、結界を設け、共に生きる。狭姫族の生き残り…例え僅かであっても…、繋ぎの取れる日を待つ。帰るその日を待つ。
わたくしは、ユウヤさまからそのようなお言葉を頂けるとばかり思っておりました。
貴方さまだけはお味方だと。
それが、封印か討伐かと…。
なるほど。貴方さまもやはり人間だったのですね。そうであればそのように考えるのも納得です。
重ねて申します。どちらも受け入れる義理はございません。それが例え、ユウヤさまの手によって為されるのだとしても、です。 -
私の答えに、ユウヤさまは目を瞑りました。
そして、諭すように仰います。
「いまのレイラさまは、何も見えてらっしゃらないのです。絶大な力を持つ貴女さまが、狭姫族の皆が、どのような経過でこのような窮地に陥ったか、貴女さまも身を以てご存知でしょう?」
それは…確かに。
小賢しい人間にまんまと嵌められ、魔族と戦わされ、あのような手段によって力を奪われ、拘束された。
ただこの力を、人間の意のままにしたいがために。
- 同じ手を二度食らうなど、愚かな真似は致しません。
わたくしは力を取り戻しております。人間の本性もはっきりと見極めました。あのような愚かな計画、卑劣な罠に引っ掛かる可能性など、万に一つもございません。
…例えユウヤさまであっても、討伐や封印を迫られるのであれば、この場で戦うことも厭いません。 -
如何に強くとも、生身の人間のユウヤさま。
多少手心を加えてしまうかも知れませんが、長くとも数分でそのお命を頂戴することだって、造作もありません。
これは、最後通牒でございます。
ユウヤさまですから特別に、考える時間を差し上げましょう。
いま去るのならば、見逃して差し上げましょう。
しかし、ユウヤさまは仰いました。わたくしをまっすぐに見つめて。
「レイラさま。私は貴女さまを討伐するつもりはございません。討伐するくらいならば、喜んで貴女に討たれましょう。
しかし。
しかしでございます。
人間を甘く見てはなりません。確かに貴女は大国を数日で滅ぼしました。
…けれども貴女はたった一人。
人間はこの地上に数千万とおります。
一人一人の力は弱くとも、人間は集団で戦略を立て、集団で統率をとり戦う知能を有しております。
裏をかき、策を弄することも軽々とやってのけます。
力を発する時間に限りがあり、補う時間が必要な貴女を、時を見計らい攻勢を仕掛けるなど、造作もないことなのです。
いま封印と申しますのは、そうでもしなければ貴女さまが本当に死んでしまう…
そのような事態は絶対に回避しなければならないのです!」
わたくしを討てない。わたくしを討つくらいなら、自分が討たれよう。
ユウヤさまは、まっすぐわたくしを見つめ、そう仰いました。
少しだけ、胸が温かくなりました。
でも。
あとに続いたお言葉は、折角灯った温かさを急速に冷やしました。
攻撃の無い折を見計らい、一斉に攻勢をかける。ええ。そうするでしょうね。数だけは多い人間、その作戦は最適解と言えましょう。
愚かなユウヤさま。それくらいは見越しておりますわ。
休む間は結界を展開しております。人間など、近づくことすらかないません。
いまは、ユウヤさまなればこそ結界を開けました。
他の方ならばそんなことは致しません。
それに、ユウヤさまがお持ちの器。それは永遠の封印…例え天変地異が起きようとも、例え神々であっても解くことができない、「完全封印」の器でしょう?
完全封印は、「寿命」の概念の無い、道を外した天上界の神や、アンデットのような生命を持たぬ者の活動を、永遠に止める目的として作られたものです。
彼らにとっては討伐道具を意味しているのです。
そんな完全封印と討伐。何の違いがございましょうか?
- 仰りたいことは理解いたしました。しかしいままで、休息時の結界が破られたことはございません。破ろうとした者はすべて、死を与えておりますわ。わたくしが人間に討たれるなど万に一つも…
「それが間違っているのです!」
ユウヤさまが叫ぶように仰いました。
間違っている?何を指しておられるのですか?
わたくしが動き出してからは、誰も影すら追えなかったでしょう。結界に手の触れられるところまで近づけた者も、ユウヤさま以外にはいらっしゃらないのですよ?
「貴女さまは、守られていたのです!」
守られていた?何をおっしゃっているの?
そんなことがあったとしても、誰に?…神々でございましょうか?
しかし神々の声は、もはや数千年前から届いておりません。
「違います。お忘れですかレイラさま。
ある一人の人間でございます。
川に流され森の中の川岸に打ち上げられていた貴女さまを、お救いになった魔術師でございます」
人間?
人間が、完全に力を復活させたわたくしを守る?
狭姫族を人間が守る?
そのようなこと万に一つも…
「レイラさま。貴女さまがこの世界を炎と破壊に包むため動き出したあと、幾つか焦土とすることが出来なかった地がございますね?
一つは、私との思い出の場所の数々。そしてもう一つ。何故か、旧王国の南の森の一部だけは、焼き尽くされることはなかった。全く害が及ばなかった。しかも、周辺が焼け野原になった後、その森は無数の薬草が絶え間なく育つようになった。
ご自身が焼き尽くさなかった森があることを、覚えていらっしゃいませんか? 私はその噂を耳にした時確信したのです。
何らかの理由により、レイラさまの記憶からは消えているかもしれないが、あの森に何か大事なものがあったのではないか、と」
確かに、ユウヤさまとの思い出の深い数々の場所。それはわたくしにとっての聖地です。ゆえに、破壊はしませんでした。
そして、もう一つの場所…何もない森ではありましたが、何故か心に引っ掛かりを覚え、焼き払うことができませんでした。
「レイラさまとお会いする前の事です。私はその森であるお方とお会いしました。そして破壊が始まった後、再びそのお方とお会いしました。その時、その方がレイラさまとお会いした、と。
レイラさま。思い出せませんか?」
記憶の片隅を探ります。
ふと、記憶の繋がりの中に、黒い黒い塊のようなものが鎮座し、時間の繋がりを分断しております。
これは何でしょう?とても気持ちが悪い塊です。この塊を開かねば。
意識を集中し、塊に様々な術をかけ開封を試みます。
精巧で、解析に苦労しますね。
開封の術に、複合と組み換えが必要なようです。難しい術ではありませんが、高い精度と練度で構成されています。
次第に手ごたえが返ってきます。
…ん?んん???
塊の前後の記憶が、変わっていく…
変わった光景は、前後が分断され、全く繋がりません。
この間にある塊を崩さねば…
更に意識を集中させると…
次第に塊が霧となり、その向こうにぼんやりと、ある一晩の光景が浮かび上がりました。
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