上 下
278 / 287

277話「深階層班(その8)・強敵」(視点・ヒロヤ→アスカ→ヒロヤ→リズ)

しおりを挟む
「デカい……な……」

 扉もない、巨大なホールを覗き込んだリズがポツリと呟く。

「これ……絶対転移してくるやつだよ──」

 カズミも入り口から顔だけを出して覗き込んでいる。

「──とはいえ問題は……」
「だね。『何が転移してくるか』だよね」

 カズミの後ろからレナも覗き込む。

「「ひぃっ!」」

 アルダとメルダがまた抱き合って怯える。……かなりトラウマなんだろうな。

「俺が行くよ」
「アタシも行こう」

 俺とアスカがホールへと足を踏み入れる。

「お二人だけでは危険です。ここはキチンと対策を考えてから……」
「そうだよ。ヒロヤ兄ちゃんもアスカちゃんも少し待って」

 ドロシーが俺の腕を掴み、マルティナはアスカの腰にしがみついて止めた。

「レナ──」

 腕を組んで考え込んでいたリズが口を開く。

「──ヒロヤとアスカに『風の防御』を。矢が当たらないようにな」
「わかった」

 レナが頷く。

「カズミは攻撃魔術の準備、他のみんなはクロスボウで援護するよ」

 リズの指示にみんな頷いた。

「アンタらに任せるよ。──気をつけてな」

 リズが、俺とアスカの肩を叩いた。

「あぁ」
「アタシとヒロヤなら、オークの100や200ぐらい蹴散らしてみせよう」

 俺とアスカは頷き合って、ホールの中へと入った。



 ゆっくりとホールの中央へと進んでいく。入り口を振り返ると、リズ達がやや緊張気味にホールのあちこちに注意をはらっている。

 やがてホールの中央へと到着した。俺とアスカは背中合わせになり、腰の刀に手を置いて周囲を警戒する。

「ヒロヤくん! 来るよ!」
「足元! なにか光ってる!」

 レナとマルティナの悲鳴にも似た警告がホールに響く。
 俺とアスカは直ちにその場を飛び退いた。見れば、床に魔術陣が現れて眩い光を放っていた。その光の大きさに、もう一度飛び退る。そして現れた巨大な影。

「な……!」

 アスカが驚愕の呻き声を上げた。その影が、はっきりと姿を現した。

「牛鬼……だと!?」

 アスカが刀を抜き放つ。確かに顔は牛のそれ。その隆々とした筋肉と巨大な身体は人のそれ。4~5mはありそうだ。 手には巨大な両刃斧……あれを食らったら即死だな。

(あれだ……ミノタウロスってやつだ……)

 前世で見たファンタジー物の小説やゲームには欠かせないモンスター。

防御プロテクション、風!」
炎の矢ファイヤーアロー!」
「全員! 斉射!」

 俺の周囲で風が渦巻く。そしてカズミの攻撃魔術は両刃斧の一閃で叩き落とされ、矢の一斉射撃はその身体に『刺さらない』!

(皮膚がかなり硬いのか……)

 牛鬼の巨体の向こう側に見えるアスカと目配せして、同時に攻撃を仕掛ける。

「「身体強化フィジカルブースト!」」

 俺は床を蹴って牛鬼の左脚目掛けて飛び掛る。アスカは反対側に突きを繰り出している。
 牛鬼は振りかぶった両刃斧を俺めがけて振り下ろしてくる。巨大な体格とは裏腹に、その速度は速い。

(この一撃は躱さないと……)

『父さんの力』でギリギリで躱して攻撃へと移る……つもりだったけど。
 両刃斧が床に叩きつけられ、床に敷かれた石畳を粉砕する。

(マズい……ギリギリ過ぎたか!)

 足元の床まで粉砕され、バランスを崩す。左脚への攻撃を諦めて、俺は再び距離を取った。

 ■□■□■□■□

<i658243|38618>

(アタシの『突き』が……通らないっ!?)

 牛鬼の右脚へ放った渾身の突きが、その厚い表皮によって弾かれる。



『牛鬼』。モンスターレベルAの、恐らくは人型モンスターの中でも最強の種。アタシも見るのは初めてだ。というか『ウェルニア大迷宮』の十五階層で遭遇報告があったというのを聞いたっきりだ。そもそも……この階層で出現していたのはホブゴブリン程度だったのに、フロアボスとはいえ何故このような強力なモンスターが──



 全力の突きが弾かれ、牛鬼の懐で体勢を崩してしまった。幸い、牛鬼はヒロヤの方へと両刃斧を振り下ろしたところだ。この隙になんとか距離を取ろうとした時……

──ゴォォォッ!

 風切音とともに、牛鬼が振り回した左腕がアタシに襲い掛かる。

(ダメだ……避けきれないっ!)

 なんとか両腕を上げて、その一撃を受け止める。

「ぐはっ!」

 レナが掛けてくれた風の防御(プロテクション)でいくらかのダメージは抑えられたものの、着込んでいる『鎖帷子』の砕ける音とともに、アタシはその一撃に吹っ飛ばされた。
 身体が地面に叩きつけられ、そのままホールの隅に転がっていき……壁で頭部を強かに打ち付けたのか、そのまま意識を失った。

■□■□■□■□

「アスカーーーーッ!」

 牛鬼から距離を取った俺の目に、牛鬼の一撃でホールの隅にぶっ飛ばされたアスカの姿が。

(牛鬼の身体が開いている隙に!)

 もう一度駆け出し、完全に背中を向けている牛鬼の右脚に斬りかかる。
 駆け抜けざまに『闇斬丸』を抜刀して、その膝裏に叩き込む。が──

(深く斬り込めないっ!)

 恐らくは表皮をようやく斬り込んだ程度。切断どころか、肉までも達していない。
 納刀して、再度突っ込む。
 振り返った牛鬼が、再び両刃斧を振り上げた。

(一か八か──!)

 さっきよりは距離を取って躱す。『父さんの力』で予知した通りの場所に叩きつけられた両刃斧を大きく躱した俺は、その太い腕を踏み台にして飛び掛り、牛鬼の首を捉えた。

(ここならっ!)

 身体を捻り、抜刀から狙い違わずその首へと『闇斬丸』を叩き込んだ。
 しかし、その鈍い手応えにそのまま頭部を蹴り飛ばして跳躍、牛鬼と距離を取る。
 アスカには、どうやらドロシーとマルティナがカバーに入ってくれたようだ。しかし、牛鬼の注意は俺が引き続けなきゃならない。

「「炎球ファイヤーボール!」」

 レナとカズミからスイカ大の火球が放たれ、牛鬼の頭部へと飛翔した。
 牛鬼は両腕で顔を庇い、その腕で火球が爆発する。

──グモォォォォォ!

 悲鳴なのか怒りなのか、咆哮を上げる牛鬼。しかし、両腕が焼け爛れたものの使用不能な程のダメージではなさそうだ。

「私の最高魔術なのに!」

 カズミが悔しそうに地団駄を踏むのが見える。ただ──

(勝機が……見えた!)

 俺は身体を沈め『闇斬丸』に手を添えた。

■□■□■□■□

(アスカが……一撃で……!?)

 皮膚が硬く、矢が通らない。アタイはなんとか『目』を貫いてやろうと狙うものの、前に張り出した『角』に幾度も弾かれる。
 そんな感じで、援護しあぐねているところで……アスカが牛鬼の一撃で吹っ飛ばされた。

「わたしがアスカさんをカバーします」
「あたしも行く!」

 ドロシーとマルティナがアスカの元へと走る。幸いにも、牛鬼はヒロヤが相対してくれている。

「頼んだよ! アルダ、メルダはカズミとレナを死守!」
「「もちろん!」」
「カズミとレナは、自分のタイミングでいいから、牛野郎に攻撃魔術をぶち込んでやりな!」
「「おっけ!」」
「ウーちゃんはどうするです?」

 必死で『複合弓コンポジットボウ』で狙いをつけるアタイを、メイド姿のウーちゃんが見上げてた。

「ヒロヤを……応援してやってくれ」

 アタイの言葉に、笑顔で頷いたウーちゃんが大声で叫んだ。

「ヒロヤ様ぁ! 牛なんて斬り刻んでやるです!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

落ち込んでいたら綺麗なお姉さんにナンパされてお持ち帰りされた話

水無瀬雨音
恋愛
実家の花屋で働く璃子。落ち込んでいたら綺麗なお姉さんに花束をプレゼントされ……? 恋の始まりの話。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

一夏の性体験

風のように
恋愛
性に興味を持ち始めた頃に訪れた憧れの年上の女性との一夜の経験

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...