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269話「深階層班(その2)」
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第三階層の『徘徊するモンスター』は主にハイゴブリン、ハイオーク、ハイコボルトの三種類。三~五体編成に遭遇する。
アルダの『ドワーフとしての探知能力』とレナ、ドロシーいずれかの『探知』で発見。素早く左右に展開して矢を射掛けるいつものフォーメーション。
流石に以前クランメンバー全員で突入した時より遠距離火力不足は否めないが、それでもクロスボウが八丁……いや、マルティナは二丁使いだから九丁か。それに加えてリズの複合弓とドロシーの長弓という火力。これでほぼケリがつく。
よしんばそれを掻い潜った敵が居ようが、俺とアスカの近接戦闘で瞬殺。
「ふむ──まだアタシたちを手こずらせるようなモンスターは出ないね」
空を斬り、血糊を飛ばしてから刀を鞘に納めるアスカ。
「だね。殆ど待ち伏せによる遠距離火力の集中で片付いてるし」
魔石を拾い上げながら応える俺。
「でも、そろそろ矢を温存し始めたほうがいいかもしれないね」
リズは矢を拾い上げ、再利用できる物を集めている。
「マルティナとアルダも斥候として前にいる事だし、前衛はヒロヤとアスカでしょ? 三体以下なら任せちゃった方が良いかもね」
カズミが集めた魔石をウーちゃんに手渡す。
「そうですね。わたし達はまだしも、リズさんの正確無比な弓術は、手強い相手に温存した方がいいかもしれません」
「そうよね。いざ強敵! って時に、リズの矢が尽きてたとか意味ないよ?」
ドロシーとレナの指摘に、リズが「確かに」と頷く。
「リズちゃんは『援護射撃』に専念すればいいんだよ」
「うむ。アタシ達前衛の戦いを注意して見て、危うい時に射掛けて貰えると安心できる」
確かにメルダとアスカの言う通りだ。俺も何度かリズの正確な援護に助けられた憶えがある。
「よし、じゃあそうしようか。──遭遇戦にしろ、室内戦にしろ、三体程度なら前衛に任せるよ」
そう言って俺とアスカに向き直るリズ。俺達は頷き返した。
「ハイクラス……ううん、ホブゴブリンぐらいならアルダとマルティナちゃんと二人で一体相手できるし」
「ウンウン。後はヒロヤ兄ちゃんとアスカちゃんに任せちゃうけどね」
「ねー!」っと頷きあうアルダとマルティナ。
使えそうな矢を回収し、それぞれ武器等の点検を済ませた俺達は、さらに回廊を進んでいった。
◆
「アルダちゃんがあんな事言うから……」
第三階層に降りて五つ目の部屋の前、粗末な木の扉を調べたマルティナがため息をつく。
「鍵も罠も無し。中には……多分ホブゴブリンクラスの大きさのモンスターが三体」
小さな声でマルティナが報告する。
「え? アルダのせい?」
キョトンとするアルダ。
「アルダ──さっき言ったみたいな事を『フラグ』って言うのよ」
カズミが笑う。
「『ホブゴブリンぐらいならアルダとマルティナちゃんと二人で一体相手できるし』とか言ってたろ? そしたらこうやって直ぐにホブゴブリンに遭遇する事になったよね。それを『フラグを回収する』って言うんだ」
まだ良くわからないという顔をしているアルダに、俺が説明してやった。
「な……なるほど!」
「まぁ、以前ゴージュが言った『死亡フラグ』とか言うやつより全然マシだがな」
思い出したのかアスカが笑う。
「さて、どう攻めるリズ」
そう言って刀の柄をグッと握るアスカ。
「そうだね……ホブゴブリン三体なら、さっきアルダが言ってた戦力分けで当たればいいか……」
一体にマルティナとアルダが当たり、俺とアスカが一体ずつ当たるってやつか。
「なら、れなが一体を魔術で抑えようか?」
「うん、それでいこうよ。あとは状況見て私の魔術やリズの弓で援護を」
レナ、カズミの意見にリズが頷く。
「よし、それで行こう。メルダとドロシーは後衛の守りを。──ドロシーは状況を見て、もし前衛が危なそうなら近接戦闘に参加するつもりで」
「了解しました」
「任せて!」
リズの指示に、ドロシーとメルダが頷いて少し後ろに下がる。
「よし、じゃあ突入はアンタらのタイミングに任せるよ」
リズの言葉を受け、俺、アスカ、マルティナ、アルダはお互い目で合図し合ってから……アスカが扉を蹴破った。
◆
「氷の束縛!」
レナが魔術を行使し、三体いるホブゴブリンの一体の足元が凍りつく。
そちらをマルティナとアルダに任せ、俺とアスカは残った二体に向かう。
(初撃を躱して、脚を狙う……!)
父さんから貰った『力』を発動する。ホブゴブリンの実像とは別に、ズレた様な動きの像が浮かび上がる。
(これが、相手の『一瞬先の動き』……)
ホブゴブリンに接近し、サイドステップで右に身体を逸したところに棍棒が叩きつけられる。地面が土煙を上げた。
すかさず接敵し、駆け抜けざまに膝を抜き撃ちに一閃する。
いつものように納刀はせず、振り返ってもう片方の膝を斬る。動きが予測出来るようになった事で生まれた余裕を最大限に利用する。
両脚を喪い、倒れたホブゴブリンの首を切り落としてとどめを刺す。
マルティナとアルダに目をやると、脚を拘束されているホブゴブリンの背後に回り込んで足元を徹底的に攻撃していた。
「大丈夫そうだな」
いつの間にか隣りに居たアスカが、涼しい顔で刀を納める。
「流石に速いね」
「初撃を躱して、喉元を一撃さ」
そんな会話をしているうちに、アルダが膝に重いハンマーの一撃を放ち、堪らず膝をついたホブゴブリンの首をショートソードでマルティナが掻き切った。
◆
「ホブゴブリンぐらいじゃ準備運動にもならないか」
部屋に入ってきたリズが笑う。
「ヒロヤくん、一段と速くなったんじゃない?」
レナが呆れたように俺を見上げた。
「まぁ、ちょっとね」
「前にいってた『前世のお父様から頂いた力』ってやつ?」
カズミが腕にしがみついて訊いてきた。
「うん。『身体強化』と『浩哉の力』を使わなくてもオットーを打ち倒す切り札になりそうなんだ」
「そうなんだ! それはS級ダンジョンアタック考えると朗報だね!」
俺の腕を力いっぱい抱き締めて微笑むカズミ。……うん。柔らかい胸に当たって変な気持ちになるから冒険中はやめようねカズミさん。
「戦利品は、なんかコインの入った袋だったよ」
箱を解錠していたマルティナが袋と中のコインを手のひらにのせて見せに来た。
「ふーん。金貨もあるからそこそこ良い戦利品だね」
リズがコインを手にとって眺める。
「見たことのないデザインですね。どこの地域のものかもわかりません」
ドロシーが横から覗き込んでいる。
「ふむ、純度も高そうだから……貴金属としての価値もありそうだよ」
メルダも一つ手に取る。
「いいお宝だね。これは俄然やる気が出てくるよ」
リズがコインを返し、マルティナはコインの袋をウーちゃんに手渡した。
「さぁ、先を進もうか」
俺達は部屋の奥の扉へと進んだ。
アルダの『ドワーフとしての探知能力』とレナ、ドロシーいずれかの『探知』で発見。素早く左右に展開して矢を射掛けるいつものフォーメーション。
流石に以前クランメンバー全員で突入した時より遠距離火力不足は否めないが、それでもクロスボウが八丁……いや、マルティナは二丁使いだから九丁か。それに加えてリズの複合弓とドロシーの長弓という火力。これでほぼケリがつく。
よしんばそれを掻い潜った敵が居ようが、俺とアスカの近接戦闘で瞬殺。
「ふむ──まだアタシたちを手こずらせるようなモンスターは出ないね」
空を斬り、血糊を飛ばしてから刀を鞘に納めるアスカ。
「だね。殆ど待ち伏せによる遠距離火力の集中で片付いてるし」
魔石を拾い上げながら応える俺。
「でも、そろそろ矢を温存し始めたほうがいいかもしれないね」
リズは矢を拾い上げ、再利用できる物を集めている。
「マルティナとアルダも斥候として前にいる事だし、前衛はヒロヤとアスカでしょ? 三体以下なら任せちゃった方が良いかもね」
カズミが集めた魔石をウーちゃんに手渡す。
「そうですね。わたし達はまだしも、リズさんの正確無比な弓術は、手強い相手に温存した方がいいかもしれません」
「そうよね。いざ強敵! って時に、リズの矢が尽きてたとか意味ないよ?」
ドロシーとレナの指摘に、リズが「確かに」と頷く。
「リズちゃんは『援護射撃』に専念すればいいんだよ」
「うむ。アタシ達前衛の戦いを注意して見て、危うい時に射掛けて貰えると安心できる」
確かにメルダとアスカの言う通りだ。俺も何度かリズの正確な援護に助けられた憶えがある。
「よし、じゃあそうしようか。──遭遇戦にしろ、室内戦にしろ、三体程度なら前衛に任せるよ」
そう言って俺とアスカに向き直るリズ。俺達は頷き返した。
「ハイクラス……ううん、ホブゴブリンぐらいならアルダとマルティナちゃんと二人で一体相手できるし」
「ウンウン。後はヒロヤ兄ちゃんとアスカちゃんに任せちゃうけどね」
「ねー!」っと頷きあうアルダとマルティナ。
使えそうな矢を回収し、それぞれ武器等の点検を済ませた俺達は、さらに回廊を進んでいった。
◆
「アルダちゃんがあんな事言うから……」
第三階層に降りて五つ目の部屋の前、粗末な木の扉を調べたマルティナがため息をつく。
「鍵も罠も無し。中には……多分ホブゴブリンクラスの大きさのモンスターが三体」
小さな声でマルティナが報告する。
「え? アルダのせい?」
キョトンとするアルダ。
「アルダ──さっき言ったみたいな事を『フラグ』って言うのよ」
カズミが笑う。
「『ホブゴブリンぐらいならアルダとマルティナちゃんと二人で一体相手できるし』とか言ってたろ? そしたらこうやって直ぐにホブゴブリンに遭遇する事になったよね。それを『フラグを回収する』って言うんだ」
まだ良くわからないという顔をしているアルダに、俺が説明してやった。
「な……なるほど!」
「まぁ、以前ゴージュが言った『死亡フラグ』とか言うやつより全然マシだがな」
思い出したのかアスカが笑う。
「さて、どう攻めるリズ」
そう言って刀の柄をグッと握るアスカ。
「そうだね……ホブゴブリン三体なら、さっきアルダが言ってた戦力分けで当たればいいか……」
一体にマルティナとアルダが当たり、俺とアスカが一体ずつ当たるってやつか。
「なら、れなが一体を魔術で抑えようか?」
「うん、それでいこうよ。あとは状況見て私の魔術やリズの弓で援護を」
レナ、カズミの意見にリズが頷く。
「よし、それで行こう。メルダとドロシーは後衛の守りを。──ドロシーは状況を見て、もし前衛が危なそうなら近接戦闘に参加するつもりで」
「了解しました」
「任せて!」
リズの指示に、ドロシーとメルダが頷いて少し後ろに下がる。
「よし、じゃあ突入はアンタらのタイミングに任せるよ」
リズの言葉を受け、俺、アスカ、マルティナ、アルダはお互い目で合図し合ってから……アスカが扉を蹴破った。
◆
「氷の束縛!」
レナが魔術を行使し、三体いるホブゴブリンの一体の足元が凍りつく。
そちらをマルティナとアルダに任せ、俺とアスカは残った二体に向かう。
(初撃を躱して、脚を狙う……!)
父さんから貰った『力』を発動する。ホブゴブリンの実像とは別に、ズレた様な動きの像が浮かび上がる。
(これが、相手の『一瞬先の動き』……)
ホブゴブリンに接近し、サイドステップで右に身体を逸したところに棍棒が叩きつけられる。地面が土煙を上げた。
すかさず接敵し、駆け抜けざまに膝を抜き撃ちに一閃する。
いつものように納刀はせず、振り返ってもう片方の膝を斬る。動きが予測出来るようになった事で生まれた余裕を最大限に利用する。
両脚を喪い、倒れたホブゴブリンの首を切り落としてとどめを刺す。
マルティナとアルダに目をやると、脚を拘束されているホブゴブリンの背後に回り込んで足元を徹底的に攻撃していた。
「大丈夫そうだな」
いつの間にか隣りに居たアスカが、涼しい顔で刀を納める。
「流石に速いね」
「初撃を躱して、喉元を一撃さ」
そんな会話をしているうちに、アルダが膝に重いハンマーの一撃を放ち、堪らず膝をついたホブゴブリンの首をショートソードでマルティナが掻き切った。
◆
「ホブゴブリンぐらいじゃ準備運動にもならないか」
部屋に入ってきたリズが笑う。
「ヒロヤくん、一段と速くなったんじゃない?」
レナが呆れたように俺を見上げた。
「まぁ、ちょっとね」
「前にいってた『前世のお父様から頂いた力』ってやつ?」
カズミが腕にしがみついて訊いてきた。
「うん。『身体強化』と『浩哉の力』を使わなくてもオットーを打ち倒す切り札になりそうなんだ」
「そうなんだ! それはS級ダンジョンアタック考えると朗報だね!」
俺の腕を力いっぱい抱き締めて微笑むカズミ。……うん。柔らかい胸に当たって変な気持ちになるから冒険中はやめようねカズミさん。
「戦利品は、なんかコインの入った袋だったよ」
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「ふーん。金貨もあるからそこそこ良い戦利品だね」
リズがコインを手にとって眺める。
「見たことのないデザインですね。どこの地域のものかもわかりません」
ドロシーが横から覗き込んでいる。
「ふむ、純度も高そうだから……貴金属としての価値もありそうだよ」
メルダも一つ手に取る。
「いいお宝だね。これは俄然やる気が出てくるよ」
リズがコインを返し、マルティナはコインの袋をウーちゃんに手渡した。
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