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266話「低階層班(その6)」(視点・ギーゼ→グーニラ)
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第二階層のフロアボスへと続く回廊を進む。今回の探索に於ける目標達成と決めた場所だ。
「前回探索終了した『避難部屋』の『転移陣』ってまた使えるのかな?」
ロッタが隣を歩くカリナに訊いているようだ。
「せ、せ、設置した時に決めた……あ、合言葉を唱えて……ま、魔力を消費すれば……だ、だ、大丈夫ですよ……」
「その合言葉って何だったか聞いてる?」
「わ、わ、わたしは……き、聞いてないです……」
「『輝く絆』だ」
自分は少し先を歩くノリスの背中を見ながら会話に割り込んだ。
「ギーゼさん、ちゃんとレナさんに聞いてたんですね」
さすが! と付け加えてロッタが話し掛けてくる。
「帰還時にひょっとすると第三階層『避難部屋』の転移陣を使えるかもしれないと思っていたからな。出立前、レナさんに聞いておいた」
「じゃあ、そこまで行ければ……今回の『転移スクロール』は節約できるわけだ」
「そういう事ですエルダさん」
小金貨一枚のスクロールだ。節約できるならそれにこしたことはない。
「……この先ですね……僕、見てきます」
少し前を歩いていたノリスが振り返ってそう言うと、小走りで回廊の先へと姿を消した。
「自分達は、ここでノリスの報告を待とう」
自分は右手を挙げてみんなに伝える。同時に、クロスボウの用意も指示しておいた。自分とシモーネさんは、今朝グーニラとロミィに渡してしまったので、それぞれ剣の点検をしておく。
「た、大変です! 早く来てください!」
回廊の奥からノリスの声がする。自分はゴージュさんと頷きあうと、前方へと駆け出した。他のみんなもついて来ようとしたので、全員この場で待つようにと伝えた。
◆
「どうした? 何があった?」
フロアボスのホール入り口で立ち尽くしているノリスを見つけて声をかけた。
「あ……あれを……」
ホール内を指差すノリス。その方向を見てみると……
「あ……あれは……」
自分が呟いたのと同時に、ゴージュさんがホールに駆け込んで行った。
「さっきの場所でみんなを待たせてある。呼んできてくれないかノリス……」
自分の指示に頷いて、彼は走っていった。
◆
「……思ったとおりっす……この男たち、グーニラやロミィの雇い主ッスね……」
隣に立った自分を一瞥して、また『それら』に視線を戻すゴージュさん。
自分もホールの隅にある六つの遺体を見下ろす。誰かが弔ったのか、きれいに並んでいる。
「多分、弔った冒険者が持っていってるとは思うッスけど……」
ゴージュさんが膝を付いて、あのリーダーらしい戦士の遺体を探る。
「うん。冒険者カードは無いっすね」
「グーニラとロミィはどうしたと思いますか?」
「……ここに遺体が無いという事は、なんとか逃げる事が出来たんだと思うッスよ」
そう呟いて、ホール入り口へと視線を移すゴージュさん。自分もその視線を追うと、シモーネさん達がホールに入ってくるところだった。
◆
「ここにグーニラとロミィの遺体がないんは、こいつら約束通りあの娘らを守って、なんとか逃してやったんやな」
そう言って、目を瞑り俯くシモーネさん。
「そ、そ、それで……あの娘たちは……ど、ど、どうなったのですか……?」
「わからん。このホールから脱したのは間違いないと思うが……」
今にも泣き出しそうな顔をしたカリナに、そう応えた時、床に何本か落ちているクロスボウの矢に気が付いた。
「これは……エルダの店の矢だよ。グーニラ達が使ったにしては……本数多くない?」
エルダさんが矢を拾い上げて調べたあと、ホール内に散乱してある矢を見渡す。
「リズ達やな」
腕を組んで少し笑うシモーネさん。
「そうか……ちょうど戦闘に出くわしたリズさん達が、ここのフロアボスを倒して……」
「じ、じゃああの娘たち無事なんだね! きっとヒロヤさん達と一緒に居るんだよ!」
「あ、あ、あの冒険者の方々の遺体も……ひ、ひ、ヒロヤ達が弔ったのですね……!」
ノリスとロッタ、カリナの推察はあまりにも楽観的に思えたが、自分もそう信じたい。
「──!」
ノリスが高いホールの天井を見上げる。その表情は真剣だ。ノーちゃんも同じく上を見つめている。
「……なにかがきます! 天井からモンスターが!」
「みんな散らばるの! 大きいのが二つ降ってくるの!」
「全員散開! なるべくホールの隅に!」
ノリスとノーちゃんの声に、自分は即座に指示をだす。ノリスは盗賊としての探知能力、ノーちゃんはスノーウルフとしての勘で感じたのだろう。
新たな『フロアボス』が現れる事を。
■□■□■□■□
何度か、徘徊するモンスターが通ったが……わー達には気付かずに通り過ぎていった。その度に恐怖のあまり身体が震えそうになったが、なんとか抑えることができた。動いてしまってバレたらわーもロミィもお終いだ。
わーもロミィも、隠れながらも何度か微睡みに落ちていた。意識が戻った時、何度も『これが夢だったら……』と思った。が、背中に当たる岩肌の冷たさと、ロミィの温かさで現実だと知る。
もう、どれくらい時間が経っただろう。恐らくは五度目となるモンスターの接近をやり過ごした後、とうとうロミィが泣き出した。
「ぐすっ……グーニラ……あーし、グーニラとなら……もう死んじゃってもいいよ……」
「諦めんな。わー達は必ず助がる」
「でも、ここにじっとしてるだけじゃ……ぐずっ……かといって動くとモンスターに……」
ポロポロと涙を零すロミィ。
「ぜったいに助がる。いづが他の冒険者さ現れる。もす、それまでになにがあったっきゃ──」
わーはロミィの頭を優しく撫でた。
「──わーがロミィさ……かならずだすける」
ロミィはわーを見上げて、涙顔で微笑んだ。
「ごめんグーニラ……うん。助かるよね。絶対生きて帰れるよね!」
「しーっ!」
また足音が聴こえる。少し大きめのモンスターが数体。多分、冒険者達が言ってた『ハイゴブリン』とかいうモンスターだろう。ハイオークの図体ならもう少し大きな足音になるはずだ。
段々と近づいてくる足音に、身を固くするわーとロミィ。
再装填しておいたクロスボウの矢は三本ずつ。わーもロミィも、いつでも発射出来るように身を小さくしながらも両手で構えた。
◆
やがて、足音がすぐ傍で止まる。
(気づかれた……か?)
息を止めて、足音の主たちの次の動きを待つ。
長い時間が経過したように感じる。帆布シートはまだ捲られない。
そして足音が響き、漸く去っていった……。
ホッと胸を撫で下ろした次の瞬間、わー達を覆っていたシートが不意に捲られた。
「前回探索終了した『避難部屋』の『転移陣』ってまた使えるのかな?」
ロッタが隣を歩くカリナに訊いているようだ。
「せ、せ、設置した時に決めた……あ、合言葉を唱えて……ま、魔力を消費すれば……だ、だ、大丈夫ですよ……」
「その合言葉って何だったか聞いてる?」
「わ、わ、わたしは……き、聞いてないです……」
「『輝く絆』だ」
自分は少し先を歩くノリスの背中を見ながら会話に割り込んだ。
「ギーゼさん、ちゃんとレナさんに聞いてたんですね」
さすが! と付け加えてロッタが話し掛けてくる。
「帰還時にひょっとすると第三階層『避難部屋』の転移陣を使えるかもしれないと思っていたからな。出立前、レナさんに聞いておいた」
「じゃあ、そこまで行ければ……今回の『転移スクロール』は節約できるわけだ」
「そういう事ですエルダさん」
小金貨一枚のスクロールだ。節約できるならそれにこしたことはない。
「……この先ですね……僕、見てきます」
少し前を歩いていたノリスが振り返ってそう言うと、小走りで回廊の先へと姿を消した。
「自分達は、ここでノリスの報告を待とう」
自分は右手を挙げてみんなに伝える。同時に、クロスボウの用意も指示しておいた。自分とシモーネさんは、今朝グーニラとロミィに渡してしまったので、それぞれ剣の点検をしておく。
「た、大変です! 早く来てください!」
回廊の奥からノリスの声がする。自分はゴージュさんと頷きあうと、前方へと駆け出した。他のみんなもついて来ようとしたので、全員この場で待つようにと伝えた。
◆
「どうした? 何があった?」
フロアボスのホール入り口で立ち尽くしているノリスを見つけて声をかけた。
「あ……あれを……」
ホール内を指差すノリス。その方向を見てみると……
「あ……あれは……」
自分が呟いたのと同時に、ゴージュさんがホールに駆け込んで行った。
「さっきの場所でみんなを待たせてある。呼んできてくれないかノリス……」
自分の指示に頷いて、彼は走っていった。
◆
「……思ったとおりっす……この男たち、グーニラやロミィの雇い主ッスね……」
隣に立った自分を一瞥して、また『それら』に視線を戻すゴージュさん。
自分もホールの隅にある六つの遺体を見下ろす。誰かが弔ったのか、きれいに並んでいる。
「多分、弔った冒険者が持っていってるとは思うッスけど……」
ゴージュさんが膝を付いて、あのリーダーらしい戦士の遺体を探る。
「うん。冒険者カードは無いっすね」
「グーニラとロミィはどうしたと思いますか?」
「……ここに遺体が無いという事は、なんとか逃げる事が出来たんだと思うッスよ」
そう呟いて、ホール入り口へと視線を移すゴージュさん。自分もその視線を追うと、シモーネさん達がホールに入ってくるところだった。
◆
「ここにグーニラとロミィの遺体がないんは、こいつら約束通りあの娘らを守って、なんとか逃してやったんやな」
そう言って、目を瞑り俯くシモーネさん。
「そ、そ、それで……あの娘たちは……ど、ど、どうなったのですか……?」
「わからん。このホールから脱したのは間違いないと思うが……」
今にも泣き出しそうな顔をしたカリナに、そう応えた時、床に何本か落ちているクロスボウの矢に気が付いた。
「これは……エルダの店の矢だよ。グーニラ達が使ったにしては……本数多くない?」
エルダさんが矢を拾い上げて調べたあと、ホール内に散乱してある矢を見渡す。
「リズ達やな」
腕を組んで少し笑うシモーネさん。
「そうか……ちょうど戦闘に出くわしたリズさん達が、ここのフロアボスを倒して……」
「じ、じゃああの娘たち無事なんだね! きっとヒロヤさん達と一緒に居るんだよ!」
「あ、あ、あの冒険者の方々の遺体も……ひ、ひ、ヒロヤ達が弔ったのですね……!」
ノリスとロッタ、カリナの推察はあまりにも楽観的に思えたが、自分もそう信じたい。
「──!」
ノリスが高いホールの天井を見上げる。その表情は真剣だ。ノーちゃんも同じく上を見つめている。
「……なにかがきます! 天井からモンスターが!」
「みんな散らばるの! 大きいのが二つ降ってくるの!」
「全員散開! なるべくホールの隅に!」
ノリスとノーちゃんの声に、自分は即座に指示をだす。ノリスは盗賊としての探知能力、ノーちゃんはスノーウルフとしての勘で感じたのだろう。
新たな『フロアボス』が現れる事を。
■□■□■□■□
何度か、徘徊するモンスターが通ったが……わー達には気付かずに通り過ぎていった。その度に恐怖のあまり身体が震えそうになったが、なんとか抑えることができた。動いてしまってバレたらわーもロミィもお終いだ。
わーもロミィも、隠れながらも何度か微睡みに落ちていた。意識が戻った時、何度も『これが夢だったら……』と思った。が、背中に当たる岩肌の冷たさと、ロミィの温かさで現実だと知る。
もう、どれくらい時間が経っただろう。恐らくは五度目となるモンスターの接近をやり過ごした後、とうとうロミィが泣き出した。
「ぐすっ……グーニラ……あーし、グーニラとなら……もう死んじゃってもいいよ……」
「諦めんな。わー達は必ず助がる」
「でも、ここにじっとしてるだけじゃ……ぐずっ……かといって動くとモンスターに……」
ポロポロと涙を零すロミィ。
「ぜったいに助がる。いづが他の冒険者さ現れる。もす、それまでになにがあったっきゃ──」
わーはロミィの頭を優しく撫でた。
「──わーがロミィさ……かならずだすける」
ロミィはわーを見上げて、涙顔で微笑んだ。
「ごめんグーニラ……うん。助かるよね。絶対生きて帰れるよね!」
「しーっ!」
また足音が聴こえる。少し大きめのモンスターが数体。多分、冒険者達が言ってた『ハイゴブリン』とかいうモンスターだろう。ハイオークの図体ならもう少し大きな足音になるはずだ。
段々と近づいてくる足音に、身を固くするわーとロミィ。
再装填しておいたクロスボウの矢は三本ずつ。わーもロミィも、いつでも発射出来るように身を小さくしながらも両手で構えた。
◆
やがて、足音がすぐ傍で止まる。
(気づかれた……か?)
息を止めて、足音の主たちの次の動きを待つ。
長い時間が経過したように感じる。帆布シートはまだ捲られない。
そして足音が響き、漸く去っていった……。
ホッと胸を撫で下ろした次の瞬間、わー達を覆っていたシートが不意に捲られた。
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