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226話「充実するギーゼと安堵するシモーネ」

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(ん……あれ? 俺、また寝てた……?)
 
 ギーゼが寝惚けたカリナ姉さんを連れて部屋を出ていったところまでは記憶にあるんだけど……
 
(夢……だったのかな……?)
 
 布団を捲り、自分の下半身を確認してみる。夜着とパンツを脱ぐと、そこから立ち昇るほのかなアルコール臭。
 
(夢じゃなかった……あのギーゼが……)
 
 パーティーでかなり飲んでた彼女。俺に口づけする時も、そのお酒の匂いがした。
 
(理由は良くわからないけど……知らないフリした方が良さそう……だな)
 
 ギーゼが去り際に残した言葉。
 
『ヒロヤ殿……これは夢です……』
 
 多分、ギーゼは俺が最後まで寝ていたと思ってるだろう。なら──
 と、そこまで考えてその言葉の続きを思い出して急に顔が熱くなる。
 
(うん……俺は寝てた。最後まで寝てたんだ)
 
 俺は風呂に向かおうとベッドから起き上がった。
 
(でも、ギーゼのねっとりとしたフェラチオ……不慣れみたいだったけど、ヤバかったな……)
 
 そんな事を考え、また下半身に血流が集まってしまった。
 
 ◆
 
 朝稽古の時間。まぁ、アスカはかなり飲んでたし、それこそパーティーの余韻でゴージュと励んだんだろうと予想されるので……
 
(ギーゼも……あんな時間まで起きてたから……今日は俺だけで頑張るか)
 
 と素振りを開始した。
 
 ◆
 
「お、おはようございます。家に朝稽古の支度に戻ってたので遅くなりました」
 
 不意に後ろから声を掛けられた。振り向くと、ギーゼが立っていた。かなり急いだのか、はぁはぁと息を切らせている。
 
「おはよう。まずは息整えようか。昨日、あれだけ飲んだんだから慌てて来ることなかったのに」
「いえ、稽古に手を抜くことはできません」
 
 そう微笑んだギーゼは、早速手にした木刀を構えて素振りを開始した。
 
 ◆
 
「遅れてすまない」
 
 屋敷からアスカが現れた。俺達は素振りを終え、ギーゼの撃ち込み稽古を始めたところだった。
 
「アスカさん……っ! お、おはようございますっ!」
 
 視線は俺の木刀の切っ先に向けたままアスカに声を掛け、素早い抜刀を俺に撃ち込むギーゼ。
 
「アスカおはよう。今日ぐらい良かったのに……」
 
 それを木刀の峰であしらう俺。
 
「あぁ、みんなの祝福が思いの外嬉しくてな……ついゴージュと盛り上がってしまった。──よしヒロヤ、交代しよう」
 
 そう言って木刀を手に俺と交代するアスカ。横に来た時、その下ろした黒い長髪から石鹸の匂いが漂う。
 
(稽古前の風呂か。かなり盛り上がったんだねアスカ)
 
 俺は苦笑しつつ、屋敷の階段に腰を下ろした。
 
 ◆
 
「ほぅ……今朝は動きが良いなギーゼ。技に切れがある」
 
 ギーゼの抜刀を払いつつアスカが微笑む。
 
「そ……そうですか!?」
 
 息が上がりながらも、嬉しそうな笑顔を浮かべるギーゼ。
 
「ちょっと……良い事がありました……」
 
 はにかむような顔で呟く。
 
「ほぉ……」
 
 アスカがチラリと俺に視線を送る。いや、俺は何も知らないからね? ──って事にしてるからね?
 
「まぁ何が理由であれ、心と身体が充実すれば、おのずと技も切れる。──良い事だ!」
 
 そう言いながら繰り出すアスカの鋭い突きを、抜き撃ちで跳ね上げて避けるギーゼ。
 そのままアスカの懐に飛び込み、左脇腹で木刀を寸止めした。
 
「お見事……!」
 
 思わず漏れた俺の言葉を聞いて、ギーゼは驚いた様にこちらを見つめると、やがて顔をくしゃくしゃにして泣き出した。
 
「見事だ。打ち込み稽古とはいえ、初めてアタシから一本取ったな。見事な成長ぶりだ」
 
 木刀を手にしたままアスカの腰にしがみつき、顔を埋めながら嗚咽を漏らすギーゼの頭を撫でながら、愛おしそうに声を掛けるアスカ。
 
「励め。稽古だけではなく、冒険の事、仲間たち──家族との事、そして好いた男の事、全てに於いて──励めよ。その全てがギーゼ、そなたの糧になる」
 
 二人でギーゼに稽古をつけてはいるけど、こういった精神的な導きができるアスカは、ギーゼにとって本当の意味での師匠なんだろう。
 そんな二人の姿がとても俺には眩しかった。俺が目を閉じたのは、ようやく姿を見せた太陽の光のせいじゃない。
 
 ◆
 
 俺は一足先に屋敷に入り、風呂へと走る。昨夜あんな事があったせいで、また『一緒に入ろう』なんて言われたら、がっつり身体が反応しちゃいそうだったから。
 
(汗だけでも流したいからね)
 
 大急ぎで身体を湯で流し、湯船に浸かる。十まで数えて、慌てて風呂をでた。
 
 二人が脱衣所に入ってきたのは、ちょうど服を着終わったところだった。
 
「なんだヒロヤ、もう上がったのか」
 
 アスカが俺の背後で服を脱ぎだした。
 
「うん。先に出るよ──ギーゼもお疲れ!」
「あっ……お疲れ様でした」
 
 少し拗ねた様な表情を浮かべた後、頭を下げてアスカの隣にギーゼが移動したので、俺は脱衣所から出た。
 
 ◆
 
「ヒロヤ様、おはようなの! 朝から稽古お疲れ様なの」
 
 食堂に入ると、ノーちゃんが蜂蜜レモンの瓶とグラスを応接スペースのテーブルに置いてくれた。
 
「ノーちゃんおはよう。君も朝早くからご苦労様。いつもありがとね」
 
 俺がそう声を掛けると、恥ずかしそうに頭をペコリと下げたあとキッチンへと走っていった。
 
「アンタんとこのメイドちゃんは、ほんま良く働くなぁ。おまけにめっちゃ可愛いしな」
 
 声のした食堂入り口を見ると、シモーネが力いっぱい伸びをしていた。黒いレースのナイトドレス……それには両サイドに脇腹辺りまでのスリットが入っていて、いやに扇情的な姿だ。
 
「おはようヒロヤ」
 
 そう言って俺の隣に座る。
 
「おはよう。えらく早いねシモーネ。いつも早起きなの?」
「いんや……昨夜はよう寝れんかってな。誰やねん、ウチの部屋をあの新婚カップルの隣にしたんは……」
 
 大きくあくびをするシモーネ。
 
「いや『防音サウンドプルーフ』は掛けててくれたみたいで、音はせんかったんやけど……その……なんちゅうか……振動が……な?」
 
 頬を赤く染めてうつむく。この頑丈な屋敷の部屋を揺らすとかどんだけだよゴージュ達は。
 
「ヒロヤ様、シモーネ様、おはようです~。シモーネ様は何をお飲みになりますです?」
 
 ウーちゃんが食堂入り口に現れて頭を下げる。
 
「ウーちゃんおはよう。朝早くから頑張ってるね」
「ウチは水貰えるかな? どうも昨夜は飲み過ぎたみたいやわ」
 
 ペコリと頭を下げて立ち去り、すぐに水差しとコップを持ってきてくれた。
 
「ありがとな。ホンマ働きモンやでアンタらは」
 
 ウーちゃんの頭を撫でるシモーネ。ウーちゃんは嬉しそうな笑顔で、もう一度頭を下げてキッチンへと去っていった。
 
 ◆
 
「でな? ヒロヤ。──ウチの事……」
 
 シモーネが話し掛けてきたので、俺は隣の彼女を見上げて言葉を待った。
 
「アンタは……アノ時あんな事言うたけど……ホンマは……ウチの事……ど、どう思ってるん?」
 
 視線をキョドらせながらも、真っ赤な顔でなんとかそれだけを言葉にしたシモーネ。
 
「そだね。その事について、ゆっくり話す機会もなかったしね」
「うん……ウチも……これからどうしたらええんかわからんねん。……アンタの──ヒロヤの思い次第やし、ヒロヤの言うとおりにしたいねん」
「そろそろみんな起きてくるから……ゆっくりと話はできないけど──ただ、シモーネは『俺のもんになる』って誓ったんだからね? 言った通りにしてもらわなきゃ」
「え……?」
 
 みるみるうちに涙顔になるシモーネ。
 
「ええのん? ……ホンマに……」
「うん。これからもじっくりと『愛のあるセックス』するからねシモーネ……んぎゅっ!?」
 
 感極まったのか、シモーネは俺の頭を引き寄せて胸元に抱き締める。
 
「うん……うん! ウチはアンタの──ヒロヤのもんや! いっぱい、いっぱい愛してくれんとあかんで!」
「んぐっ……! ぷ、ぷはぁ……も、もちろん……」
 
 俺、大変な女の子を好きになっちゃった気がする……
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