【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

思考機械

文字の大きさ
上 下
224 / 287

223話「カリナの回想」(視点・カリナ)

しおりを挟む
(あれ? ……ここ、何処?)
 
 目が覚めると、見知らぬ天井。慌てて寝心地のいい柔らかなベッドから身を起こす。
 
 隣のベッドを見ると、布団を蹴飛ばしているいつもの『寝相の悪い』ギーゼラ。
 
(でも……自宅じゃない)
 
 寝る前の事を必死で思い出す。
 
(あ……そうだ……)
 
 ここは『クランハウス』。ゴージュさんとアスカさんの結婚のお祝い後、飲み過ぎたわたしはヒロヤに絡んで……
 
(──!)
 
 思い出した。ヒロヤの膝枕に寝落ちしたんだ。それから目を覚ましてカズミさんとお風呂に……

 ◇
 
「そっか~、カリナ義姉さんはまだ経験ないんですね」
「恋愛経験もないんですか……そうですよね。第一皇女なんて、自由に恋愛できませんしね……」
「ヒロヤの事、実は大好きでしょ?」
「でも、嘘とはいえ腹違いの姉と弟という設定ですよ?」

 ◇

 確か、そんな話をカズミさんとお風呂でしていた事をぼんやりと思い出した。
 そして……
 
「き、き、姉弟きょうだいですけど……わ、わたしは……ひ、ひ、ヒロヤが好きなんです! もっともっと……あ、あ、甘えたいのです!」
 
 そうカズミさんに返した言葉を思い出して、顔が一気に熱くなる。
 
(うひゃっ……! なんて事を言ってしまったんだろう!)
 
 過度のアルコールで乾ききった喉を潤し、熱くなった身体を冷ますために、サイドテーブルの水差しからコップに入れた水をひと息に飲み干す。──何度も何度も。
 
(あ……空になっちゃった……)
 
 面倒だけど、一階のキッチンまで降りる事にする。身体を冷ますにはちょうどいい。そう思ってわたしは水差しとコップを持って部屋を出た。
 
 ◆
 
 ひんやりとした屋敷内の空気が心地良い。わたしは静かに階段を降りて、キッチンに向かう。
 流し台の横、大きな水瓶から柄杓で水をすくい取って水差しに移す。八分目ぐらいまで入れてから、応接スペースに移動した。
 
(ふぅ……よく冷えて美味しいです)
 
 ラツィア村の地下水は、小鬼の森やラツィア山脈で貯えられた水脈が流れ込んでいるものらしく、とても美味しい。故郷の水は、鉱脈を通った水脈だったので、どこか鉄臭い感じがしていた。
 
(ラツィア山脈も良質の鉱脈があると聞きましたが……全然違うのですね)
 
 わたしは水ひとつ取っても、このラツィア村がとても気に入っていた。
 
(ようやく落ち着きました……)
 
 そして風呂場でわたしが言った恥ずかしい発言について思索する。わたしもかなり酔っていたので、酔っ払いの戯言と思ってもらえてると助かるのだが。
 
(うん。なにも覚えていないフリをしよう。そうしよう)
 
 ソファーにもたれ掛かり、天井を見上げる。そして、今までの出来事を振り返った。
 
(国も……家族も……みんな失ったわたしは……絶望で生きる気力すら無くしていた……)
 
 炎で焼かれた『都市国家ゲールティエス』の王城……
 
「必ず生き延びろ! 家の再興なぞ考えんでも良い! とにかく……幸せに生きるんだカリン!」
 
 王城の一室、父上がわたしを突き飛ばした直後に、両親と侍女達は焼け落ちた天井の炎に姿を消した。
 
 なんとかギーゼラに王城から救い出され、敵兵の包囲の目をくぐり抜けて国境を越えた。その後の脱出行はとにかく過酷で、私自身はあまり覚えていない。恐らく、ショックが大き過ぎたのもあると思う。
 
 気がついたら、ロムーナ王国の城塞都市ムンドへと辿り着いていた。本当にギーゼラには迷惑をかけた。
 ただ、ウェルニア帝国と国境を接するこの都市では、帝国の追手が迫る危険が高い。
 ギーゼラは、ロムーナ王国の『東の男爵』オブライエン卿の領地であるラツィア村を目指すと教えてくれた。
 
(オブライエン卿──魔王討伐の英雄剣士ではないですか!)
 
 王城に居る時によく読んだ英雄譚。特に好きだったのが『勇者エルベハルト』だった。
 幼い勇者エルベハルトを筆頭に、『双剣』のシンジ、『大剣』のメグミ、『大魔術師』ミリア。四人の若き英雄たちの話が大好きだった。
 
「し、し、シンジ・オブライエン様の村に……い、い、行くのですね!?」
 
 多分、故郷を脱してからずっと無気力だったわたしが少しだけ元気を取り戻した瞬間だった。
 
 たどり着いたラツィア村は、もう『町』といって良い程の発展ぶりだった。
 
「そういえば、隣接する『小鬼の森』のダンジョンが『ダンジョンバースト』を起こしたと聞いてましたが」
 
 村の冒険者達の活躍で、『小鬼の森』のモンスター環境は小康状態を維持しているらしかった。
 
「その活躍は、オブライエン卿の息子さんが中心となっているんだそうですよ。流石は英雄剣士様ですね」
「ぎ、ぎ、ギーゼラッ! わ、わ、わたしは『冒険者』になりたい……っ!」
 
 故郷で、王族として魔術の訓練は受けた。幸い、わたしにはちょっとした素質があったらしい。初級魔術なら何点か習得している。
 
「ぎ、ぎ、ギーゼラも……き、き、騎士団では結構なう、う、腕利きでしたよね!?」
「──なりますか。『冒険者』に」
 
 真っ赤な顔で訴えるわたしに、ギーゼラはそう言って微笑みかけてくれたんだった。
 
「ラツィア村のモンスター環境は、ちょうど駆け出し冒険者でもなんとか太刀打ちできるレベルだそうですよ」
 
 そう言って巾着袋をわたしに差し出してウインクするギーゼラ。
 
「ムンドで換金したお金も結構あります。村に来る若者達の為に、住宅地を造成中だと聞きました。このお金で家も買いましょう」
 
 そして、わたしたちは冒険者になり、ここで暮らす事に決めたのです。
 
 そして、初めての依頼──
 
 ワイルドボアを狩り、無事に依頼をこなした夜だった。
  野盗に襲われたわたしたちを救ってくれた幼くも『凄腕の剣士』。その戦う姿を見たわたしは、大好きな英雄譚の主人公達を思い出した。
 
(あ……彼はあの英雄達と同じだ)
 
 胸が高鳴り、身体が熱くなった。その時に……わたしはその英雄譚の主人公のような彼に『恋』をしたんだ。
 
 ギーゼラがヒロヤを警戒し、彼に暴言を吐いたのは……多分、わたしの心の動揺に気がついたからだと思う。とにかく、わたしから彼を遠ざけようとする動きが目立っていたから。
 
 でも、わたしは知ってる。ギーゼラ──ギーゼも彼の『強さ』に惹かれている事を。そして、剣術の指南を受けるにつれて……彼女の恋心が育っていってる事を。
 
(ギーゼラ──ギーゼもわたしと同じで『恋』なんてできる環境じゃなかったですし……)
 
 同じ人に惹かれ、心奪われる。しかも、彼を愛する女性は多い。そして……ヒロヤは彼女たちに誠実に向き合い、みなさんを愛されている。
 
(想いを伝えるよりも……今のまま『姉弟』の関係が良いのかもしれない)
 
 なにせ『姉弟』なら、その関係は死ぬまで続く。愛を伝え、受け入れられない事を考えると──苦しくて死にそうになる。
 
(──思い悩んでもきりがない……今は彼の傍に居る事ができる『大義名分』に寄りかかっても……いいですよ……ね?)
 
 ふぅ……と溜め息をつき、水差しから冷たい水をコップに移してひと息に飲み干す。
 
 いろんな事を考えたせいか、睡魔が襲ってきた。
 
(そろそろ……寝室に上がりましょう)
 
 わたしは水差しとコップを持って、フラフラと食堂を後にした。
 
 階段を上がり、部屋の扉をそっと開ける。
 
(ギーゼを起こしちゃったら可哀想ですしね……)
 
 暗い室内を、そっとベッドまで歩いていく。
 
(……え?)
 
 二つあるはずのベッドが……ひとつだけ。そしてそのベッドの布団には小さな膨らみがある。
 
(──あ!)
 
 思わず声を上げそうになる。水差しとコップをサイドテーブルに置いて、そっとベッドを覗き込む。
 
(や、やっぱり!)
 
 部屋を間違えた! というか、階を間違えたのだ。ここは二階。そしてこの部屋は……
 
(ひ、ひ、ヒロヤの……弟の部屋っ!)
 
 覗きこんだ先には、静かな寝息を立てるヒロヤ……
 
(な、な、なんて可愛らしいのでしょう!)
 
 思わず口元を手で覆う。自然と顔がにやけてしまったせいだ。
 
(わ、わ、わたしは……『姉』ですから……お、お、『弟』に添い寝しても……も、も、問題ないですよ……ね?)
 
 思考すら吃るぐらいにテンパったわたしは「いや! 問題あるでしょ!」と心の中でツッコミを入れつつ……
 
 お布団を捲って──隣に潜り込んだ。
 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【掲示板形式】気付いたら貞操逆転世界にいたんだがどうすればいい

やまいし
ファンタジー
掲示板にハマった…… 掲示板形式+αです。※掲示板は元の世界(現代日本)と繋がっています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...