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216話「ヒロヤの帰還」(視点・リズ→ヒロヤ)

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 騎馬が三騎、クランハウスの敷地に駆け込んできた。
 
「やぁ! 約束通り遊びに来たよ!」
「エルベハルト様……!」
 
 アタイは思わず大声を上げてしまった。そのエルベハルトに続くのが……
 
「くだらん輩が村に侵入したと聞いてな」
「カズミ! 無事か!?」
 
 オブライエン男爵と騎士ミュラー様。
 
「ほほぉ……面白いゲストが来ているみたいだね。確かヒロヤくん相手に敗北を重ねて、魔道に身を落とし、その上ヒロヤくんが動けない隙を狙って襲ってくるような卑怯な輩だと聞いたんだが──女性を力ずくで襲うクソ野郎でもあったんだね」
 
 エルベハルトの挑発するような言葉に、シモーネから離れて立ち上がるオットー。
 
「なんだ、誰かと思えば勇者にここの領主、左遷された守護騎士か。──話にならん。早く立ち去れ」
 
 そう言ってオットーが長剣を振り上げる。
 
「アズラデリウスから聞いてるぞ。勇者パーティーの二人。──魔の眷族を傷つければ、己も同じ傷を負う呪いを受けてるそうだな。しかも勇者はその『勇者の力』をも封じられてるとな。オレの相手にもならん」
「あのデーモンの言う事を真に受けてるなんて──意外とめでたいヤツなんだな」
 
 オットーの挑発に、高笑いとともに下馬するエルベハルト。
 
「──試してみるか? 誇りもない冒険者が魔人の力を手に入れた程度で吠えるなよ」
 
 その飄々とした態度が、一瞬で周囲が凍りつくような雰囲気に変わっていく。
 
「大臣! 貴方が出張る必要はないですよ。この程度の小者──わたしで充分です」
 
 騎士ミュラー様が下馬し、腰のロングソードを抜き放つ。
 
「来い外道。冒険者として、人間としての誇りを捨てた貴様程度──一合も撃ち合うことなく斬り捨ててみせよう」
「パパ! そのオットーには『邪眼』っていう──」
 
 ミュラー様の声が聞こえたのか、屋敷内から玄関口に戻ってきていたカズミが、オットーの『力』を説明しようと叫ぶも、ミュラー様はニコリと笑う。
 
「カズミ、わたしは剣一筋、己の剣の腕一つでここまで来た男だよ。邪眼? そんなものはわたしの剣の前では全く通用せん。まぁそこで見てなさい」
 
 ロングソードを眼前でまっすぐ構えるミュラー様。
 
「大臣、領主様……手出し無用で」
「出す必要もないよ。キミだけで既にオーバーキルなんだから」
「守護騎士殿に任せる」
 
 二人の許可を得、ニコリと笑ってオットーとの距離を詰めるミュラー様。
 
「カズミパパ! オットーには再生能力もあるわ!」
「──首を落として、その脳を切り刻んでやるから大丈夫だよレナくん」
 
 ……笑顔で恐ろしい事言うよこの騎士様は……
 
「舐められたもんだ……な!」
 
 長剣をぶん回し、ミュラー様に襲い掛かるオットー。
 その一撃を姿勢を低くしてあっさり躱し、斬り上げた一太刀で、オットーの右腕を斬り飛ばすミュラー様。
 
「「「「「凄っ!」」」」」
 
 アタイと一緒に玄関先で見守るクランメンバーが口を揃える。
 
 流れる様な美しい動きの結果が、そんな凄惨な場面であった事に思わずアタイは息を呑んだ。
 
「──!」
「ほら、全く撃ち合うことなかっただろ? ──次は首か?」
「クッ!」
 
 慌てて飛び退り、己の右腕を拾い上げるオットー。
 
「ほほぉ。わざわざ右腕を拾うという事は……再生といっても生えてくる訳ではないんだな。ならば──」
 
 地面を蹴り、瞬時に間合いを詰めるミュラー様。
 上段から斬りつけるその剣は、オットーの左腕を捉えて見事に切断する。
 
「なっ──!」
 
 斬り落とした左腕を、こちらに蹴り飛ばすミュラー様。
 
「カズミ!」
 
 父親のひと言で察したらしいカズミが、呪文を行使する。
 
炎の柱ファイアーピラーズ!」
 
 すぐそこに転がってきたオットーの左腕が、瞬時に炎に包まれる。
 
「ハハハ! これでもう左腕が無くなったな」
「おぉぉぉぉのぉぉぉぉれぇぇぇぇ!!!」
「どうする? 拾ったつもりの右腕がそこに落ちてるが、咥えて持ち帰るか?」
 
 怒り狂うオットーだが、両腕を失ったその姿ではなんの威圧感もない。
 
「次……次に相まみえる時は……こ、殺してやる! 惨たらしく殺して──貴様の娘を犯し尽してやる!」
 
 そう吠えたオットーは、本当に右腕を咥えて──去って行った。
 
「追わないのですか?」
「ヤツを滅すのは弟子の仕事です。まぁ、片腕を奪うぐらいまでは……師匠から弟子への愛ある援護という事で」
 
 エルベハルト卿の言葉に、笑顔で返して剣を納めるミュラー様。
 
「いい師匠を持ったのか……酷い師匠を持ったのか……ヒロヤくん、同情するよ」
 
 頭を抱えるエルベハルト卿をよそに、アタイ達はシモーネの元に駆け寄った。
 
 ■□■□■□■□
 
 ゆっくりと目を開けると──そこには心配そうに俺を覗き込む女淫魔サッキュバス・ドールがいた。
 
「やぁドール──迷惑掛けちゃったね」
「全くだよ……まさか親父さんとこに行ってたなんてさ……とんだ迷惑だよ」
 
 ホッとした表情を見せたあと、すぐに目線を逸して悪態をつくドール。
 
「父さんも世話になったみたいだね」
 
 取り敢えず、ベッドで身体を起こす。
 
「ちゃんと借りは返すからね……ありがとうドール」
 
 俺の言葉に、ドールはポリポリと頭を掻く。
 
「で、身体はなんともないかい?」
「うん。そっちの方は大丈夫」
「……他にどっか調子悪いところがあるのかい?」
 
 俺は父さんに貰った『力』を少し使ってみる。
 
「ドール──キミ……凄い綺麗な魂の色してるね。ほんとに女淫魔サッキュバスなの?」
「な──!」
「父さんに貰った『力』、訓練しなきゃと思ってね」
「全く……余計なものを与えたもんだよあのイケおじは……」
 
 そう言って席を立つドール。
 
「アタシも少し前に帰ってきたんだけど……大変な事になってたみたいだよこの屋敷。まぁ、なんとか撃退したみたいだけどさ」
 
 ◆
 
 詳しく話を聞いてみると、俺が目覚めない事を知ったオットーが下位妖魔を率いて襲撃してきたそうだ。
 
「……一緒に降りるかい?」
「うん。──まだ少し頭がふらつくんだ。肩貸してくんない?」
「……世話の焼ける坊やだよ……」
 
 ドールは、俺を支えて寝室から連れ出してくれた。翼が腕に当たって少し痛かったけど。
 
 ◆
 
 一階に降り、食堂に入ると……
 
「ドール? ──ってヒロヤ!」
 
 ドールの肩から降ろしてもらったところで、カズミが飛び込んできた。
 
「うわっ!」
 
 なんとか受け止めるも、倒れそうになったのをドールが支えてくれた。
 
「アタイらみんな……待ってたんだぞ……」
「ヒロヤくん……良かった……」
「ヒロヤ兄ちゃん、おはよう」
「ヒロヤさん……もう大丈夫なのですか?」
「ヒロくん……心配したんだから……」
 
 リズ、レナ、マルティナ、ドロシー、アルダが涙ぐんで俺を囲む。
 
「ヒロヤ、みんな頑張って襲撃を退けたぞ」
「師匠、疲れは取れたんッスか?」
 
 アスカが腕を組んで頷き、ゴーシュは言葉とは裏腹に涙顔。
 
「ヒロくん、エルダね……」
「だめだよエルダ、今は告るタイミングじゃないし、抜け駆けはゆるさないよ」
 
 そう言って笑うエルダとメルダ。
 
「ヒロヤ殿……今回は自分の未熟さが身に沁みた戦いでした。明日から早速稽古を厳しくしてください」
「ひ、ひ、ヒロヤは……わ、わたしの大切な……お、お、弟です……もう……む、無茶しないで……」
 
 ギーゼは悔しそうに泣き、カリナ姉さんは泣きながら怒ってる。
 
「ヒロヤさんが居ないから……襲撃、凄く怖かったよ……」
「ヒロヤさん……ボク、もっと強くなりたい」
 
 ロッタが声を上げて泣き出し、ノリスは拳を握りしめる。
 
「アンタがらん間、ウチ、結構頑張ったんやで?」
 
 何故かガウン姿のシモーネが笑う。
 
「「「ヒロヤ様! おかえりなさい! (なの!)(です~!)」」」
 
 スーちゃん、ノーちゃん、ウーちゃんが頭を下げる。
 
「ヒロヤさん……おかえりなさい」
 
 ハンナさんが涙目で微笑んでくれた。
 
「みんな……ほんとにごめんね。そして──ありがとね」
 
 カズミを抱きしめながら、俺はみんなに頭を下げた。
 
 そんな中、食堂を出ていこうとするコウイチとエイリア、ミュラー師匠とエルベハルトと……父さん。
 
「父さん!」
「戻ってよかった。私は帰るぞ」
 
 振り返ってそれだけ言うと、玄関口へと歩いていく。
 
「明日……家に行くよ。──話があるんだ」
「わかった。母さんと待ってるぞ」
 
 そう言って屋敷を出ていった。
 
「明日……父さん達に俺の事──浩哉の事話すよ」
 
 カズミの耳元で小さく話し掛けた。
 
「そう……」
「そして、カズミ。俺、前世の世界……俺達が死んだあとの向こうの世界を見てきたんだ。今夜話すよ」
「うん。わかった」
 
 その前に、これだけ心配をかけた『家族』に──ちゃんと俺の事を話さなきゃいけない。
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