【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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206話「深夜の騒動」(視点・カズミ→ヘレーネ→カズミ)

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(ん……? 玄関が騒がしい……?)
 
 ベッドで身体を起こして時間を見る。
 
(夜中の2時……こんな時間にどうしたんだろ?)
 
 夜着にガウンを羽織って、寝室を出た。
 階段を降りると……
 
「あ、カズミ様! 大変なの!」
「ヒロヤ様とリズ様がまだ帰ってません!」
「シモーネさんに誘われて、四時間ほど前に出掛けたっきりです~~~!」
 
 ウルフメイドちゃん達が私を取り囲み、ノーちゃん、スーちゃん、ウーちゃんの順で訴えかける。
 
「シモーネ隊長が昨夜、ここに来たはずなのですが……今夜だったのですか?」
 
 声のする玄関口を見ると、鎧に身を固めた女騎士が二人。
 
「あなた達は確か……」
「『薔薇の果実ローズヒップ』のサブリーダーのヘレーネと申します」
「同じくフリーダです」
 
 新ダンジョンに向かう途中で会ったクランのメンバーだ。彼女達の背後にも、たくさんの鎧姿のメンバーが。
 
「このような夜中にお騒がせして、本当に申し訳ない。我々は、シモーネ隊長がこちらに拉致されたのではないかと勘違いして……」
「昨夜、宿を出たっきり……隊長が帰ってないのです。メイドの方々に話を伺うと、昨夜こちらでリズ殿と歓談後、ここを出て宿に戻ったと聞きました。そして、今夜『薔薇の果実ローズヒップ』のメンバーで決起集会をするから来ないか? と隊長がリズ殿とヒロヤ殿を誘いに来たと……」
 
 そう話す二人の表情は憔悴しきっていた。
 
「取り敢えず、中で話を伺います。後ろのみなさんも、どうぞ中へ」
 
 私は彼女たちを食堂に案内した。
 
 ◆
 
「それでは、あなた達は決起集会など開いていない──と?」
 
 私の質問に、サブリーダーの二人が頷く。
 
「でもでも、間違いなくシモーネさんが馬車で誘いに来たです~~~!」
 
 黒いパジャマ姿のウーちゃんが断言する。
 
「という事は……昨夜、うちの屋敷から帰る途中に……シモーネさんに何かあった……か? それとも──」
 
 私の言葉に、不安の色が濃くなる二人の表情。
 
「──昨夜のうちからシモーネさんが計画的にヒロヤとリズを誘い出したか……でも、そちらのクランの方々に、なんの相談もなく……一体なんの為……?」
「カズミ殿、それはありません。うちの隊長はリズ殿と友好的な関係を結びたいと常々言っておりました」
「女としても、リーダーとしても尊敬に値する『イイ女』だと」
 
(シモーネさん自身が二人に悪意を持って近づいた訳ではないのね……)
 
「スーちゃん達、ヒロヤ様とリズ様を探しに行きます」
「ノーちゃん達は、ヒロヤ様の匂いなら追跡できるの!」
「ウーちゃん達、伊達にヒロヤ様のお洗濯物をクンクンしてないです~~~!」
「あなた達……」
 
 ウーちゃんの言ったウルフメイドちゃん達の性癖のカミングアウトは……取り敢えず置いといて……。
 
「とにかく、レナとマルティナとドロシーを起こしてきて」
 
 私の指示に即座に動くウルフメイドちゃん達。
 
「何事もなければいいんだけど……私達は、メイド達の鼻を頼りにシモーネさんとうちの二人を探します」
「そ、そんな事ができるのですか?」
「確かに獣人の鼻は利くと聞いた事はありますが……」
 
 サブリーダーの二人は不安そうだ。他のクランのメンバーもテーブルについてはいるが、かなり落ち着かない様子だ。
 
「大丈夫です。彼女達は獣人ではなくスノーウルフなのです。今は人化していますが、獣人よりも鼻が利きます」
 
 食堂内がざわつく。「本当なのか?」「信じられない」等、口々に騒ぎ出した。
 
「とにかく! ……とにかく私達にお任せください。──この中に『念話テレパシー』を使える方は?」
 
 私の問いに、数人の手が挙がる。サブリーダーのフリーダも挙手した。
 
「わたしも使える」
「では、あなた達はこちらで待機願います。深夜にあまり大騒ぎしては、村に迷惑が掛かってしまう恐れもありますので。何かあったら直ぐに『念話テレパシー』で連絡します」
「し、しかし……」
「今の状況だけでも、誰かに見られていると『薔薇の果実ローズヒップ輝く絆ファ・ミーリエに殴り込みをかけた』と思われて仕方ない状況なのですよ?」
「「うっ……!」」
 
 二人のサブリーダーが言葉を詰まらせる。
 
「この場は私達に任せて下さい。そして、手に負えない様なら──あなた方の協力が必要になります。よろしいですか?」
「あぁ……お任せする。隊長の事──よろしく頼みます」
 
 ヘレーネが涙を浮かべながら頭を下げる。それに合わせて、フリーダと他のメンバー達も頭を下げた。
 
 ■□■□■□■□
 
「本当にスノーウルフだったんだ……」
「こんな時にアレだが……もふもふしたい……」
 
 フリーダが何かおかしな事を言っているが、夜着を脱ぎ去った三人が、一瞬にして白く美しい狼に変身した時は言葉が出ない程驚いた。
 そして、カズミ殿はレナ殿、マルティナ殿、ドロシー殿とともに、走り去っていく三匹のスノーウルフを騎馬で追いかけていった。
 
「任せていい……んだよな?」
「……任せるしかないんだよ」
 
 わたしの呟きに、フリーダが肩を叩いて応えた。
 
「しかし……リズ殿だけじゃなく、あのカズミという少女も……」
「あぁ。間違いなく傑物だ。これだけの時間で素早く決断し、段取りをつけ、もう行動を起こした」
 
(まだまだ若いクランだと侮っていたかもしれない……)
 
「あのS級ダンジョン制覇を任された特務パーティーが中心となったクランなんだ。パーティーメンバーのランクだけに惑わされていれば……彼女達の本質を見誤るところだったな……」
 
 フリーダが溜息をついた。
 
「とにかく、ここでおとなしく待つしかない。カズミ殿の言うとおり、我々が『輝く絆ファ・ミーリエ』に殴り込みをかけたと思われても仕方ない状況なのだ。シモーネ隊長が心配なのは皆同じだ。だからこそ、ここは皆自重するようにな」
 
 わたしの言葉に、メンバー全員が頷いた。
 
 ■□■□■□■□
 
(迷う事なく突っ走ってる……。ヒロヤとリズの居場所をもう正確に把握してるのね)
 
 私の意図が分かっているのか、ハヤは手綱を取ることもなくスノーウルフちゃん達を追いかけて疾走している。
 
「この方向は──カズミ! ひょっとして……」
「ええ、村はずれに向かってる。おそらくは……」
 
 あの『幽霊屋敷』。マルティナにとって最も忌まわしい場所。
 
「ウルフちゃん達! 止まって!」
 
 私の声に、三頭のスノーウルフが反転して戻ってくる。
 
「ここからなら、歩いても直ぐだね」
 
 レナが下馬してスーちゃん達を撫でる。
 
「この先にヒロヤ兄ちゃんとリズ姉ちゃんが?」
「もう近いのですか?」
 
 マルティナとドロシーも下馬してこちらに歩いてくる。
 
「マルティナ……よく聞いて。ヒロヤとリズが居るのは多分……あの幽霊屋敷よ」
「──!」
「幽霊屋敷って……まさか、あの?」
 
 マルティナは一瞬表情を固くし、ドロシーは驚いた様にマルティナを見た。
 
「何があるかわからないから、ここから静かに歩いて行く。──マルティナ、大丈夫?」
「ヒロヤ兄ちゃんとリズ姉ちゃんが心配。あたしの事は気にしないで」
「わかった」
 
 私達は馬の手綱を引いて、スノーウルフちゃん達を先頭に、静かに幽霊屋敷を目指した。
 
 その時だった。前方から疾走してくる馬車。それを御するのは……
 
「リズ!」
「カズミ! レナ! マルティナ! ドロシー!」
 
 リズの馬車が目の前で停止する。
 
「ちょうどよかったよ! 説明は後だ。──ドロシーとレナ、カズミは幽霊屋敷に行ってくれ。入って直ぐの所に、男を縛り上げてるから逃げないように見張ってくれ。あと地下にも閉じ込めてる男たちが居るから、そいつ等が出てこないように……」
「そいつ等がヒロヤくんとリズを攫った犯人な訳ね?」
 
 レナがシロにまたがる。
 
「あぁ。アタイとシモーネは今から兵舎に行く。直ぐにミュラー騎士と兵士に向かってもらうから──それとマルティナ」
「?」
「ヒロヤを頼む。『あの力』を使った上に、全力の『身体強化フィジカルブースト』を使用して……気を失っている」
「ヒロヤ兄ちゃんが!?」
 
 マルティナが慌てて馬車の後方から中に飛び乗った。レナも一旦は跨ったシロから飛び降り、私とドロシーとともに馬車に飛び乗った。
 そこには、深く眠っているヒロヤが。
 
「ヒロヤ……ヒロヤ!」
「カズミ、落ち着いて。マルティナ、直ぐにパパの所に連れて行ってあげて」
「うん……分かったよ」
「カズミとドロシーは、れなと一緒に幽霊屋敷に行くよ。先ずはリズの指示通りに動こう」
 
 呼吸はしているものの、ピクリとも動かないヒロヤの姿を見てから……私は何も聞こえなくなっていた。
 ただただ、彼の胸に顔をうずめて……泣く事しか出来なかった。
 
 
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