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183話「新ダンジョン探索・第二階層(その4)」

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 時間は掛かりながらも、第二階層の探索は順調に進んでいった。
 
 道中の遭遇にハイクラスが混ざるようになって、少し難度が上がった感がある。まぁ、ウチのメンバーでなら問題ない程度だけど……
 
 そろそろ夜営場所を決めようか? という風にリズと話ししていた時に『ソイツら』は現われた。
 
「上!」
 
 ドロシーがカズミを抱き、その場から飛び退く。
 第二班の頭上からゴブリンが跳びかかってきたのだ。完全に不意を突かれた。
 突然始まった近接戦闘に、リズが慌ててショートソードを抜き放つ。
 最後尾にいた俺とアスカの動きが数テンポ遅れた。レナとリズが頭上からの不意討ちをなんとか躱すものの、五体のゴブリンに囲まれる。
 
「レナ!」
 
 近接戦闘に不慣れな二人。俺は『闇斬丸』の鯉口を切って駆け出した──が。
 
「うふ♡ 初実戦だね」
 
 <i630629|38618>
 
 レナは短剣ダガーを抜き放ち、その端正な顔に笑みを浮かべている。
 
(そうか! マルティナ直伝の『短剣術』!)
 
「無茶はするんじゃないよ」
 
 そう声を掛けるリズも笑顔が漏れている。
 そんな二人に、ゴブリンが一斉に遅い掛かる。
 
 リズは一体のゴブリンをショートソードで斬り伏せ、そこから包囲を脱する。
 レナは自らゴブリンの間合いに飛び込んで、その棍棒を短剣で受け止めた。
 次の瞬間、もう片方の手で新たに抜き放った短剣ダガーをゴブリンの胸に突き立てた。
 
(速い!)
 
 リズもレナも身のこなしが軽い。先に包囲から抜け出したリズは、レナに襲いかかろうとしていたゴブリンを背後から斬り捨て、目の前のゴブリンを倒したレナは振り返りざまに、もう一体のゴブリンを屠る。
 残った一体は……
 
「グワッ!」
 
 咆哮とともに飛び掛かったスーちゃんが、手に持ったザックを振りかぶって叩き伏せていた。
 
(あ……鉱石いっぱい入ったやつだ。アレはダメージ半端ないわ)
 
 ◆
 
「れな、マルティナに鍛えられたからね」
「アタイも、S級ダンジョンから帰ってきてから結構稽古したんだよ」
 
 <i630630|38618>
 
 ふふん! と揃ってドヤ顔。あまりに急で動けなかった自分が情けない……
 
「ドロシー、庇ってくれてありがとね」
「カズミさんだけは近接に巻き込まれてはいけないですから」
 
 流石はドロシー。ナイス判断。
 
「あたしが通った時は何も無かったのに」
「はい。ボクも探知出来ませんでした」
 
 マルティナとノリスが天井を見上げた。
 
「『湧いてきた』んだよ。ダンジョンらしい奇襲ね」
 
 短剣と魔石を拾い上げるレナ。
 
「こういう事もある訳だ。気を抜けないなヒロヤ」
「……はい」
 
 アスカの言うとおりだ。気を引き締めていこう。
 
 ◆
 
 次の部屋のハイゴブリン達を斃した後、その部屋で夜営することにした。
 
 準備を終え、夕食をとる。そしてお茶を飲みながら今日の事を話し合う。
 
「あ、あ、あの……わ、湧いてでる……も、モンスター、か、か、かなり危険です……ね」
 
 カリナ姉さんも不安なんだろう。それはカズミやロッタも同じだ。
 
「レナさんみたいにとは言わないまでも、最低限『短剣術』などの護身を身につけないと……」
 
 ギーゼの言うとおりだ。幸い、クランにはマルティナという『短剣術』に秀でたメンバーがいる。
 
「ボクも短剣得意ですよ」
「じゃあ帰ったらみっちりやるか?」
 
 手を挙げたノリスの肩を叩きながら、カズミ、カリナ姉さん、ロッタを見てニヒヒと笑うリズ。
 
「私……ダメだったんだよね……」
 
 カズミが俯く。夏休みに挫折したからな……
 
「カズミは不器用だから仕方無いよ。防御壁とか魔術で使えないの?」
「……『炎の壁ファイアーウォール』だったら……」
「……いや、乱戦では使えないよね? 危ないよね?」
 
 久々にカズミにツッコんだ。
 どうしても近接戦闘が身につかない場合は、風系なり光系なりの魔術防御を使えるようにするしかないのかな。
 
「エルダ達が常に傍につく──ってわけにもいかないか」
「メルダもそうしたいんだけどね……」
「アルダも無理かな……」
 
 前回のS級ダンジョンでは、三人に付きっきりでカズミとレナを守ってもらったけど……
 
「いえ、わたしたち頑張ります! ね? カズミさん、カリナさん!」
「は、は、はい!」
「うん……頑張る……」
 
 ロッタとカリナ姉さんにつられて、カズミもなんとか頑張るみたいだ。
 
 ◆
 
「なんとか第三階層まで行けるといいッスね」
「……明日の昼には転移魔導具でダンジョン入り口に戻るらしいからな」
 
 俺と一緒に見張りを務めるゴージュとアスカ。おかしな組み合わせだって? いや、それには訳があって……
 
 ◇
 
「今夜はアタイとドロシーとマルティナがヒロヤと見張りするんだ!」
「いや、アルダ達がヒロくんと見張りするの!」
「私とレナでしょ? 幼馴染トリオだもん!」
「カズミ姉ちゃん達、昨日も組んでたよね! ズルいよ!」
 
 ◇
 
 とまぁ、こんな調子で始まっちゃったのだ。
 それをギーゼらルーキー組に呆れた顔で見られたもんだから……
 
「師匠はオレと見張りするッスよ」
 
 とゴージュが強引に決めてくれたのだ。
 
「ときにゴージュよ。アタシ達の家はいつできるんだい?」
「建築には取り掛かってくれてるッスよ。多分一、二週間ぐらいじゃ無いッスか」
「じゃあそれまではヒロヤ達の屋敷に世話になるんだよね」
「……部屋はいっぱい空いてるから問題ないけどね」
 
 思わず苦笑する。
 
「あ、家ができてそっちに住むようになっても『風呂』は入りに行くッスからね」
「あと、アタシがハンナさんの料理を覚えるまでは飯も世話になる」
「……その辺はカズミと相談して……」
 
 あの家も実質『クランハウス』だから別に良いんだけどね。多分飯代は請求されると思うよ。お給金から天引きかな?
 
「二人はさ……」
「「?」」
「結婚式とかするの?」
 
 俺は気になってた事を訊いた。フラグっぽいから今まで聞かなかったんだけど、どうしても気になっちゃって。
 
「籍は入れるッスけど、派手に式を挙げるつもりは無いッスよ」
「アタシも派手なのは……な」
「んじゃ、クランのみんなでお祝いしよっか?」
「いいんッスか?」
「アタシもみんなになら祝福してもらいたい」
「決まりだね」
 
 今度、みんなで相談しとこう。
 
「師匠は……誰と結婚するんッスか?」
「ぶっ!」
 
 思わずお茶を噴き出してしまった。
 
「何を言ってるゴージュ。全員とにきまってるじゃないか。──陰で泣く女をつくるつもりか?」
 
 アスカ、何故そんな真面目な顔で?
 
「そうなんッスか師匠」
「そのつもりだよ。──ただ『家』的にはまずカズミと結婚する事になるかな? 一応貴族同士の結婚になるからね」
「確かに。正妻ポジションだからなカズミは」
 
 そんな話をしながら、見張りの時間は過ぎていった。
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