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156話「ファ・ミーリエ」

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「朝ごはん食べたら、ギルドに行こう」
 
 カズミが用意された朝食を前に、みんなに提案する。
 
「クラン……結成するんでしょ?」
 
 俺の正面、カズミの斜め向かいに座るリズに視線を送るカズミ。
 
「……アタイにまとめられるか不安だけどな。でも、よくわかったな。アタイがクラン結成するって決めた事」
 
 キョトンとするリズに「フフフ~」と笑いかけてパンをかじるカズミ。
 
「ま、そういう訳だから。カズミの言うとおりみんなでギルドに行くよ」
 
 ◆
 
「ヒロヤ、ちゃんとリズを励ましてあげたんだね」
 
 食事中に、カズミが俺の耳元で囁く。
 
「──!」
「大丈夫。別に『また抜け駆けだ!』とか言ってリズの事責めたりしないよ。随分悩んでたみたいだから、良いタイミングだったと思うし。流石はヒロヤだね」
「……カズミには隠し事できないね」
「まぁ、たまたま暖炉の前でリズに甘えられてるのを見ただけなんだけどね」
 
 見られてましたか……もちろんその後の……
 
「お姫様抱っこでリズの部屋に行くところまでね。その後までは覗いてないから安心して」
 
 小さな声で囁いたあと、カズミは小悪魔的な微笑みを浮かべた。
 
 ◆
 
「く、く、クランを結成されるのですか?」
 朝食が終わると、待ってましたとばかりにカリナが質問してきた。おそらく、その皇女という育ちから、食事中のおしゃべりを控えてたんだろう。
 
「ギルマスから打診されててね。まぁ裏で動いてたのはエルベハルト様だったみたいだけどさ」
 
 リズがコーヒーを一口飲んで、苦々しく答える。それはエルベハルト様を思ってなのか、コーヒーが苦かったせいかはわからない。
 
「初級冒険者──特に女の冒険者を守り、育成する面から考えると、アタイらがクランを結成する意味は大きいんだってのは理解できるんだけどね」
「も、も、もちろん私たちも加入させていた、いた、頂けるんですよね?」
 
 テーブルから身を乗り出してリズに迫るカリナ。
 
「私達は良いけど……ギーゼはどうなのかな?」
「そういや、ギーゼは大丈夫だった?」
 
 カズミの口からギーゼの名前が出て、風呂場でぶっ倒れたギーゼの事を思い出してカリナに訊く。
 
「一度、め、め、目を醒ましたのですけど……また、き、き、気を失いました……なので、い、い、今わたしが決めます。ギーゼに、は、は、反対はさせません」
「じゃあ、れなが起こしてくるね。どのみちカリナ達もギルドに用事あるんでしょ? 登録名の変更とか」
 
 レナはそう言い残して階段へと歩いていった。そうか。父さんのスキャンダル(まぁ嘘なんだけど)が暴露されるんだったな。……頑張れ、父さん。
 
「もちろん、アタシとゴージュも参加だろ?」
 
 食事の片付けを手伝っていたアスカがリズを覗き込む。ゴージュとラツィア村に移住するにあたって、少しは家事が出来るようになりたい。と、朝食の準備からハンナさんの手伝いをしていたアスカ。いじらしいよ。
 
「二人が参加してくれるとアタイとしては助かるよ。……良いのかい?」
「是非に。アンタ達には恩もあるが……一番の理由は、アタシがアンタ達の事が好きだからだ」
 
 ……躊躇せず『好きだ』と言っているが、その頬は僅かに朱が差しているところが可愛い。
 
「まぁ♡」
「あたしもアスカちゃんの事好きだよ!」
 
 ドロシーは頬に手を添えて微笑み、マルティナはアスカに向かってニッコリ笑う。
 
「スーちゃん、ノーちゃん、ウーちゃんもギルドに行かないとね」
 
 カズミが思い出したかのように手を叩く。
 
「ですね。冒険者登録して、クランのメンバーとしても頑張っていただかないと……ただ──」
 
 ドロシーが少し考え込む。
 
「──お名前はスー、ノー、ウーで良いのですか?」
「あ……確かに。少し変かも」
 
 かといって、今更名前変えてもな。
 
「「「問題ありません」」」
 
 三人は元気に返事する。
 
「カズミ様につけていただいた大切な名前ですから!」
「わたしは気に入ってるの!」
「変える気はないです~」
 
 スー、ノー、ウーがそれぞれそう言った。
 
「じゃあ決まりね。後は……アルダ達はどうする?」
「ギルド行く前に寄りますか?」
 
 そうやって、ギルドに行く段取りが決まっていった。
 ドワーフ三姉妹も含めると、現時点で総勢16名か……なかなかの大所帯で発足する事になるな。
 
 ◆
 
 馬車と馬に分乗して、ギルドに向かう。ギーゼは思ったほど反対せず「カリナがそれが良いと思うなら構わない」という事でクラン加入が決まった。
 
 鍛冶屋に寄って、アルダ、エルダ、メルダにクランの話をすると「もちろん参加するよ。てか、参加しないなんて選択肢は無いよ?」との事。エルダ、メルダの新鎧も完成しているようで、早速装備を揃えて三姉妹もついてきた。
 先行して、ゴージュを呼びに行っていたアスカとも合流して、いよいよギルドの扉を開く。
 
 リズを先頭に、大所帯の俺達がギルドへと入っていった。
 
「お、リズだ。そういやクラン結成するって聞いたけど……」
「こいつら全員メンバーなのか……」
「やべぇ、綺麗どころだらけじゃん」
「つか獣人メイド超やべぇ好き」
「オレ、是非入りたいな……」
「ばかやろう、下心持ってるとヒロヤに斬られるぜ?」
 
 フロアの冒険者達がざわめく。
 
「ギルマス……来たよ」
「よぉリズ。……腹ぁ括ってくれたみたいだな」
 
 ギルマスがニヤリと笑う。
 
「まぁ、先ずは新規冒険者登録を三名頼むわ」
 
 リズがスー、ノー、ウーの三人を手招きで呼ぶ。
 
「登録って……このメイドのねぇちゃん達か?」
「「「お願いします!」」」
「あぁ……分かった。ミヨリ! 水晶珠を!」
 
 ◆
 
「三人とも……ランクC……だと?」
「まぁ、こんなもんかな?」
 
 なんか俺も鼻が高い。
 
「あとは……わたし達二人の登録名変更をよろしくお願いしたい」
 
 ギーゼがカリナの手を引いて前に出る。
 
「ギーゼラにカリンじゃねぇか。登録名変更って?」
「……ある事情があって、本名を隠してた。理由は……カリンの本当の名前を聞けば理解してもらえると思う」
 
 淡々と説明するギーゼ。
 
「わ、わ、わたしの本名は……カリナ……カリナ・オブライエンと申します」
「お、オブライエン!?」
「ギルマス、カリナは俺の姉さんなんだよ。──腹違いのね」
 
 エルベハルトに教えられたとおりにギルマスにそう伝えた。
 
「──! 領主様の……シンジ様の、かっ! 隠し子かっ!?」
「ギルマス、声が大きいよっ!」
「そしてわたしは、彼女の昔からの友人、ギーゼ・イェーガーという。偽名を使用して申し訳なかった。が……その事情は理解してもらえただろうか?」
 
 そう言うギーゼに、口を開けたままコクコクと頷くギルマス。俺の後ろではリズ達が笑いをこらえているのがわかる。
 
「で、オブライエンの名を名乗るということは……」
「は、はい! お父様の許可が、で、でましたので」
「なるほど……わかった。手続きしておく」
「あと、わたし達二人もリズさんのクランに参加するので」
「そ、そうだ。クラン登録だったな」
 
 ギーゼに言われて思い出したように書類を取り出してリズに手渡すギルマス。
 
「取り敢えず、ここにメンバーをリストアップしてくれ」
 
 ◆
 
「まずは、ここにいるメンバーの名前でいいか。ロッタとノリス、あとガルムは会った時に声掛ければいいしな……ってクラン名???」
 
 リズがクランの登録書類に名前を書き込んでいたが、クラン名は考えてなかったから、そこでペンが止まる。
 
「あ、私考えたんだけど……」
 
 カズミがリズに耳打ちする。
 
「お、それいいな!」
 
 リズは再び書類にペンを走らせる。
 
「みんな! これでどうよ?」
 
 クラン名の欄には、こう書かれていた。
 
『ファ・ミーリエ』と。
「で、どういう意味なの?」
 
 マルティナがリズとカズミに訊く。
 
「異世界の……ある国の言葉で『家族』って意味よ」
 
 カズミが胸を張る。
 
「ファ・ミーリエ──精霊語だと『輝く絆』という意味になります」
 
 ドロシーが「良い名前ですね」と付け加えて頷く。
 
「よし、決まりだね! じゃあギルマス! これで頼む」
 
 リーダー・リズ(ランクB)を筆頭に、
 俺、ヒロヤ(ランクB)
 カズミ(ランクC)
 レナ(ランクA)
 マルティナ(ランクB)
 ドロシー(ランクB)
 アルダ(ランクD)
 エルダ(ランクD)
 メルダ(ランクD)
 アスカ(ランクB→D)
 ゴージュ(ランクD)
 カリナ(ランクE)
 ギーゼ(ランクD)
 スーちゃん(ランクC)
 ノーちゃん(ランクC)
 ウーちゃん(ランクC)
 
 総勢16名。
 一年を締める銀の月12月最後の日、俺達のクラン『ファ・ミーリエ』が誕生した。
 
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