【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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145話「浩哉vs吸血鬼」(視点・ヒロヤ→レナ→ヒロヤ)

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 遅れてきたサーシャさんを交えて、和やかな夕食会も終わり、俺は彼を二階のオープンスペースへと連れて行ってオットーとの戦いを話す。
 
「なるほど『邪眼』か……」
 
 エルベハルトがソファーに深々と座り直して腕を組む。
 
「そのダンジョンでの戦いといい、魔人化した彼を撃退した事といい……『身体強化フィジカルブースト』使えない状態でどう戦ったんだい?」
「俺に『ある力』が発現したんです」
 
 見てもらった方が早いと思い、『浩哉の力』を解放する。
 
「ほう……」
 
 その姿を見て、驚いた様な表情が浮かぶ。
 
「この力は、生前の『尾武浩哉』そのままの姿なの。……おそらくは、彼『尾武浩哉』の鬱積した負の感情。生前、幼い頃から名門武家の跡取りとして厳しい教育を受けてたのよ」
 
 エルベハルトに説明してもらう為に、レナにも同席してもらっている。
 
「転生時、その『負の感情』の部分は表に出ずに隠れてたの。だから、それは今の身体に最適化されてない魂の一部として残ったみたい。それが発現すると……溢れた魂が、生前の姿を形取り、生前の力を発揮するようだわ」
「しかし……生前のキミはそんなにも──いや、直接手合わせすればわかる事だな……」
 
 エルベハルトが不敵に笑った。
 
「そっと屋敷を抜け出そう。キミの『家族』はまだしも、ゲストの方々に見られる訳にはいかないだろ? 裏庭に障壁を展開して、立ち合いを見えない様にすればいいかな?」
 
 エルベハルトはソファーから立ち上がり、俺とレナへ彼に続いて、階段をそっと降りていった。
 
 ◆
 
 レナが持ってきてくれた木刀と木剣をそれぞれ受け取り、距離を置いて相対するオレとエルベハルト。
 
「障壁を展開したよ。これで裏庭で戦う姿はれな達にしか見えないから」
「ありがとうございますレナ嬢。……さて、ボクの力も教えておいた方がいいよね。……幼くして、この世界で生き残れた『もう一つの理由』を」
 
 そう言うエルベハルトの瞳が紅く輝き出す。
 
「まさか……あなた……」
 
 レナの目が見開き、口元を手で覆う。
 
「この力を発現して、ようやく対等に戦える気がするなんて……前世のキミは一体何者なんだ」
 
 微笑むエルベハルトの口元には……鋭い乱食歯がチラリと覗いた。
 
「まさか……『吸血鬼ヴァンパイア』なのか……」
「あぁ……こっちの世界のではなく、ボク達の世界の『吸血鬼ヴァンパイア』さ」
 
 手にした木剣を青眼に構えるエルベハルト。
 
「いいよ。キミから撃ち込んできてくれ」
 
 エルベハルトから放たれる剣気がどんどん上昇する。
 
「いつもの俺と違って……ちょっとヤンチャがすぎると思うが……行くぜ」
 
 俺は左腰の木刀を掴み、エルベハルトに突進する。
 青眼から軽く突きを繰り出すエルベハルト。流石は勇者。俺の動きが見えてるようだ。
 身体を捻ってその突きをかわし、そのまま身体の回転力を使った抜き撃ちをエルベハルトの右側面に放つ。その一撃は、彼の右脇腹へと──
 
 ──撃ち込まれた筈だった。
 
 突き出された筈の木剣は既に彼の手元に引き戻され、そのまま俺の木刀を跳ね上げる。
 
「なっ!」
 
 それによって、次は俺の右側面が無防備になった。
 
(マズい!)
 
 慌てて蹴りを放つ。エルベハルトは右腕でガードし、すかさず左手一本で構えた木剣が俺の身体を薙ぐ。
 
 俺は蹴りの反動を利用して飛び退り、なんとか彼との距離を開けた。
 木刀を左腰に納めて着地するも、既に木剣を構えたエルベハルトの突きが目前に迫る。
 
(クソッ! 速い!)
 
 持てる最速で抜刀し、今度は俺が彼の木剣を跳ね上げる。
 
(ここだ!)
 
 木刀の切っ先を下げ、体勢を僅かに崩したエルベハルトの顎先から顔面を狙い、逆袈裟に斬り上げる。
 
 ──ニヤリ。
 
 エルベハルトは笑い、頭を逸し皮一枚で回避する。
 
(ならば!)
 
 そのまま木刀を突き入れる。が、木刀を掴む腕が彼の左腕に掴まれる。
 
「!」
 
 一瞬、夜空が視界に拡がり……
 
 ■□■□■□■□
 
(何が起こってるの?)
 
 れなの目では、二人の動きは全く捉えられない。
 気がついたら、浩哉くんが地面に倒れ込んでいた。エルベハルトさんに片腕を捉えられながら……
 
「流石はヒロヤくん。綺麗な受け身だ」
「つか、なんなんだよあのスピードとクソ力は。体勢崩そうが、力任せに攻撃を繰り出すとか……」
「こっちだって焦ったよ。ボクも何度も肝を冷やした。前世でそれだけの能力を持っていたとか……キミは化け物かい」
 
 笑いながら、掴んだ浩哉くんの腕を引いて身体を起こしている様子。
 
「いや、バケモノはボクか」
 
 そう自嘲気味に笑っていた。
 
 ◆
 
「ヒロヤくんは、前世では『剣豪』と呼ばれた人達に比肩するほどの使い手よ」
 ヒロヤに戻った彼の全身の痛みを癒やす為に『回復ヒーリング』を掛ける。
 
「そうですか……道理で。ボクとここまで立ち会えるのは今まではシンジしか居なかったんだけどな」
「母さんはどうなの?」
 
 ヒロヤくんが興味深そうに訊く。
 
「ボクが『吸血鬼ヴァンパイア』の力を発現すれば、メグミでは無理だね」
 
 そう笑って、れなの膝を枕にして横になるヒロヤくんを見つめるエルベハルトさん。
 
「しかし……やはりその力は、それだけの負荷が身体に掛かるんだね」
「ええ……いつも全身筋肉痛なの。だかられなはあまり解放して欲しくないんだけどな……」
 
 膝の上にあるヒロヤくんの頭を撫でながられなが応える。
 
「ですね……しかもこれだけの反動。その身体では何度も使っていい力じゃないとボクも思います」
 
 そう言って腕を組むエルベハルトさん。
 
「でも、ボクの動きが見えていたその『眼』だけでも前世の力を使えないかな?」
「眼──だけ? あたっ!」
 
 ヒロヤくんがれなの膝から頭を起こそうとしたので、れなは無理に押さえつける。
 
「あぁ……そっか。『身体強化フィジカルブースト』を部位的に掛ける。みたいな……」
 
 エルベハルトさんの言わんとしてる事がわかった。
 
「はい。眼だけなら、こんなにまで負荷は掛からないかと思うのですが。──どうかなヒロヤくん。試してみる価値はあると思うよ」
 
 ◆
 
「取り敢えず、障壁を取っ払って……当たり障りのない稽古だけはしとこうか。やっとかないと、なんのために来たんだ? って思われちゃうからね」
 
 そう言って立ち上がったエルベハルトさんは、もう一度木剣を構えた。
 
「ヒロヤくん。もう大丈夫なんだろ? レナ嬢に甘えたい気持ちは分かるけど……そういう羨ましいヤツには手加減なしでやっちゃうよ?」
「……バレちゃいましたか……」
 
 頭を掻きながら、れなの膝から頭を起こして立ち上がるヒロヤくん。
 
「また今度、膝枕頼むね」
 
 そんな事を笑顔で言うヒロヤくんに、れなは赤くなって小さく頷くしかできなかった。
 
 ■□■□■□■□
 
「あれ? カリンとギーゼラは?」
 
 裏庭でエルベハルトと軽く汗を流した俺は、みんなが居る食堂へと戻った。
 
「流石に遅いから帰るって」
 
 マルティナがビスケットを摘む。
 
「エルベハルト様、カリンとギーゼラが『また冒険の話を聞かせてください』って言ってましたよ」
「そうか。ボクもちょっとあの達には個人的に興味があるし……お隣さんなんだよね?」
 
 カズミにそう応えるエルベハルトとバルバラが視線を交わす。
 
(ん? なんだろう……)
 
 少し気になったが、まぁ恋人同士だし、なんかあるんだろう。
 
「じゃあ、ボクたちもそろそろ失礼するよ。また遊びにきてもいいかい?」
「もちろん! なんならバルバラさんだけでも!」
 
 みんな、俺達が居ない間にガールズトークで盛り上がったのだろう。かなり打ち解けあったみたいだ。
 
「サーシャさんは泊まっていってくださいね」
「ええ。今夜はそのつもりでしたので」
 
 カズミとサーシャさんは商談で盛り上がったんだろう。
 
 ◆
 
 宿に帰る前に、父さん達と温泉場に行く。と言って、エルベハルトとバルバラさんを乗せた馬車は去っていった。
 
(『眼』か……)
 
 取り敢えずは試してみる価値はありそうだ。
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