【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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144話「稽古とその後に」(視点・リズ→ギーゼラ)

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(ホントに来てるよ……)
 
 食堂兼リビングの裏庭に面した両開き扉を開け放し、椅子に座りテーブルに肘をつきながらボーッと裏庭で行われている『ヒロヤの剣術指南』を見ている。
 
 ◆
 
 ギーゼラの実力を見るための立ち合い自体は秒殺だった。いい踏み込みで、剣速もそこそこに見えたが、アタイの目から見ても『技』が粗い。先ずは正確な剣さばきを身につける為に『尾武夢想流』の基本的な型を指導している最中の様だ。
 
「こんな気を使わなくていいのに……」
 
 応接スペースの方からカズミの声がしたので、そちらに視線を移す。ギーゼラと一緒に来たカリンが、村の唯一のケーキであるロールケーキをお土産に、カズミに謝罪している。
 
「いえ……ギ……ギーゼラがほんとし、し、失礼な事……ばかりして……」
 
 初めて会った時から人見知り全開で、いつもオドオドしてた彼女なのに、顔を真っ赤にしながらも懸命に頭を下げていた。
 
(カリンは良いなのにねぇ……)
 
「マルティナ! ドロシー! お茶にしましょうよ!」
 
 ヒロヤとギーゼラの稽古を裏庭で睨みつけるように見ている二人にカズミが声を掛ける。
 
「えっと……アンタは……スーちゃんだね。二階のレナも呼んできてやって」
「わかりました!」
 
 三つ子の様にそっくりで区別がつきにくいので、白い髪にそれぞれカラーメッシュを入れたスノーウルフメイド達。赤いメッシュのメイドにアタイはそう頼んだ。
 

 
 切り分けたロールケーキとお茶が並べられた応接スペースで、ヒロヤとギーゼラ以外で集まってティータイムにする。ハンナさんとメイド達もテーブルについてお茶している。
 
「……ギーゼラは……わた、わたしに対してか、過保護なんです……」
 お茶を飲み、俯きながら話すカリン。
 
「ヒロヤさんに……た、助けてもらった時……わた、わたしが……彼を……う、うっとりみみみ見つめてしまったせいじゃないかなと……」
「それならアンタにヒロヤを近づけないようにすりゃいいだけの話だよ。あんな糾弾する様な言い方でヒロヤを責める必要ねぇよな」
 
 アタイの強い口調に、カリンは俯いたままコクリと頷く。
 
「わたし達がヒロヤさんの事が大好きで、ヒロヤさんも私達を愛してくれてるのは本当です。確かにそういう関係に違和感を持つ人もいるとは思います」
 
 そう話すドロシーにブンブンと首を振るカリン。
 
「いえ! すす、素敵だと思います!」
 
 顔を上げて、大きな声で答える。
 
「あ……すいません……」
 
 キョトンとしたみんなの顔を見て、また赤くなって俯くカリン。
 
「……あ、あの後、ギルドマスターに、ききき聞いたんです。ま、ま、マルティナさんの事や、ど、ドロシーさんの事……」
「うん。二人はヒロヤに人生を救われてるからね」
 
 カズミが頷く。
 
「カズミとレナはいつも一緒の幼馴染。そして、アタイはヒロヤに女としてのアタイを救われたんだよ」
 
 開け放たれた扉から、裏庭のヒロヤを見つめる。
 
「……惚れるな。ってのが無理な話だよ……」
「わ……わかり……ます……」
 
 赤い顔で俯いたままカリンが呟く。
 
「ホントにわかる?」
 
 マルティナが俯いたカリンを覗き込む。
 
「わ、わかります! ……い、い、いろんな人から聞いたヒロヤさんの事……たたた頼られて……慕われて……」
 
 そっと顔を上げるカリン。
 
「だ……だから……そ、そ、そんなヒロヤさんだからこそ、あ、あなた達にきちんと向き合った結果が……み、み、みなさんを愛し、みなさんに愛される関係になったんだと……わ、わ、わたしはそう思いました……」
 
 最後の方は、消え入りそうな声だったけど……アタイたちにはちゃんと聞き取れた。
 
「ギーゼラも……け、稽古を通じて、ヒロヤさんのホントの姿を……し、知ってくれると……おも、思います……だから……ふにゅっ!」
 
 なんか嬉しくなって、カリンを抱きしめてしまった。
 
■□■□■□■□
 
 稽古後、お風呂の用意ができてると勧められた。私は固辞したのだが、カリンがどうしても入りたいと言うので仕方なく付き合った。
 
「すすす凄い! お、お、大きいお風呂!」
「走ると危ないですよ!」
「ぎ、ぎ、ギーゼラ……こここ、言葉遣い……」
 
 つい口調が元に戻ってしまう。私の中で、帝国にいた時の関係性が未だ抜けない。
 
「も、もう主従関係の関係じゃないんだよ? ……わ、わたしとギーゼラは『同郷の友達で冒険者仲間』なんだから」
「はい……いや、『あぁ』」
 
◆ 
 
「温泉場と同じお湯を引いてきてるんだって」
「それでなのか……稽古で疲れた身体が……とても癒される」
 
 この村自慢の『温泉場』は、カズミさんのアイデアから生まれたそうだ。
 
「あ、あ、あとね……コ、コーヒー牛乳! お、お、お風呂上がりにピッタリのあの飲み物! あ、あれもカズミさんがレシピ作ったらしいですよ!」
 
 幼い少女なのに、なかなかの知恵者らしい。
 
◆ 
 
「アンタらは何飲むんだい? 麦酒か? コーヒー牛乳か? 蜂蜜レモンもあるぞ」
「わ、わたしはこここコーヒー牛乳を」 
 
 リズさんの問いかけに、吃りはするものの普通に受け応えしているカリン。……彼女達に心を開いたという事か。
 
「私は……遠慮しとく」
「上級冒険者からの奢りだよ。遠慮すんな」
 
 言い草にムッとしたが、リズさんの表情に悪意はない。いや、それどころか笑顔で瓶麦酒をこちらに放り投げてきた。
 
「!」
「飲めるんだろ?」
「……ありがたく頂く」
 
 カリンにコーヒー牛乳を手渡して、彼女の頭をワシャッと撫でる。そんなリズさんを笑顔で見上げるカリン。
 
(ほう……あのカリンが……打ち解けたもんだ)
 
「よろしければ夕食もご一緒如何ですか?」
 
 メイド長らしき女性が、麦酒のおつまみであろう豆料理の皿をテーブルに置きながら声を掛けてくる。ハンナさんといったか。
 
「いや、そこまで世話になるわけには……」
「食べていけば? 今夜は面白いお客さんも来る事だし。会ってて損はないよ?」
「?」
 
 カリンがコーヒー牛乳の瓶を抱えて小首を傾げた。
 
「軍務大臣のエルベハルト卿とその恋人バルバラさん。そしてゼット商会会長のサーシャさん」
「ええええエルベハルト様! ゆ、ゆ、勇者殿ではありませんか!」
 
 勇者殿の名前を聞いて、カリンのテンションが上がり、私の中の剣士の血も騒ぐ。が──
 
「大丈夫か? エルベハルト様ならカリンの正体がバレる恐れもあるぞ」
 
 小声でカリンに訊く。
 
「……だ、大丈夫」
 
 小さく返事するカリン。
 
「そんな事より、あ、あ、あの英雄譚のエルベハルト様なのよ……こ、この国の有力者でもあるし……エルベハルト様にも、お、お、王都の商会の会長だという……さ、さ、サーシャ嬢にも会ってみたい」
 
「どうする?」
 
 カズミさんが再び訊く。
 
「是非、ご招待願いたい。図々しいとは思うが……」
「決まりね! ハンナさんお願いね! ヒロヤ! マルティナ! レナ! お風呂行くよ!」
 
 そう言って食堂を出て行くカズミさん。
 中庭でまだ稽古を続けていたヒロヤ殿と、ソファーに腰掛けていたレナさんとマルティナさんが後を追っていった。
 
◆ 
 
「あなた達は行かないのか?」
 
 テーブル向かいで麦酒を飲みながら豆料理をつつくリズさんとドロシーさんに話しかけた。
 
「ん? 今夜はアイツらがヒロヤの背中流す日だからな」
 
 そう言って麦酒をあおるリズさん。
 
「あなた達には……その……嫉妬……とか無いのか?」
「無いかな? アタイたちは『ヒロヤの恋人』である前に『大切な家族』だからね」
 
 リズさんの言葉に、隣でドロシーさんが深く頷いて麦酒を飲む。
 
(家族──か)
 
「カズミがね……」
 
 リズさんはからになった麦酒の瓶を摘み、じっと見つめる。
 
「アタイたちを『大切な家族』って言ってくれたんだよ」
「そうです。そして『大切な家族がヒロヤさんへの想いを押し殺して、悲しい思いをして欲しくない』って……」
 
 ドロシーさんは、開け放たれた扉から見える雪景色を見ている。
 
「だからヒロヤはアタシ達にちゃんと向き合ってくれたんだよ……ま、アンタにゃ理解できんだろうけどな」
 
 その時、玄関の扉がノックされる。
 
「ヒロヤくん! 果し合いにきたよ!」
「ヴァン……それを言うなら『立ち合い』ですよね……」
 
 大きな声が響いた。どうやら勇者・エルベハルト様が登場したようだ。
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