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134話「魔人」

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 シャドウストーカーと、デーモンらしき妖魔の夜襲を受けたものの、怪我人もなく無事朝を迎えてラツィア村目指して出発する。

「どうしたヒロヤ、身体の調子でも悪いのか?」

 並走するリズが心配そうに俺を見る。

「……いや、ちょっとね……」

 昨夜はあの後、後背位で一発、対面座位で一発、おまけにお掃除フェラ中におっきしちゃって、ついでに一発と張り切ってしまったのだ。全部ドロシーの淫紋のせい。どうも俺の精力を上げる力もありそう。
 つか、そのせいでこの年齢なのに少し腰に違和感が。
 俺の不調に反して、ドロシーがニコニコ顔の艶々肌ですこぶる調子が良さそう。
 リズがドロシーと俺を見比べて意味ありげに笑う。

「ははーん……そういう事か。ヒロヤがこんなになるまで搾り取るとは、ドロシーもやるじゃん♡」
「……どうもあの淫紋の力のせいで、かなり昂ぶっちゃったんだよ……」
「ヒロヤがかい?」

 俺は疲れた表情でコクリと頷く。

「……やっぱ欲しいな淫紋……ヒロヤ、なんとかならねぇか?」
「レナのシールで我慢しなよ。村に帰ったら試してあげるし」
「ホンモノが欲しいんだよぉ! 『ヒロヤの性奴隷』……なんて甘美な響きなんだろうか!」
「……突き抜けてるねリズ……『俺の女』じゃ不満なの?」

 『俺の女』という台詞に弱いリズ。不意を突かれたのか、急に顔が真っ赤になる。

「そ、それはヒロヤが言う言葉だろ? アタイが自称する言葉が欲しいんだよ。『ヒロヤの性奴隷』なんて、ホントに『ヒロヤだけのもの』って感じがして凄え良いんだよ」
「そんなもんかね……」

 うん。俺にはわからん。

「まぁ、リズがどう思おうが……リズは俺だけのもんだからね。それはカズミもドロシーもマルティナもレナもそうだから」
「……アルダも絶対そう言って貰うんだから」
「うわっ!」

 いつの間にか、アルダが反対側を並走していた。



「今日はモンスターにも遭遇しませんし、順調この上ないですよね」

 お昼の休息中、食後のお茶を一口飲むドロシー。

「そうですね。このまま何事もなくラツィア村に到着したいものです」

 俺達にお茶を配りに来てくれたサーシャさんが、俺の隣に腰掛ける。

「でもさ……ちょっと気になる事があるんだよね」
「あぁ。アタイも気になったよ。『魔人殿どの』ってやつだろ?」

 順調な旅に水をさすような俺の疑問に、リズも同意する。

「あのデーモンが去り際に残した言葉だな。『女を所望した魔人殿どの』か」
「あの言い方だと、デーモンより上の地位。そして客分的な立場と思われるッスね」

 アスカとゴージュも気になってたようだ。

「そもそもさ……『魔人』ってなんなの?『魔神』とはまた違うの?」

 アルダが訊く。まさに俺の疑問でもあった。

「魔人っていうのはね……人が、位の高いデーモンから力を与えられて『魔の眷族』になったものを言うんだよ」

 マルティナがアルダに説明する。

「そして、魔人として能力が底上げされるから……人として能力が高かった者が魔人化すると、とても厄介になるんだ」 
「そんな強そうなやつが、アズラデリウスの所に居るって事だね」

 マルティナの説明に、リズが難しい顔で爪を噛む。

「森は動物たちの喧騒と、柔らかな空気感を取り戻した風に見えるんですが……まだダンジョンの奥には凶悪な魔物が存在してるんですよね」

 不安げな表情を浮かべるサーシャさん。

「大丈夫だよサーシャさん。ラツィア村まではアタイらが責任を持って送ってあげるからさ」

 サーシャさん以外のこの場の冒険者全員が、リズの言葉に頷いた。



 午後からの行程も順調だった。道中、ワイルドボアを数頭見つけたサーシャさんが、

「お肉!わたくしの大好きなお肉です!」

 と大喜びしてた事が特筆すべき出来事かな。

「明け方にボルグを出発した分、無理すりゃラツィア村には今日中に着きそうだね。まぁ、陽が落ちてから数時間ほど走らなきゃだけどな」
「野営するほどでもなさそうですね。少し大変でしょうけど、着けちゃいましょうか」

 リズの提案に、サーシャさんが乗ったようだ。御者さんを今の間に休ませる為、サーシャさん自身が馬車の手綱を取る。



 夕刻、もうじき陽が沈む。というタイミングで……ヤツが現れた。

「左から何か来る! すぐ近くだよ!」

 マルティナが叫ぶ。『探知ディテクション』に引っ掛からずに接近してきたという事か。

「マルティナ! アルダ! ドロシー! 馬車について先を急げ! アタイとヒロヤとアスカ、ゴージュで迎え撃つよ!」

 リズがそう言った瞬間、すぐ隣を走る馬車の影から飛び出した異形の者がリズを襲う。

「!」

 俺はハヤの鞍を蹴って跳躍し、リズの元に飛び掛るソイツめがけて『闇斬丸』の一撃を浴びせる。
 間近で見たソイツの姿はやはりデーモン。
 こちらに気が付いたか、頭を逸して俺の一撃を躱す──が、僅かに俺の横薙ぎが速く、デーモンの左角を斬り落とす。
 デーモンの回避行動のおかげで、リズへの襲撃はなんとか躱せた。

身体強化フィジカルブースト!」

 全身に力が溢れた瞬間、地面に転がり落ちる。

「ヒロヤ!」

 リズが叫ぶが、着地時になんとか受け身を取って事無きを得る。

「大丈夫! そのデーモンも影渡りが出来るみたいだから気を付けて!」

 みんなにそう声を掛けた瞬間、背後から異様な殺気を感じた。
 『闇斬丸』を納刀し、振り返って抜刀の構えを取る。
 睨みつけた森の闇の中から、抜き身の長剣を下げた男が現れた。

「やっぱり報告にあった相手ってのは……貴様の事だったか……このクソガキが……」

 その姿は──俺が斃したはずのオットーだった。

「てめぇには……八つ裂きにしても足りねぇぐらいの恨みがあるからなぁ……」

 ズンズンとこちらに近づいてくるオットー。先程から俺に向けられる『剣気』は、かつてのヤツを遥かに超える力だ。
 肌は浅黒く、目は赤く爛々と輝いている。そして纏う雰囲気は明らかに人間ではない。

(魔人……)

「オットー……デーモンに魂を売り渡すとはね……」

 すり足でジリジリと位置を変える俺。とにかく馬車の方から俺に注意を集める。

「アズラデリウスがオレに力をくれたんだよ。テメェを嬲り殺す力をな」

 ニヤリと笑う顔も醜悪な悪魔のそれ。

「テメェが邪魔しなけりゃ……オレはリズを手に入れ、あのエルフの淫紋もオレが定着させ、アイツらはオレのもんになってた筈なんだよ」
「そうかい……そりゃ悪い事をしたな」

 コイツの邪眼は健在だろう。いや、かつて人間だった時より力を持っている可能性が高い。

(とにかく……このままではコイツに勝てない……)

 その時、オットーの頭部に飛来した矢が二本突き刺さる。
 身体が揺らぐが、足を踏んばって持ち直し、何事も無かったように刺さった矢を抜くオットー。その傷痕はすぐに塞がっていく。

(再生持ちになったか……)

「テメェは……オットー!」

 カゲに跨ったリズが、再び複合弓コンポジットボウに矢をつがえる。

「おお……オレの女じゃねえか。このクソガキを斃して、直ぐに連れて帰ってやるからな……」
「ふざけんな! アタイはヒロヤのもんだよ! この死にぞこないが!」

 もう一度矢を放つも、次は長剣のひと薙ぎで打ち払われる。

「オットー……なんで生きてるんだ……」

 チラリと声の方を見ると、刀を下げ、放心したように立ち尽くしたアスカが居た。

「アスカ! オレの女! 早くこっちに来い! オレぁソラもアズラデリウスに奪われて、今、女に飢えてんだよ……お前も満足させてやるからよ……」
「アスカ! 来ちゃダメだ! コイツはオレがなんとかする! ゴージュは!」
「ゴージュは馬車に向かわせたよ。あっちもデーモン相手だからね……」

 なんとか自分を奮い立たせたのだろう。アスカが刀を構え直した。

「……満足だ?アタシはアンタに満足なんてさせてもらった事は無いね。暴力的に犯されてる時も、アンタには憎しみしかなかった!」

 吠えるアスカの目には……涙?

「はんっ!……まぁいいさ。このクソガキをぶちのめして、その目の前でテメェら二人を犯し尽くしてやるよ……」

 悪魔的に下卑た笑いを浮かべるオットー。

(とにかく、早くコイツをなんとかして……馬車を守らないと……)

「いくぞ……『邪眼』!」

 オットーが地面を蹴る。その瞬間、身体を満たしていた力が薄れる。

身体強化フィジカルブーストが無効化されたか……アスカが居るが、仕方がない)

 オットーの初撃を受け流さずに飛び退いて躱す。力負けするのは目にみえている。

「逃げるかガキ!」

 見ると、オットーが振り下ろした一撃で、そこを中心に周辺の雪が溶け、地面がクレーター状に抉れている。

「逃げる? そんな必要無ぇだろ。お前みたいな雑魚相手によぉ……」
「ふん……また現れたか……」

 コイツの相手は浩哉しか出来ない。しかも魔人化している。以前のオットーとは比べ物にはならないだろう。

「俺をぶちのめして、目の前でリズとアスカを犯す?……なら逆にお前をぶちのめして、俺がリズとの濃厚なセックスを見せつけてやろうか……ん?」

 オットーに向かって不敵に笑いかけ、リズに流し目を送ってやる。

「やだヒロヤ……♡」

 カゲに跨りながら、顔を赤くして腰をくねらせるリズを視界の端に捉えながら……俺は『闇斬丸』の鯉口を切った。
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