【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

思考機械

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132話「夜襲」

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 ゴブリンを殲滅した後、少し先で待っていてくれた商隊キャラバンと合流して先を急ぐ。
 夕刻まで駆け、結構広く開け放たれた場所で野営の準備を始める。大きな焚き火を囲むように馬車四台を配置し、その内側に天幕を幾つか張った。
 サーシャさんの従者達が料理を担当してくれて、俺達にも提供された。

「野営でメイドさんに給仕されるなんて、最高ッスね」
「メイドさん……男のロマンのひとつだよな」

 鼻の下を伸ばす俺とゴージュ。

「そうか。あの様な服装が良いのだな」
「今度アタシらみんなでしてみよっか?」
「そうですね。ちょうどお屋敷に引っ越しする事ですし」

 アスカは真面目に、リズ、ドロシーは口調とは裏腹のジト目で俺達を見ながら。

「あたしもしてみたい!」

 マルティナ、君だけは純粋で可愛いよ。

「こうやって会話聞いてると、改めて『リズ達ってヒロくんと一緒に住んでるんだなぁ』って超羨ましく思うよ……」

 アルダが俯きながらボソリと呟く。

「あ、そういや引っ越ししたらメイドさん来るんだった」
「え?!師匠、メイドさんの恋人も出来たんッスか?!」
「いや違うし」

 俺は食事の話題として、スノーウルフの群れとの顛末を話した。

「確かに、魔獣のなかでもかなり魔力を有する──限りなく魔族に近い種族と聞いたことがある」
「北方の一部の地域では信仰対象にしてるところもあるって聞いたッスよ」
「まぁ、群れのボスがヒロヤに娘達を『嫁』として差し出したってところだね」
「いやリズ、違うからね?」
「しかし、ヒロヤが仕留めそこねたスノーウルフのボスか。……興味あるな」
「アスカだめだからね?一応不可侵盟約的なの結んだつもりだから」
「そうか。残念だ」

 戦闘マニアじゃないんだからさ。

「しかし、人化ってのは凄いッス。相当の魔力を持ったんッスねぇ。そんな三匹がメイドさんか……うらやm……がっ!」

 アスカに思い切り後頭部をはたかれるゴージュ。……どんなにアスカ一途って言っても、根本的な『女好き』という特性は治ってないんだなゴージュ。



 始めの見張りは俺とドロシー。他のみんなは、ゼット商会の人たちも含めて、それぞれ天幕で就寝している。
 焚き火の前に座り込み、薪をくべる。隣にはドロシーが座って俺に寄り添う。……もう少し俺の身長が高けりゃ、肩に頭乗せてもらえるだろうにな。

「ヒロヤさん……ご主人様……わたし、本当に幸せです」

 俺の隣で、炎を見つめるドロシー。

「家族は失いましたけれど、それもヒロヤさんと出会うきっかけになったんだと考えると……こんなわたしは薄情なのかもしれません」
「そんなことないよ」

 手を伸ばして、ドロシーの頭を撫でる。

「ドロシーが奴隷に墜ちずに、こうやって幸せを感じながら生活してる。亡くなった家族も喜んでるよきっと」
「ヒロヤさん……」

 目を潤ませたドロシーが、その顔を近づけてきて目を閉じる。
 俺達は炎に照らされながら、唇を重ねた。



 長く、蕩けるようなキスを続けていたが、急にドロシーの瞳が正気に戻って唇を離す。

「敵です。ここに向かう敵が……五体。距離はおよそ100m……」

 ドロシーの『探知ディテクション』に反応があった様だ。

「ドロシーはサーシャさん達を起こして!」

 俺はそう言って、リズ達を起こしに行った。



「敵だって?」

 慌ただしくなった野営地の喧騒で、アスカとゴージュも天幕から出てきた。

「あぁ、直ぐ準備をしてくれ。アタイ達は敵を調べに行く」

 手早く鎧を身に着けたリズが指示を出す。

「待ってリズ姉ちゃん!……もう敵は近くにいるよ!」
「早いね……どこだい?」

 マルティナが森の一角を指差すが、そこには焚き火に照らされた馬車の影が映りこむ森の木々が有るだけ。

「見えないけど……居るんだ……」

 マルティナがショートソードとマン・ゴーシュを抜き放つ。

「ええ、そこに五体いますね……見えないとは厄介です」
「……アルダとゴージュはサーシャさん達と焚き火のそばに。……絶対守るんだよ」

 リズも接近戦を想定してか、ショートソードを抜く。

「散開した!来るよ!」

 マルティナの声に、俺は『闇斬丸』の鯉口を切る。アスカも刀を抜いた。

「リズ姉ちゃん!後ろ!」

 長く伸びた俺の影から、一瞬で姿を現す魔物。その姿は真っ黒で、手にした短剣をリズの足元に突き立てようとする。

「くっ!」

 咄嗟に飛び退いてそれを躱すリズ。
 俺は何が起こったのか理解できなかったが、身体が先に反応していた。
 不意討ちを躱され、再び影に潜ろうとする魔物を抜き放った『闇斬丸』で横に薙ぐ。
 ギリギリで、魔物の首を捉えて斬り飛ばす。

「ギュゥルルルルルルッ!」

 悲鳴と共に、俺の影からその姿を現す魔物。頭部を失ってるものの、真っ黒で人型をしている。

「シャドウストーカーかい!厄介だね、こいつら影を伝ってくるよ!」

 リズが、俺達にも下がるように合図する。

「なるべく、自分の影が他の影と引っ付かないようにしなきゃなんだけど……焚き火のせいでどうしても伸びちまうね」
「今、目の前の馬車の影の中にいるみたい」

 マルティナの言葉に、みんな馬車の影と自分の影が接触しない様に移動する。

光の玉ウィスプ!」

 ドロシーが野営地の頭上に『光の玉ウィスプ』を発生させた。かなり大きめの物だ。

「そうか!──焚き火!焚き火を消すんだ!」

 リズの指示で、焚き火の近くに居るゴージュとアルダが火を消した。頭上の『光の玉ウィスプ』だけが光源となり、影が短くなる。
 そこで急に殺気が強くなった。

「来るよ!」

 アスカもその殺気を読んだのだろう、馬車に向かって刀を構える。
 リズを下がらせ、俺とアスカ、マルティナ、ドロシーで前に出る。
 三体のシャドウストーカーと呼ばれる魔物が一斉に馬車の影から飛び出してきた。

「「身体強化フィジカルブースト!」」

 俺とアスカが地面を蹴って迎え撃つ。低い姿勢から一体の胴を両断する。
 アスカは一体の攻撃を躱し、そのままもう一体を袈裟懸けに仕留める。
 アスカにいなされた一体が、俺の影に飛び込む。

(いけるか……闇斬丸!)

 俺は『闇斬丸』を自分の足元の影に突き立てた。

「ギャラララララララルルルルルルゥッ!」

 影に潜んだ筈のシャドウストーカーが頭頂から青い血を流し、俺の影から浮上してきた。既に絶命している。

(『魔の眷族特効』が効いたみたいだ)

 それを見てか、馬車の影からもう一体姿を現し、直ぐにそこから離れた森の木の影に姿を消す。
 一瞬見えたその姿は、明らかに他のシャドウストーカーとは違った異形の姿……あれはホブゴブリンの巣で会ったレッサーデーモンに似ていた。

「魔人殿どのが女をご所望だったので襲ったが……相手が悪かったようだ」

 辺りに響く低い声。

「手下もやられたので撤収する。次は遅れを取らん」

 そう残して……気配は消えた。



 シャドウストーカーの死骸は消えたものの、魔瘴気の塊は残っているので回収する。恐らく以前倒した『高位淫魔』のものより少し小さいぐらい。
 焚き火を熾しなおしているマルティナとアルダ。サーシャさん達に「もう大丈夫だよ」と声を掛けて安心させているリズ。三人はそのまま俺達と交代で見張りについてくれるみたいだ。

「なんかあったら直ぐに起こしてくれ」

 そう言って自分達の天幕に戻ろうとするアスカに、魔瘴気の塊を二つ手渡す。

「アスカが斃した分。渡しとくよ」
「いや、ヒロヤ達には恩がある。それの一部を返したと思ってくれ」
「それはそれ。これはこれ。正当な分け前だよ。もちろん、恩も返してもらったと受け止めてる」
「……そうか」

 アスカは受け取ってくれ、ポーチへと入れた。

「師匠、やっぱり師匠と姐さん達は凄いッスね」

 先に天幕に戻ったアスカの後を追う途中で、ゴージュが振り返る。

「あの咄嗟の判断と連携。息のあった良い仲間ッス」
「俺の自慢の恋人達だからね。あ、あと仲間じゃなくて家族だから」
「惚気ッスね。ご馳走様ッス。家族かぁ……いい関係だと思うッス」

 ゴージュはそう言って、手を軽く上げて天幕に潜り込んだ。



(そういえば……ドロシーは?)

 就寝する為、天幕に向かおうとしたが、ドロシーの姿が見当たらない。
 少し焚き火から離れて探してみると……馬車の陰に隠れて、蕩けた表情で淫紋が輝く下腹部を抑えるドロシーがへたり込んでいた。

「ドロシー!大丈夫?」
「あ♡ ヒロヤさん♡ すいません……♡ 戦闘時、なんとか堪えてたんですが……もう……限界なんです……♡」

 欲情。そうだ、敵を探知する寸前までイチャイチャしてたもんな……

「ごめんねドロシー。そりゃ欲情しちゃうよね」
「あぁ♡ ヒロヤさん……♡ ご主人様……♡ 早くお情けを……♡」

 新防具だから、どんなに欲情してもアソコを触れないから辛いんだろう。かといって、股パーツを外さない真面目さもドロシーらしい。
「天幕まで連れて行ってあげるからね。『防音サウンドプルーフ』だけよろしく」

 俺はまだ『身体強化フィジカルブースト』の効果も続いてるので、ドロシーを抱きかかえようとする。

「あ♡ お、お姫様抱っこもいいのですが……♡ できれば……おぶって頂けると……♡ あの時みたいに……」

 蕩けながらも、とても優しい表情を浮かべるドロシー。

「わかった」

 吹雪の中、人狩りの元から雪洞までおぶった時の事だよな。

「わたしの……♡ 大切な思い出……♡ なんです♡」

 背中にしがみつくドロシーがとにかく愛おしい。
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