【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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120話「初級冒険者達と、リズの過去」

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「ふーん……二人は幼馴染なんだ」
「「はい!」」

 ちょうど良い時間だったので、昼食がてらガルム達一行と色々と話をした。

「フェンズベルクって北の村出身なんです」

 ロッタの言葉に、ノリスも頷く。

「フェンズベルクっていやぁ『北の伯爵』ライナルト・フォーレルトゥン伯爵の領内だね」
「はい……」

 そう言うリズに、俯き加減で答えるノリス。

(ん?なんか歯切れが悪い?)

「二人とは城塞都市ムンドのギルドで会ってさ。ちょうどメンバーを探してたらしくて、オレを入れてくれたってわけ」
「ガルムさんには感謝してるんですよ。採集依頼ばかり受けてた僕達に、初級モンスターとはいえ討伐依頼を受けられる様に『戦い方のコツ』を教えてくれたし……」
「そんな時に、ラツィア村の『移住施策』の噂を聞いて……ノリスと二人で『移住できたらなぁ』って思ってたんです」
「それで、オレが連れてきたんだ。『小鬼の森』のモンスター事情もダンジョンバースト直後ほどじゃなくなったって聞いたしな」

 何故か胸を張るガルム。

「二人は幾つなの?」
「「13です」」

 俺の質問に揃って答える二人。仲良いよね。

「なら……籍入れりゃすぐ移住できんじゃん。12で結婚できんだし、家付いてくるんだから」
「そうなんですけど……」
「ね……?」

 リズの言葉に、二人は顔を見合わせて項垂れる。

「こいつらさ……親も呼びたいんだって。その為には、依頼こなして安定した収入を得る必要があるんだ」
「なるほど……フォーレルトゥン伯爵、アイツ評判わるいからな」

 聞けば『北の伯爵』フォーレルトゥン伯爵は今の当主ライナルト・フォーレルトゥン伯爵になってからはまともな政策を行っておらず、税も高くなる一方だとか。それで故郷の事を話した時、歯切れが悪かったのか。

「わたし達の家族も、厳しい生活を強いられています。だから早く一人前の冒険者になって……」
「僕達の収入で、家族を養ってあげたいんです」

 ……それは切実だ……。

「だから、せめてこいつらがランクDに上がるまでは、面倒みてやろうかなぁってね」
「偉そうに。アンタ自身がやっとDに上がったばかりのクセにさ」

 リズがガルムの額を小突く。

「でも、ランクDまで上がれば収入の良い討伐依頼も受けられるしね」

 俺は立ち上がって、土のついた尻をはたいた。

「応援してるよ。ラツィア村で困った事があれは、いつでも頼ってきな」
「リズ……オレの立場がないから……」

 ガルムが情けない顔で、立ち上がったリズを見上げる。

「リズさん、ヒロヤさん、仕度できましたよ」
「出発しよ!」

 昼食の後片付けをしてくれていたドロシーとマルティナが呼びに来た。アルダは、ロッタ達に駆け寄って……何か手渡していた。

「じゃあ、気をつけてね」

 俺はそう声を掛け、ガルム達と別れて、みんなと出発した。



「アルダ、なに渡してたの?」

 俺はアルダと併走しながら聞いた。

「あぁ、あれね。あれは『メイシ』って言って、あたしの名前と店の住所とか書いてあるんだ。カズミが教えてくれたんだよ」

 なるほど名刺か。

「それとね。『小鬼の森』の今のモンスター事情じゃ、弱いとはいえ数を相手にする事が多いから……クロスボウをおすすめしといたんだ」
「そりゃいいアドバイスだよ」

 いつの間にか隣を走っていたリズが同意した。

「だね。ノリスくんは盗賊シーフだし、早めに敵を見つける事ができるんだから、最初に数を減らすのが大事。リズ姉ちゃんの作戦だよね」

 少し前を行くマルティナが振り返る。

「……あと彼らには、前衛職のメンバーがもう一人欲しいところですね」

 後ろからドロシーも話し掛けてくる。

「確かに。ラツィア村も初級冒険者が集まりだしてる事だし、良い仲間が見つかればいいな」

 そう言うリズに、俺は頷いて返した。



 そろそろ陽が傾きだした頃、予定の行程は走破しただろうという事で、リズが野営を決めた。

「前みたく、ドロシーにツリーハウスを作ってもらいたいんだけど」
「了解です。馬達はどうします?」
「流石に高いところは怖がるんじゃないかな。夜の間は自由にさせてあげる?」

 朝になって、呼べば帰ってきてくれる賢い馬達だし。

「以前みたいに、オーガーやトロールの出現情報は無いからね。まぁそれでもツリーハウスの下にドーム状の厩ぐらいは作ってあげるか……」

 リズの意見に、ドロシーが頷く。

「わかりました」



「相変わらず、ドロシーちゃんの魔術……凄いよね……」

 マルティナが驚嘆の声を上げる。
 まずは、ドロシーが魔術で用意してくれた水で携帯飼葉を作り、馬達に与える。その周りを地面から伸び出た蔓が覆い、あっという間に五頭の馬を囲うドームが出来上がる。
 その後、木の上にステージを作る。今回は梯子状の蔓も付随しており、ステージまで自力で上がれた。
 ステージに上がると既に大きめのドームも完成しており、俺達はそこに入った。

「レナさんのような防護壁を張る魔術を習得してないので、周囲を覆って温度調整もできません……大きめのドーム内で『火炎石カイロ』を使って暖を取る事になりますが……」
「全然いいよ。ゴブリンや野獣に対して警戒しなくて良いから、みんなゆっくり眠れるしね」

 申し訳なさそうなドロシーを宥める。っていうか、ほんとに助かるんだよ?



 火炎石の調理プレートを使い、用意した夕食を食べる。

「食後に、カズミの淹れたお茶が無いのも寂しいな……」

 いつもの『エルフの茶葉』ではなく、携帯用の粉末茶をお湯に溶いて飲む。これはこれで、悪くないんだけどな……

「確かに、カズミが淹れてくれるお茶の方が美味いな」

 リズがボソリと呟き、みんな頷く。俺だけじゃなく、みんなそう思ってたみたいだ。

「そういやさ……『北の伯爵』って、そんなに評判悪いの?」

 俺は昼間気になってた事をリズに聞いてみた。

「あぁ──現フォーレルトゥン伯爵は最悪のクソ野郎だよ……」
「リズ姉ちゃん、知ってるの?」
「……昔の話さ……アタイはフォーレルトゥン伯爵の親衛隊長の妾の子でね。アタイの居たヴァイスマン家ってのは、代々伯爵家の親衛隊長を務める家柄なんだけどさ」

 ククサから茶を一口啜るリズ。

「……ちょっと長くなるけど……聞きたいかい?」

 リズの過去……みんなも知りたいのだろう、静かに頷いた。



 リズの母親は、ヴァイスマン家のメイドをしていたらしい。そこで当主の『お手付き』となった。
 ヴァイスマン家は代々伯爵家に仕えており、貴族位こそ無いが、伯爵の口添えでナイト爵並の扱いは受けていた名門だそうだ。
 そして、産まれたリズは祖父母に預けられ、母親はヴァイスマン家での奉公を続けていた。貧しいながらも、楽しかったそうだ。
 リズが8歳になった時、祖父母が亡くなった機会にヴァイスマン家に引き取られる。伯爵家との縁談の駒にする為に。
 二年間は礼儀作法や教育を受けさせられ、10歳の時に当時15歳であった伯爵の長男ライナルト・フォーレルトゥンと婚約する事を伝えられる。
 その夜、ライナルトの夜這いを受けてあわやの時、間一髪、母親に助けられた。
 婚約前であった為、先代の伯爵は息子ライナルトを叱りつけ、母親の無礼は許されたのだが……ヴァイスマン家当主の怒りは半端なく、母親は幽閉。程なく獄死したそうだ。
 ヴァイスマン家としては是が非でも、婚約から結婚という流れで伯爵家と親戚関係を結びたかったらしいが、母親の死でリズがキレた。
 結婚までは伯爵家でリズを面倒みようと、リズを迎えに来ていたライナルトとヴァイスマンをぶん殴って逃走。そのまま『北の伯爵』領を飛び出したらしい。



「──で、そのまま王都まで行って……宿屋で働かせてもらったんだよ。働いて、お金を貯めて、そして冒険者養成所に入って冒険者になったんだ……」

 赤く輝く火炎石を見つめながら、リズが自分の過去を話し終えた。

「ヴァイスマンなんて名を名乗りたくは無いんだけどな……養成所に入る時に、ヴァイスマン夫人がこっそりと後見人になってくれたんだよ。宿屋の仕事だってそうだ。……屋敷ではいつも寂しそうな顔をしてたけど、とても優しい人だったよ」

 懐かしそうに話を継ぐリズ。

「リゼルダって名前は、母がつけてくれたんだ。アタイに残してくれた唯一の形見みたいなもんさ」

 リズはそう言って、俺を見つめて笑う。

「まぁ、そんなクソ野郎があとを継いだんだから……領内の状態なんて推して知るべし。だな」
「リズ姉ちゃんも……大変だったんだね」
「リズ……アルダの胸で泣いてもいいんだよ?」
「……政略結婚ですか……わたしもそういう話がありましたが、祖父が撥ねつけてくれました。女を道具として扱うのと同じですものね」
「みんな、そんな顔するなよ。もう過去の話さ。今は大好きな家族みんなと一緒に居られて、凄え幸せなんだ」

 ニカッと笑ういつものリズの笑顔。俺はこの笑顔を守らなきゃいけないと心に誓った。



「は、早いけど……今夜はゆっくり寝ようか。夜警も要らないだろうし」

 リズが慌てて立ち上がる。過去の話で、深刻な空気にしてしまって少し照れくさかったのだろう。

「そうだね。また明日もたくさん駆けなきゃだし」

 俺も立ち上がる。
 緑のドームに入り、みんな寝袋に潜り込んだ。アルダの寝袋がいやに俺に引っついてるのは、きっと気のせいだと思う。
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