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97話「ダンジョンへ」
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唇に当たる柔らかい感触で、ぼんやりと意識が覚醒する。
(ん……この感触は……マルティナ?)
彼女の特徴である、むっちりとした唇の感触だ。
(はぁ……柔らかいなぁ……)
しばらく感触を楽しみ、やがて離れた後に唇をぺろりと舐められる。
「ヒロヤ兄ちゃん、起きて……」
「……マルティナ?おはよう……」
目を開けると、布団の上から俺にのしかかるマルティナが、目の前で微笑んでいた。
「おはよう!みんな起きてるよ」
「……ありがと。すぐ起きるね」
「じゃあ先に向こうの部屋に行っとくね!」
マルティナはベッドを飛び降りて、寝室を出ていった。全く、寝てる時の俺に対して平気でキスとかしてくるんだよなマルティナは。まぁ、起きてる時のスキンシップも激しいんだけどね……
(……早く抱きたいなぁ……)
なんて考えが頭を掠めるのは、昨夜の三連戦のせいか。そんな考えを振り払いながら上体を起こす。
(そか、俺キッチン部屋の方で寝てたんだ……)
早く起きなきゃ、隣でみんな待ってるよ。
「ヒロヤ坊っちゃん、おはようございます」
急いで着替えて寝室を出ると、ステラさんがタオルを手渡してくれた。
「あ、おはよう。ステラさん来てくれたんだね」
「ええ、今日からハンナさんの面倒をみさせていただきます。それと坊っちゃん……」
「?」
「おめでとうございます」
「!」
え?まさか精通した事言ってるの?つか、なんでステラさんが知ってるの?
テーブルについているカズミとリズ、ドロシーがニヤニヤと笑っている。
「え?な、なんの事?」
「なんの事って……今日は銀の月第二日、ヒロヤ坊っちゃんのお誕生日ですよね?」
「ちなみに私も同じ誕生日。ヒロヤおめでと!」
カズミがウインクしてくる。
「ヒロヤくんもカズミもおめでとう!」
「ヒロヤさん、カズミさん、おめでとうございます」
「ヒロヤ兄ちゃん、カズミ姉ちゃん、おめでとう!」
「ヒロヤくんもカズミちゃんもおめでとう!」
ハンナさんまで笑顔でそう言ってくれた。
「ヒロヤもカズミもおめでとう!」
リズが立ち上がって、俺の肩をバンバン叩く。
「……精通の事と思ったろ?」
そう耳元で囁いてニタッと笑うリズ。
「……誕生日なんて忘れてたから」
小さな声で返す。
「みんな、ありがとね。それとカズミも誕生日おめでとう!……取り敢えず顔洗ってくるね」
嬉しいけど、かなり照れ臭かったので俺は洗面所に走った。
◆
今朝はステラさんが用意してくれた朝食を済ませ、準備しておいたリュックを背負い厩へと移動する。
ハヤに俺とカズミの荷物を結わえ付け、手綱を引く。
因みに、リズが乗る鹿毛の馬はカゲ。レナが乗る白毛の馬はシロ。マルティナが乗る黒鹿毛の馬はクロ。俺のハヤ以外、まぁなんとも分かりやすい名前の付け方……
そうそう。ドロシーの乗馬は購入の手配が付かなかったので、宿の女将が栗毛の馬を貸してくれた。
「さ、みんな準備できたか?」
リズが颯爽とカゲに跨る。同時にそれぞれが自分の馬に跨った。カズミは相変わらず俺の後ろ。
「じゃあまずはアルダ達の店まで行こうか!」
リズの声を受け、夜明けと共に宿を出発した。
「行ってらっしゃい!みなさん気を付けてくださいね!」
「ハンナさんはおまかせ下さい!いってらっしゃいませ!」
見送るハンナさんとステラさんに手を振って、ハヤに拍車を掛けて朝焼けの中駆けていった。
◆
「でさ……これはどういう事なんだ?」
『鍛冶屋フリーベリ・ラツィア村出張所』の店内、革鎧に身を包み、ハンマーを背中に背負った三姉妹を前に、リズが腰に手を当てて呆れたように言った。
「アルダ達さ……昨日遅くまで話し合ったんだよ?」
「そうそう!誰がヒロくん達に着いていくか?ってね。エルダひとりで良かったのに……」
「ね?エルダ姉がこんなワガママ言うから、全然決まらなくて……メルダ眠くってさ……」
三姉妹が口々になんか言ってるけど……
「……結論出なくて、みんな着いていくって事になったんだね……」
俺は彼女たちが言わんとしてる事を代弁してやった。
「「「そうそう!」」」
「……リズ……どうするの?」
レナが、リズの腰防具のスカート部分をツンツンと引っ張る。
「……オープンフィールドならまだしも……ダンジョンだぜ?大人数じゃ敵に後れを取る場合もあるからな」
「ですよね。冒険者パーティーの平均人数のおよそ倍になりますからね……」
ドロシーがリズの隣で冷静に告げる。
「九人……か……」
確かに多くて六人、普通は四、五人ってところだからな。
「絶対役に立つから!」
「足手まといにはなんないから!」
「なんならメルダは荷物持ちでもいい!」
三姉妹はもう土下座でもしそうな勢いだった。
「あーもう!わーったよ!アンタらみんな連れて行くから!」
ブロンドの髪を掻きむしってリズが言った。
「「「やったー!」」」
その場で飛び上がらんばかりにはしゃぐ三人。
「……で、準備は出来てんだろうね?」
「もちろん!必要なものは昨夜の間に馬車に乗せておいたから!」
「……今回だけだからね?三人連れて行くのは」
リズの言葉に、三姉妹はニコニコ顔で頷く。
しばらくしてアルダが店の前に二頭立ての小型馬車を乗り付けてきた。
それに乗り込むエルダとメルダ。
「さぁ!行きましょう!」
「「行きましょう!」」
「まぁ、その元気があったらなんとかなるか……」
カゲに跨ったリズが笑った。
「……大丈夫?」
俺の後ろでカズミが心配そうにリズに問う。
「……向こうに着くまでにフォーメーション考えるわ」
苦笑するリズ。
「アタイとマルティナ、レナで先行するよ!その後にアルダ達が馬車で続いて!ヒロヤとカズミ、ドロシーは馬車の後ろで後方も警戒すること!いいね!」
みんな、それぞれに返事を返す。
「よし!村はずれまで行ったら、森に向かって加速するよ!」
リズが拍車を掛けて、まずは『小鬼の森』への行程が始まった。
夜が明けたばかりなので、空気が冷え、皮膚に当たる風が肌を切るようで痛い。
俺はスカーフでなるべく顔を覆い、外套のフードを深く被り直す。
「カズミ、大丈夫?寒くない?」
「平気だよ。外套の下にスノーウルフの毛皮のベストも着込んできたし、火炎石カイロもバッチリだから。それに……」
「?」
「ヒロヤの背中、暖かいし……」
「!」
朝の空気に冷え切っていた顔がいっぺんに熱くなった。
「俺も背中が暖かいよ。しっかり掴まってて」
「うん」
俺達は雪深い平原を森目指して駆け抜けた。
(ん……この感触は……マルティナ?)
彼女の特徴である、むっちりとした唇の感触だ。
(はぁ……柔らかいなぁ……)
しばらく感触を楽しみ、やがて離れた後に唇をぺろりと舐められる。
「ヒロヤ兄ちゃん、起きて……」
「……マルティナ?おはよう……」
目を開けると、布団の上から俺にのしかかるマルティナが、目の前で微笑んでいた。
「おはよう!みんな起きてるよ」
「……ありがと。すぐ起きるね」
「じゃあ先に向こうの部屋に行っとくね!」
マルティナはベッドを飛び降りて、寝室を出ていった。全く、寝てる時の俺に対して平気でキスとかしてくるんだよなマルティナは。まぁ、起きてる時のスキンシップも激しいんだけどね……
(……早く抱きたいなぁ……)
なんて考えが頭を掠めるのは、昨夜の三連戦のせいか。そんな考えを振り払いながら上体を起こす。
(そか、俺キッチン部屋の方で寝てたんだ……)
早く起きなきゃ、隣でみんな待ってるよ。
「ヒロヤ坊っちゃん、おはようございます」
急いで着替えて寝室を出ると、ステラさんがタオルを手渡してくれた。
「あ、おはよう。ステラさん来てくれたんだね」
「ええ、今日からハンナさんの面倒をみさせていただきます。それと坊っちゃん……」
「?」
「おめでとうございます」
「!」
え?まさか精通した事言ってるの?つか、なんでステラさんが知ってるの?
テーブルについているカズミとリズ、ドロシーがニヤニヤと笑っている。
「え?な、なんの事?」
「なんの事って……今日は銀の月第二日、ヒロヤ坊っちゃんのお誕生日ですよね?」
「ちなみに私も同じ誕生日。ヒロヤおめでと!」
カズミがウインクしてくる。
「ヒロヤくんもカズミもおめでとう!」
「ヒロヤさん、カズミさん、おめでとうございます」
「ヒロヤ兄ちゃん、カズミ姉ちゃん、おめでとう!」
「ヒロヤくんもカズミちゃんもおめでとう!」
ハンナさんまで笑顔でそう言ってくれた。
「ヒロヤもカズミもおめでとう!」
リズが立ち上がって、俺の肩をバンバン叩く。
「……精通の事と思ったろ?」
そう耳元で囁いてニタッと笑うリズ。
「……誕生日なんて忘れてたから」
小さな声で返す。
「みんな、ありがとね。それとカズミも誕生日おめでとう!……取り敢えず顔洗ってくるね」
嬉しいけど、かなり照れ臭かったので俺は洗面所に走った。
◆
今朝はステラさんが用意してくれた朝食を済ませ、準備しておいたリュックを背負い厩へと移動する。
ハヤに俺とカズミの荷物を結わえ付け、手綱を引く。
因みに、リズが乗る鹿毛の馬はカゲ。レナが乗る白毛の馬はシロ。マルティナが乗る黒鹿毛の馬はクロ。俺のハヤ以外、まぁなんとも分かりやすい名前の付け方……
そうそう。ドロシーの乗馬は購入の手配が付かなかったので、宿の女将が栗毛の馬を貸してくれた。
「さ、みんな準備できたか?」
リズが颯爽とカゲに跨る。同時にそれぞれが自分の馬に跨った。カズミは相変わらず俺の後ろ。
「じゃあまずはアルダ達の店まで行こうか!」
リズの声を受け、夜明けと共に宿を出発した。
「行ってらっしゃい!みなさん気を付けてくださいね!」
「ハンナさんはおまかせ下さい!いってらっしゃいませ!」
見送るハンナさんとステラさんに手を振って、ハヤに拍車を掛けて朝焼けの中駆けていった。
◆
「でさ……これはどういう事なんだ?」
『鍛冶屋フリーベリ・ラツィア村出張所』の店内、革鎧に身を包み、ハンマーを背中に背負った三姉妹を前に、リズが腰に手を当てて呆れたように言った。
「アルダ達さ……昨日遅くまで話し合ったんだよ?」
「そうそう!誰がヒロくん達に着いていくか?ってね。エルダひとりで良かったのに……」
「ね?エルダ姉がこんなワガママ言うから、全然決まらなくて……メルダ眠くってさ……」
三姉妹が口々になんか言ってるけど……
「……結論出なくて、みんな着いていくって事になったんだね……」
俺は彼女たちが言わんとしてる事を代弁してやった。
「「「そうそう!」」」
「……リズ……どうするの?」
レナが、リズの腰防具のスカート部分をツンツンと引っ張る。
「……オープンフィールドならまだしも……ダンジョンだぜ?大人数じゃ敵に後れを取る場合もあるからな」
「ですよね。冒険者パーティーの平均人数のおよそ倍になりますからね……」
ドロシーがリズの隣で冷静に告げる。
「九人……か……」
確かに多くて六人、普通は四、五人ってところだからな。
「絶対役に立つから!」
「足手まといにはなんないから!」
「なんならメルダは荷物持ちでもいい!」
三姉妹はもう土下座でもしそうな勢いだった。
「あーもう!わーったよ!アンタらみんな連れて行くから!」
ブロンドの髪を掻きむしってリズが言った。
「「「やったー!」」」
その場で飛び上がらんばかりにはしゃぐ三人。
「……で、準備は出来てんだろうね?」
「もちろん!必要なものは昨夜の間に馬車に乗せておいたから!」
「……今回だけだからね?三人連れて行くのは」
リズの言葉に、三姉妹はニコニコ顔で頷く。
しばらくしてアルダが店の前に二頭立ての小型馬車を乗り付けてきた。
それに乗り込むエルダとメルダ。
「さぁ!行きましょう!」
「「行きましょう!」」
「まぁ、その元気があったらなんとかなるか……」
カゲに跨ったリズが笑った。
「……大丈夫?」
俺の後ろでカズミが心配そうにリズに問う。
「……向こうに着くまでにフォーメーション考えるわ」
苦笑するリズ。
「アタイとマルティナ、レナで先行するよ!その後にアルダ達が馬車で続いて!ヒロヤとカズミ、ドロシーは馬車の後ろで後方も警戒すること!いいね!」
みんな、それぞれに返事を返す。
「よし!村はずれまで行ったら、森に向かって加速するよ!」
リズが拍車を掛けて、まずは『小鬼の森』への行程が始まった。
夜が明けたばかりなので、空気が冷え、皮膚に当たる風が肌を切るようで痛い。
俺はスカーフでなるべく顔を覆い、外套のフードを深く被り直す。
「カズミ、大丈夫?寒くない?」
「平気だよ。外套の下にスノーウルフの毛皮のベストも着込んできたし、火炎石カイロもバッチリだから。それに……」
「?」
「ヒロヤの背中、暖かいし……」
「!」
朝の空気に冷え切っていた顔がいっぺんに熱くなった。
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