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73話「参観」

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「でさ……」

 授業の始まる少し前、平然と村娘風の服装で教室に入ってきた三人。

「リズ達がなんでここに来てるのさ」
「私何も聞いてないよ?」
「れなも……」

 授業の準備で机につきだした他の生徒たちもざわめいてる。
 ちらっと見ると、リズとマルティナは笑顔で小さく手を振り、ドロシーはペコリとお辞儀をする。

「リズとマルティナだよな?もう一人は……ヒロヤが人狩りから助けたってエルフか?」

 ジャンが俺のところに来て、小さな声で訊ねる。ドロシーの事まで知ってるとは、さすがギルマスの息子。情報が早い。
 俺はなるべく後ろを見ないようにして、ジャンに向かって頷く。

「リズってあんなに美人さんだったんだな。いつもの革鎧姿じゃないから、最初わからなかったぜ」

 だろ?俺の女なんだ。とは言えず、頷くことで返事する。

「っていうか、ヒロヤのパーティーってカズミとレナだろ?で、リズにマルティナ。……あのエルフも仲間になったのか?」

 ジャンの取り巻き、ノッポのランツが聞いてくるので、これにも頷いて答える。

「なんだよ、綺麗な娘ばっかじゃん」
「……オレも冒険者になろうかな……」

 チビのガズラも、デブのマッシュも、鼻の下を伸ばしながら後ろの三人を見る。

「リズ!学校に何しに来たんだ?」

 ギルドで顔馴染みのジャンがリズに話し掛ける。

「お!ジャン!勉強頑張んなよ!未来のギルマス!」
「あたし達はヒロヤ兄ちゃん達の授業受ける姿を見に来たんだよ」

 ジャンをからかうリズの代わりに、マルティナが答えた。

「授業参観って事ね。そりゃこの学校は希望すれば誰でも授業風景見れるけどさ……」
「カズミ、誰でもって訳じゃないよ?生徒の家族なら。ってれなは聞いたよ」
「そっか……じゃあリズ達には権利があるわけか……」
「なんで!」

 なんでそう結論づけますかカズミさん。

「だって『家族』だもん」
「あー」

 ……それを言われちゃ納得せざるを得ませんな。

「……でも俺、なんか親に見られるより恥ずかしい気がするんですけど……」



 そうこうしているうちに、チャイム代わりのハンドベルが鳴り、マリア先生が教室に入ってくる。

「授業に入る前に、今日はヒロヤの冒険者パーティーの仲間の方が参観に来られてます。みなさん、いつも以上に頑張りましょうね」

 先生の言葉に「ハーイ!」と声を揃える生徒たち。

「リズさん、マルティナさん、そしてドロシーさんでしたか……ヒロヤとカズミ、レナの事をどうかよろしくお願いします」

 そう言って、教壇から降りて後ろの三人にお辞儀をするマリア先生。
 振り返ってみると、急に先生に挨拶されて戸惑ってはいるものの、ちゃんとお辞儀を返す三人。

「では、授業に入りますよ。算数の教科書52ページを開いて……」

 そして、妙に緊張した空気の中で授業は進んだ。



「……突然悪かったね。緊張しただろ?」

 学校帰り、先頭を歩くリズが振り返って謝る。

「わたしが『人族ヒューマンの学校が見たい』とお願いしたのです。クラスに獣人族やハーフエルフの生徒がいたのには驚きました」
「あたしは楽しかった。三人とも賢いんだね!」

 マルティナは授業中からずっと笑顔だ。

「いや、別にいいよ。眠気も吹っ飛んで、なんか授業真面目に受けられたし」
「でも……一年生最後の授業だった訳だろ?」
「そうなの?『暫くは授業免除』としか聞いてなかった」

 リズの質問に質問で返す俺。

「学校行ったら、校長先生って女の人に声掛けられてね。『学校見るだけじゃなく、ヒロヤの授業見て行きますか?一年生最後の授業だから』って」
「あぁ、ミリア校長ね」
「ミリア……?ミリアって……まさか『賢者』ミリアかい?」

 リズが驚きの声を上げる。

「あたしも聞いた事ある」
「わたしも聞き及んでます。勇者パーティーの頭脳と呼ばれた『魔術師』ミリア嬢の事ですね。そうでしたか、あの方が」

 マルティナに続いてドロシーも声を上げる。エルフにまでその名は知られてるんだな。というか、ドロシーが少し喉を押さえてる。

「喉、まだ万全じゃないんだね。無理しちゃだめだよ?」

 俺の言葉に小さく頷くドロシー。

「『ミリア嬢が学校長とは、この村はかなり学業に力をいれてるんですね』だって」

 俺の左手を握るレナが『念話テレパシー』で通訳してくれた。

「まぁ、俺達はテスト合格で一年生課程終了とのお達しがでた訳なんだけどね」
「寂しい気もするけど、私達これで冒険に専念できるよね」
「仕方ないよね。れな達が頑張らなきゃ……」
「うん。とにかく明日からでも出発しようか?俺達、次は『小鬼の森』の中心を目指すんだろ?」
「あぁ……先に出発したグイドとオットーの二組を追う形で、今日は王都の三組が出発したんだってさ。みんなさえ良ければ、明日の朝にでもそれを追っかけて出発したい。後発だから、かなり楽が出来る筈なんだ」

 リズが真剣な目でみんなを見渡す。
 みんなそれぞれリズを見つめて頷く。

「よし!決まりだね!」

 リズがニカッと笑う。

「じゃあまずは三姉妹んところに、ドロシーの装備を急かしに行こうか!」

 そう言ってリズはまた先頭を歩き出した。



「「「できてるよ~」」」
「相変わらず早っ!」

 テーブルの上に並べられた装甲パーツの数々。どうやらリズやマルティナと同種の革鎧みたい。

「ドロシーちゃんのにも意匠彫ってもらおうと思ってたのに……」
「いや、リクエスト貰ったら直ぐに彫れるけどね」

 残念そうに呟いたマルティナに、あっさりとアルダが答える。

「あと、これね」

 メルダが持ってきたのは鞘に収まったエストック。俺の身長と同じぐらいの長さがある。

「この長さだから、背に装備するしかないんだけどね」

 そう言って、メルダが鞘から抜き放つ。
『突き』に特化していて、刃はついてなく針状だと聞いていたが、細い刀身でありながら切っ先から刀身の半ばぐらいまでちゃんと刃が入っていた。

「攻撃のバリエーションが増えると思ってね。でもちゃんとエストックの性能はあるから。ちょっとした金属鎧なら簡単に貫くわよ」

 エルダが剣の『握り』部分ではなく、刀身と握りと合わせて『十文字』を描く特徴的な鍔の両方を握って、腰溜めに構える。

「確か……こうよね?エストックの構え方って」

 ドロシーに確認するエルダ。それに対してしっかりと頷くドロシー。
 エルダはニッコリ笑ってエストックを鞘に収め、ドロシーに手渡した。

「ありがとうございます」

 ドロシーが頭を下げる。

「ドロシーちゃん、喋れるようになったんだ。よかったね!」
「綺麗な声……」

 メルダがウットリとした表情になる。

「んじゃ早速、弓でも選んでもらおうかね」

 そう言って、アルダが五本の様々なサイズの弓を持ってきた。

「好きなの選んで。弦は選んだやつを調整してあげるから」

 ドロシーは弓を物色し、なかでも一番大きい弓を選択した。

「オッケー。んじゃちょっと待っててね」

 アルダは椅子に腰掛けて、弦の調整をはじめた。

「んじゃ、ドロシーちゃんはあっちでエルダ達と鎧着てみよっか。アンダーウェアも用意してるし」

 エルダとメルダに連れられて、奥の部屋へとドロシーは姿を消した。


 
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