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68話「ドロシーの実力」

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「明日には出来るって」

 採寸が終わって、メルダがドロシーを連れてきた。

「早いね!」
「実はね……」

 そう言って、カウンターの下から革製の胸当てを取り出すメルダ。

「メルダたち姉妹、交代でヒロくん達のお仕事に同行しようと思って……防具仕立ててたところなんだ。ほら、そうしたら現地でも装備のメンテナンス出来るじゃん?」

 その胸当てを、隣に立つドロシーの胸に合わせる。

「……ドロシーちゃん、エルフなのにこう……グラマラスじゃん?だからメルダ用に作った防具のサイズがちょうど合うのよね。だから、ちょいと手直しするだけでオッケーなんだ」
「まぁ、明日から三日間は学校だからそんなに急がないんだけどね……っていうか、ついてくるの?交代で?」
「そうだよ!戦闘で足引っ張ったりはしないから!……っていうか、なんだ……直ぐには一緒に行けないのか……」
「学校開けからは『小鬼の森』中心を目指すよ。グイドのパーティーやオットー達は今日から行くらしいからね。負けてらんないよ……」

 リズは悔しそうに爪を噛む。

「そんな焦る事ないよ。秋口から来てた王都のパーティーの人達も、まだ中心までは進めてないんだから」

 カズミがリズを宥める。
 そう、以前からラツィア村に来ていた四パーティーの内、ギザという男のパーティーは解散(30~31話参照)、後の三パーティーは再審査の結果ランクAからBになったものの、経験者としての実力を発揮して『小鬼の森』中心のダンジョンを目指している。
 ただ、どのパーティーもダンジョンへは辿りついていない。最有力であるグイドとオットーのパーティーが今日からアタックするのだ。

「やっぱりトロールがネックよね……アイツらが次々現れると、ほんと疲弊しちゃうから」
「せめてダンジョンまでパーティー同士で協力するのもいいんじゃないか?ってあたしは思うんだけど」

 レナはほんとにめんどくさそうな表情。それにマルティナがなかなか良いアイデアをだす。

「……オットーのパーティーと協力か……なんかヤダ」

 リズがほんとに嫌そうな顔をする。

「……そんなオットーに抱かれるところだったくせに」

 カズミが笑いながら呟く。

「あ、あれは酔ってただけだから……」

 俯くリズ。

「ごめん、冗談だよ」

 自分より大きなリズの頭を撫でるカズミ。

「少なくとも、グイド達と協力するのはやぶさかじゃないな。戻ってきたら提案してみようよ」

 俺は良いと思うのでマルティナに同意した。

「その時はメルダがついていくからね」

 ニコニコしながらカウンターに頬杖をつくメルダ。

「ふぅ……休憩休憩!」

 鍛冶場から汗だくのアルダとエルダが姿を現す。

「メルダ!冷たいの頂戴!……ってヒロくん達まだ居たんだ!」

 エルダがポニーテールを揺らして駆け寄ってくる。

「もう、お茶ぐらい出しときなさいよメルダ。みんな蜂蜜レモンでいい?」

 そう言って店の隅にある魔導具『冷蔵庫』から瓶を取るエルダ。

「アルダはこっちだよね?リズも飲む?」

 別部屋からメルダが麦酒の瓶を持ってきてアルダに手渡す。俺達はエルダから蜂蜜レモンを貰った。

「うーん、アタイは蜂蜜レモンにしとく。……昨日酒で失敗しちゃったからね……」

 リズは俯いたまま、エルダから蜂蜜レモンを受け取った。

「ところでさ、ドロシーちゃんは何の武器使うの?」

 麦酒を一気にあおったアルダが思い出したように質問した。

「ドロシーは弓と格闘術だってさ」
「あと……エストック?ってのも使うって」

  リズの答えに、ドロシーと『念話テレパシー』で会話したカズミが付け加える。

「……思ったより万能。エルフで格闘術って珍しいわね。うん。なんか合いそうな武器作ってみるね」

「そっか……ドロシーの実力も見とかないとね。このあとギルドに行って鍛錬所使わせて貰う?」
「隣の駐留部隊の教練所でいいよ。アルダが話つけてくるね」

 リズにそう言ってアルダは店を出て行った。



 そして教練所の真ん中に俺とドロシーが立つ。つかなんで俺?
 周りはギャラリーでいっぱい。冒険者ランクCの少年と美麗なエルフの立ち合いと聞いて、駐留部隊の兵士達が見学してるんだよな。

「ヒロヤ、ドロシーが『手加減なしで来てください』だって」

 カズミが教練所で借りた木刀を俺に手渡してくれた。ドロシーの得物は長い木剣。ほぼドロシーの身長ほどはある。

「んじゃ……始めるか」

 リズの声に、俺とドロシーが頷く。
 俺は左腰に差した木刀に手をかける。

「よし、始め!」

 合図とともに、木剣を腰だめに構えて突っ込んでくるドロシー。
 初撃を躱すつもりで身構える。
 距離を詰めたドロシーが、突然地面に木剣を突き立てる。

「!」

 突き立てたその長い木剣を利用して、宙を舞うドロシー。完全に虚をつかれた。『身体強化フィジカルブースト』を使用していないので、その姿を目で追うのがやっとだ。
 宙空からドロシーの精確な蹴りが俺の頭部に迫る。両腕の手甲でなんとかその蹴りを受け止めた。
 着地したドロシーが回転しながら木剣をぶん回す。視界外からの一撃に対応できない。

身体強化フィジカルブースト!」

 高速で抜き放った木刀でなんとか一撃を受け流す。
 態勢が明らかに不利になったので、木刀を腰に仕舞いながら距離を取る。
 が、ドロシーは再び木剣を腰だめに突っ込んでくる。
 今度はこちらから間合いに踏み込む。
 腰だめに構えたまま、俺に体当たりするように突きを繰り出すドロシー。
 その突きを半ばまで抜いた木刀で受ける。ヤバい。
 そのまま流れるように背後を取り、なんとかうつ伏せにドロシーを押さえ込んだ。

「それまで!」

 リズの声に、力を抜いて立ち上がるドロシーに手を貸す。

「凄いよドロシー。立体的な動きに武器を利用するんだね」

 こくりと頷くドロシー。

「おおおおお!二人とも凄えぞ!」

 ギャラリーの兵士達から歓声が上がる。
 恥ずかしいので、ドロシーの手を引いてそそくさと教練所の中央から立ち去って、カズミ達の待つ場所へと移動する。

「ほんと、近接得意なエルフって珍しいね。しかも凄い動きだったし」

 アルダが驚嘆する。

「ドロシーの家族は代々格闘術が得意なんだって」

 レナがドロシーの代弁をする。少し頬を赤らめながら。──ドロシーが『念話テレパシー』で何か言ったのかな?

「『やっぱりわたしを捧げるべき主となるのはあなたしか居ない。そう確信しました』だって。……仕方ないねヒロヤ」

 小声でカズミが教えてくれる。

「何が仕方ないのやら……」

 取り敢えず、昼飯でも食べに行こうよ。



「で、今夜は家に帰るのかい?」

 宿へ戻る道中、リズが聞いてきた。

「うーん、どうしようかな」
「私は宿から学校行くよ。ヒロヤもそうしようよ」
「れなは今夜はお家に帰るね。たまにはパパやママと過ごしたいし」

 だよね。この世界で家族と過ごすのが楽しみだったもんねレナは。

「じゃあ、俺も宿から行こうかな。学校の道具だけ家に取りに行くか」

 まぁ、俺達三人は授業受ける必要ないんだけどね。学力的には。

「ちょっと家に寄ってから宿に帰るよ。じゃあカズミ、行こうか?」

 リズ達と別れて、カズミと手を繋いで家に向かって歩き出した。

 しばらく歩くと、俺の左手を握る手が。

「レナ?」

 と左を向くと……ドロシー!?

「え?ドロシー、ついてくるの?」

 こくりと頷くドロシー。

「『どこに行くにも傍にいます』だって。困ったな……」

 カズミが少し上を向いて顎に指を当てる。『念話テレパシー』の仕草だ。
 途端にドロシーの頬が赤くなる。

「うん……そそ、遠慮してもらわなきゃダメな時もあるんだよ?ヒロヤ、付き合ってる女の子がたくさん居るから。……そう、私が第一夫人みたいなものなの……」

 な、なに会話してるのカズミさん?

「『皆さんの末席で構いません。なのでいつかヒロヤさんのお情けをいただけるまで待ちます』だって。──ドロシーの事情考えると……早く抱いてあげなきゃね。オットーみたいな男にかどわかされたら最悪なんだから」

 耳元で囁くカズミ。

「……リズもヤバいんだよね。かなり切羽詰まってるみたい」

 囁き返す俺。

「……マルティナも早く『あの事』から解放してあげたいしね。……それに──」

 もう一度耳元に唇を寄せるカズミ。

「私も早く……また抱いて欲しいし……」
「明日は学校だし、今夜は……一人で寝たいかな」

 少し頬を膨らませるも、納得したのかカズミが話す。

「どちらにしろ、ドロシーが増えたから宿の部屋も広いのに借り換えないとね」
「勉強道具持って宿に帰ったら、女将に話すか。じゃあまた後でね」

 カズミと家の門の前で別れる。

「カズミ!お帰り!」

 玄関でカズミのお母さんが手を振ってる。

「まぁ、少しゆっくりすると良いよ。帰るときにウチに来てよ」

 そう言ってカズミの頬に軽くキスをする。カズミのお母さん公認だから大丈夫。

「うん!じゃあ後でね!」

 手を振り、お母さんの元に走って行くカズミ。

「じゃあ行こうかドロシー。俺の父さんに挨拶したいんだろ?」

 頷くドロシー。ラツィア村に住むに当たって、領主である父に挨拶したいって言ってたしな。
 俺とドロシーは、手を繋いで家へと歩いて行った。
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