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64話「告白」

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 宿まで帰った俺達は、夜遅かったけどまだ起きていた女将にもう一室用意してもらった。ちょっとカズミとレナ相手に大事な話がしたいから。
 今泊まっている隣の部屋の鍵を貰い、まずは元の部屋へ、マルティナと、まだ酔いの醒めないリズを送る。

「ちょっとだけ時間貰える?あとでみんなに大事な話あるから、少しだけリズとここで待ってて」

 俺の言葉に、真剣な表情でマルティナが頷く。

「リズ姉ちゃんはあたしがちゃんと見てるね」

 そう言ってリズを連れて部屋に入っていった。

「俺さ……リズとマルティナには『転生者』である事を伝えときたいんだ」

 追加で借りた部屋で、レナとカズミを前に話した。

「これまでもこれからも、彼女たちは大切な仲間だし、ちゃんと言っておきたい。それに、マルティナには見られてるしね」

 さっきオットーと対峙した時の俺。前世の俺『尾武浩哉』として相対したいと意識した時に発現した力。自分では分からなかったけど、他者には『大きく見えた』らしい。

「だよね。れなも驚いたけど、あれはヒロヤくんの身体自体が大きくなってた訳じゃないのよね。……上手い表現が見つからないけど、オーラっていうか霊力?が前世の『尾武浩哉』を形どってたというか……」
「うん。あれは以前の浩哉の背中だった。何が起こってたの?」

 カズミの質問に、俺は少し考えて話しだす。
「上手く説明できるかどうか分からないけど……」



「俺は確かにヒロヤ・オブライエンなんだ。この世界で生まれ変わったんだからね。ただ、魂は尾武浩哉なんだよ。だから、この子供の身体がすごくもどかしかった。何をするにもね」

 カズミとレナは頷いて聞いてくれる。

「でも、それがこの世界で生まれて生きていく為には当たり前で仕方ない事なんだと思ってたんだよ。『俺は子供なんだから』って。でもね……」

 一旦切り、考えをもう一度まとめて言葉にする。

「エルベハルトに会った後ぐらいからかな?『もし前世の俺自身の力が出せたなら』って思うようになったんだ。それで、一度『前世の俺なら』って意識して身体を動かしたときがあって……それが今夜みたいに『身体強化(フィジカルブースト)』を使う以上に動けたんだ」
「……やっぱり、ヒロヤくんは前世の段階でチートだったのよ。時代が時代なら間違いなく『剣豪』と讃えられた存在よ」

 呆れたようにレナが笑う。

「多分『尾武浩哉』を意識する事で、魂が『本来の大きさ』になって、子供の身体に収まりきらない分溢れたのがあの姿だったのかも。そんな事ができるなんて、れな的に全く想定外だけど。あの瞬間のヒロヤくんは間違いなく『ランクSの剣士』だったわ」

 そう言って、俺の腕を掴むレナ。

「痛いっ!」
「でしょうね。『身体強化フィジカルブースト』以上の強化なんだもの。身体に掛かる負荷は酷いものだと思う。流石に回復しといた方が良いわ。もはやトレーニングレベルじゃないし」

 レナが両手のひらを俺にかざす。薄緑色の光で、俺を癒やしてくれた。

「ありがとう。随分楽になったよ」
「今夜みたいな力はなるべく使っちゃだめ。確かにもどかしいだろうけど、地道に今の身体を鍛える事」

 そう言って、癒やした俺の背中を叩くレナ。

「うん。そうするよ。……でも、マルティナに見られたからには、変にごまかしたくないんだ。マルティナにもリズにも、本当の事を説明しときたい。あ、もちろんカズミやレナの事は別だから、俺の事だけ……」
「私もちゃんとホントの事言っておきたい」

 カズミが俺の腕を抱きしめる。

「これからも生命を預け合う仲間だから……ちゃんと言っておきたい」
「れなは流石に『女神様ですよ~』ってのはマズいから……あなた達の事情を知ってる『見届け人』とでも説明しておくわ」
「二人ともいいの?」
「れなだって、マルティナやリズが大好きなんだよ?れな自身の『ホントの事』は言えないけど、あなた達二人の事を打ち明けられるだけでも、気持ちが楽になれるよ」

 レナとカズミは俺に同意するように頷いてくれた。

「よし、じゃあ行こうか」

 俺達は元の部屋へと向かった。



 部屋に入ると、マルティナは居間のテーブルに着き、リズはベッドに座っていた。

「リズ?大丈夫?まだお酒抜けてない?」

 俺の質問に、顔を赤くするリズ。

「いや……だ、大丈夫だ。……少し飲んでからの記憶が曖昧な感じもするけど」
「俺が、オットーからリズを奪い返したことは?」
「そ……それは覚え……てる……」

 さらに顔を赤らめるリズ。
『俺の女』宣言を思い出してるんだろうな。その辺に関してはカズミと話する必要がある。

「大事な話があるんだ。みんなは到底信じられない様な内容なんだけど……聞いて欲しい」

 予め『大事な話がある』と聞かせてあったマルティナは、真剣な眼差しで頷いた。リズはキョトンとしていたが、俺の真剣な目を見て、その居住まいを正した。

「俺、前世の記憶があるんだ」



「俺は生まれる前に生きていた世界で、23歳で死んだ。その記憶を持ったまま、この世界に生まれてきたんだ」
「……えっと、どういう事だ?」

 いまいちピンと来てない様子のリズ。マルティナも同様だ。

「まずはそこから説明するね」
「ちょっと待ってくれ。アタイもそっちに移動する」

 そう言ってマルティナの隣に座るリズ。
 リズもマルティナも、改めて背筋を伸ばして俺を見る。カズミは俺の隣に座り、レナはベッドに移動し、腰を下ろした。

「俺がいた世界の死生観や宗教観では『輪廻転生』って考えがあってね。人が死ぬと、その心や魂は神様の元に行くんだよ。そこで、生きている間に受けた穢れや業ってやつを一旦綺麗にしてから、また新たな生を受けて生まれ変わるって考え。ここまではわかる?」

 リズもマルティナも静かに頷く。

「もちろん、綺麗になるわけだから生きていた時の記憶なんかは消えちゃう訳。そして新しくゼロから人生が始まるんだけど……」

 俺はカズミを見た。カズミは小さく頷いて、俺の言葉を継いだ。

「私も同じ事故でヒロヤと一緒に死んだの。29歳の時だったわ。そして、二人とも恐らく天国……いえ、神様の元に行く事なく、すぐにこの世界に生まれ変わったのよ。だから前世の記憶を持ったままなんだと思う」
「ヒロヤもカズミも……前世から一緒だったのか?」
「ええ、同じ会社……いえ、同じ仕事をしてた仲間だったわ。そして……私はヒロヤに恋をしていた。……でも、その想いは叶う事なく……二人は事故で死んだの」

 リズの質問に、カズミがゆっくりと答えた。

「俺もカズミの事が好きだった」

 マルティナの目に涙が溢れる。

「でも……ここに生まれ変わって……叶ったんだよね……ヒロヤ兄ちゃん、カズミ姉ちゃん……よがっだね……」

 涙声で話すマルティナ。

「なるほど。という事は、ヒロヤの心は23歳、カズミの心は29歳という訳か」
「リズご名答。その通りなんだ。子供なんだけど、心は大人なんだよ」
「納得。道理で大人びてたわけだよ、二人とも」
「だから、例えば俺の剣技ってのは、前世で身につけていたもので、記憶の中の剣技を稽古で履修して、今の身体にフィードバックさせたんだ」
「そして、れなはそんな二人を見守る天使みたいなもんかな?」
「「レナにもそんな秘密が!」」

 リズとマルティナが振り返って、ベッドに座るレナを見た。

「天使かどうかはさておき、れなは二人が前世の記憶を持ってこの世界に生まれ変わった事を知ってるの。二人がこの世界で上手に生きていく為の手助けをする役目だと思ってくれれば」

 そう言ってニッコリ笑うレナ。

「だからマルティナ。今夜オットーと立ち会ったときに見た『大きな俺』って言うのは、恐らく前世の『尾武浩哉』の姿なんだよ」
「ヒロヤくんの前世は、この世界で言うと『ランクS剣士』以上の腕前はある人だったからね」

 レナが自慢気に話す。

「でも、なんで前世の姿が?」

 マルティナが涙を拭いて聞く。

「うん。恐らく俺の魂?心?が溢れたものが形作ったものらしいんだ。──実は俺も良くわかってない。子供の身体がもどかしくて、『前世の俺だったら……』って思った時にああなったんだよ」
「そっか……ヒロヤとカズミにそんな秘密があったんだね。でもなんで打ち明けてくれたんだ?」
「リズ……キミやマルティナに嘘をつきたく無かったんだよ。心から信頼できる二人だからこそ、ホントの俺やカズミを知って欲しかったんだ」
「お、たまに出るこういう言い回しが大人っぽかったんだよ。そりゃそうか、アタイより年上だったんだもんな」

 カラカラと笑うリズ。

「ホントにお兄ちゃんお姉ちゃんだったんだ……」

 頬を赤く染めて微笑むマルティナ。

「な、これからは甘えていいか?」
「今まで通りでお願いしますリズ様」
「……普通に受け止めてくれてるけど……信じてくれたの?」

 カズミが不安げに問う。

「ヒロヤとカズミがそう言うんなら、それが事実なんだろ。アタイ達はそれを受け入れるだけだよ」

 リズの返事にマルティナもうんうんと頷く。

「……ヒロヤくんもカズミも、いい仲間を持ったね」
「何言ってんのレナ。アンタも大切な仲間なんだから」
「レナ姉ちゃんも大切な仲間で家族。あたしはずっとそう思ってるよ」
「……二人してれなを泣かせるつもりね?」

 リズとマルティナの言葉に、レナは笑顔を浮かべるものの、瞳は涙で潤んでいた。



「大事な話はこれでお終い?じゃあ明日の為に早く寝たいから、ヒロヤもカズミも隣の部屋に行ってくれないかな」
「え?なんで?」
「そうよリズ、みんなで一緒に寝ようよ」

 俺とカズミの抗議に聴く耳持たず、席を立たせて部屋の扉の方へと追いやるリズ。

「……前世からの恋人同士なんだから、たまには二人っきりにしてやろうってんだよ。『たまには』だからな」
「うん『たまには』だね」
「れなも『たまには』で許可するよ」

 三人でニヤニヤ笑いながら、結局俺達を部屋の外に追い出した。

「……らしいよカズミさん……」
「部屋行こっか……」

 隣の部屋の扉を開け、二人で入った。
 扉を閉めた途端に、俺を抱きしめて口づけをするカズミ。

「今夜……抱いて欲しい……」
「……久しぶりに二人っきりだもんな」
「あの『浩哉』の背中を見てから……もう我慢できないの……だから……今夜は最後まで──」
「するの……?」

 カズミの返事を待たず、口づけを返す俺。舌を絡ませ、力いっぱいカズミを抱きしめる。

「くちゅ……ん……して欲しい」

 俺はカズミの耳元で囁いた。

「するよ……最後まで……」
「はぁぁぁぁん♡」

 俺の囁きに、腰から崩れ落ちそうになるカズミを抱き上げて、ベッドに向かった。

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