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42話「宿場町アビル」

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「どうだ?少し早く走るとケツが痛いだろ?」

 翌朝、俺とカズミはそれぞれ単独で馬に乗せられた。荷物をそれぞれの馬に分散して、俺とカズミとマルティナが単独で乗り、リズはレナを前に乗せている。
 乗るにあたって、手綱の引き方や拍車の掛け方を教えて貰ったものの、普通に跨って乗るとリズが言うように尻が痛い。

「うん。お尻が跳ね上げられて、落ちるタイミングで馬の背中がガツンと下から突いてきてかなり痛いよ……」

 並走するリズとマルティナに訴える俺。

「私も痛い……」

 カズミもかなり参っている様子だ。

「コツがあんだよ」

 リズがニヤリと笑う。

「内腿で馬体を……つか鞍だな。それを軽く挟み込んで、膝使うんだ。馬の背中が上に跳ねるタイミングで『フワッ』って感じでお尻上げてみ?」
「そして、膝の力抜いてまたお尻下げるの。それの繰り返し。大事なのはリズムだよ」

 リズとマルティナが左右から教えてくれる。ふむ。なるほど。

「こんな感じか……あ、わかった。このリズムだな」
「お尻上げるときは、膝も使うけど『馬の背中が上がる力』も利用するんだよ。押し上げてもらう感じで。そうじゃないと膝が疲れちゃうから」

 併走するリズの前に乗るレナがアドバイスしてくれる。

「えー!だめ!うまくリズムが掴めないぃ!お尻痛いぃ!」

 俺はコツを掴んだので、馬の腹に拍車を入れて少し速度を上げてみる。

「……やっぱヒロヤのカンの良さは凄ぇな。すぐ覚えやがるよ」
「私、ヒロヤに乗せてもらうぅ!」

 カズミの絶叫が後ろから聞こえてきた。



 という訳で、カズミは俺の後ろに乗っている。

「カズミが乗れる様になったら、もう少し旅のスピード上がるんだよ?」

 速度を上げると、一緒に乗ってるカズミの尻が痛いだろうから、今までのスピードで街道を進む。

「……だって出来ないんだもん……どうせ不器用ですよ……」

 俺にしがみついたカズミが不満を漏らす。あれか高○健か。『自分……不器用ですから……』みたいな。

「まぁ、タイミングみて、また練習しような?」
「私、今のままがいいな……」

 そう言ってさらに身体を押し付けるようにしがみついてくる。

「……イチャイチャ感は好きだけど……」
「でしょ?」
「それとこれとは別だからね?後ろに乗るとしても、ちゃんと乗れる様になったら速度上げられるんだから」
「……はい……がんばります……」
「よし。良い子だ」

 後ろ手に頭を撫でてやる。

「えへへ」

 またしがみつく腕に力が入った。



 少し陽が傾き出した。

「夜までにアビルまで着くよ!」

 リズが少し速度を上げる。
 確かに中途半端に野営するよりは、宿場町に着いておきたい。

「カズミ、後ろのあぶみにしっかり足掛けて、少しお尻浮かしとくんだよ」
「わかった」

 お尻を浮かせるカズミは、自動的に俺の背中に身体を預ける形になる。つるぺたとはいえ、ほんのりと柔らかさが背中に伝わる。

「いいよリズ!ペース上げよう!」

 俺は前のリズに声を掛けた。
 リズは俺達のより後方に目をやる。家族馬車がついてきてるか確認してるのだろう。

「……大丈夫みたいだね。よし!このペースで駆けるよ!」
「「「はい!」」」

 マルティナとレナが続き、その後ろを俺がついていく。
 前の商隊もペースを上げる。少し離れた所を併走するエルフさん達も続く。みんな考えは同じだろう。
 速度は上げたものの、俺達は無理のないペースで駆け続けた。



「お疲れ様でした。おかげで安全で楽しい旅ができました」

 宿場町アビルの入り口で、家族馬車のお父さんが声を掛けてきた。

「わたしたちは祖父母がこの町にいるので、ここまでなんですが、みなさんは王都まで行かれるんですよね。残りの旅の安全をお祈りします」
「バイバイ!」

 奥さんと女の子が手を振る。
 では。とお父さんは頭を下げて、馬車は町へと入っていった。

「エルフさん達は大森林ですよね?」

 俺は隣に並んできたエルフさんに声を掛けた。

「ええ。またラツィア村に行った時はよろしく」

 そう言って手を挙げて町へと入っていった。

「君たちのおかげで、気を張らず、安心して護衛任務ができたよ。我々も王都までなんだが、明日の朝出発かい?」

 商隊を代表して護衛の冒険者が声を掛けてきた。

「ああ。早く王都に行かなきゃなんないからね」

 リズが答える。

「そうか。ウチの商隊は、ここでの商談を済ませてかららしいから、明後日の出発なんだ。君たちの旅の無事を祈るよ」

 そう言って、先行する商隊を追いかけていった。

「さて……アタイ達も宿に行くか」

 俺達も町の入り口をくぐっていった。



 父さんの手配してくれた宿に着き、荷物を降ろした馬を厩へと預ける。

「やっぱり一部屋だってよ」

 受付を済ませたリズが笑う。

「……だろうね……」
「まぁいいじゃん。もう遠慮する仲でもないだろ」
「そうだよ!みんな仲間!」
「また一緒に寝ようね」

 ……みんな楽しそうだしいいか。

「ねーねー!ここお風呂あるよ!」

 一足先に宿の中に入っていたレナが走ってきた。

「ああ。この宿は最初の主人が東方出身でな。あそこはお風呂に入る習慣があったらしいから」

 部屋まで先導するリズが教えてくれた。

「やった!」
「お風呂……嬉しい……身体休まる……」

 マルティナは喜び、カズミはホッとした表情をしている。みんなやっぱり疲れただろうからな。

「んじゃ、荷物を部屋に置いたら先に風呂行くか」

 リズも嬉しそうに笑った。



「ふぅ……」

 身体を洗い、湯舟に浸かる。一日の疲れがお湯に流れ出るような感覚。

(気持ちいい……)

 乗馬で普段使わない筋肉を使った感があって、さすがに俺も疲れた。
 リズの話によると、明日の朝出発すれば明後日の夜までには王都に到着するらしい。

(もうすぐ王都か。ようやくだな……)

 俺はまだ見ぬ王都に思いを馳せる。
 まずは軍務大臣に会うらしいけど……

(どんな人なんだろうな。元勇者って……)

 魔王を倒したというパーティー。その中心人物。彼にすべてを任せてあると父さんは言っていたが。

(凄腕の剣士なんだろうな。職人に防具を注文する前に相談しなきゃな)

 俺の『古式居合術・尾武夢想流』を活かすには、動きを阻害するような防具ではだめだ。かといって、全く防御が無いのは冒険者として不安。
 最低限の防御。それをどんな風にすればいいか相談にのってもらおう。
 そんな事を考えてるうちに、気持ち良すぎてなのか睡魔がジンワリと襲ってきたので、湯舟を出て冷たい水で顔を洗い、風呂を出た。



「なぁなぁ……今夜は飲んで良いか?」

 風呂上がりに一階の食堂で食事を頼んだ時、リズが言った。

「そろそろ……冷たい麦酒をグビッといきたいんだよ……」

 手を合わせて頼んでくるリズ。

「良いんじゃない?明日に残るような飲み方さえしなければ。すいません!」

 カズミが給仕さんを呼ぶ。

「うん。旅に出てからはろくに飲んでないもんね。俺もリズはよく頑張ったと思うよ?」
「そうか?ありがとう!あ、注文追加ね。麦酒!よく冷えたやつひとつ!」

 リズはやってきた給仕さんに嬉しそうに注文した。



 結局、リズは食事と一緒にジョッキで三杯飲んだ。まぁふらふらになるほどではないから問題無いかな。

「さ、明日は朝から出発するから早く寝ないとな」

 少し酔ってご機嫌なリズが早速ベッドに飛び込む。

「いつもカズミたちと寝てるから、たまにはアタイと寝るかい?」

 と俺に色っぽい視線を送ってくるけど、カズミに遮られる。

「ダメ!ヒロヤは私──私達と寝るの!」
「リズ姉ちゃんも一緒に寝たいの?」
「いや、いくらなんでもベッド狭いっしょ?」
「大丈夫だよ」

 レナとマルティナが隣り合ったベッドを引っ付ける。

「これでみんな一緒に寝れるんじゃない?」

 レナにそう言われて、少し顔を赤らめたリズがおずおずと近寄ってくる。

「い、良いのかい?」
「……よし!今夜はみんなで寝よう!」

 開き直った俺は、部屋のランプを消して真っ先にベッドのど真ん中を陣取った。

「「「おやすみーーー!」」」

 あとはみんながベッドになだれこんでくる。もう修学旅行のノリだな。
 誰がどこに陣取ったかもわからないけど、お風呂の時から付きまとっていた睡魔にとうとう襲い掛かられた俺は、あっというまに眠りに落ちていった。

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