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8話「稽古」
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「エィッ!エィッ!エィッ!エィッ……」
放課後、お昼ご飯を済ませてカズミの家まで来た俺は、とにかく木剣を持って素振りを続けている。
まず最初に師匠となったミュラー騎士に
「昨日みたいに『身体が勝手に動くまま』振ってみなさい」
と言われ、俺は記憶にある『尾武無想流』の型を幾つかやってみた。
分かってはいたが、やっぱり型をなぞるだけで『身についてない』動きになった。昨日はたまたまだったんだな……
「ふむ……やっぱり私の知る東方の剣術によく似ている」
師匠の話によると、黒い瞳に黒髪という特徴は元々この大陸の東方がルーツだという。
「昨日領主様とも話したんだが、君の家の血筋もそちらの方らしい。私達もそうだから意気投合してね」
まぁ、何代も前に遡るらしいから東方の地について詳しくは知らないらしいが。
「ウェルニア帝国全盛期、東方に『ヒムカ』という最後まで屈さなかった小国があってね。やがて攻め滅ぼされ、一族やその民は大陸全土に散り散りになったと言われている」
その『ヒムカ』の話を詳しく聴くと、俺達の世界のかつての日本の様な文化だったみたいだ。
「とにかく、君の動きを見ているとそこで発達した剣術そのものだ。『一手一手に必殺を籠める』なら、先ずは正確な剣捌きとスピードを鍛えようか」
という師匠の見立てで、こうやって素振りを続けている。
「一点を見据えて……そこを狙い……どの太刀流れからもそこを正確に捉える……」
上段、右上段、左上段、右下段、左下段、右中段、左中段……
様々な角度から見据えた正面の一点を捉える。
(とにかく正確に、そして速く……)
「うん。懐かしいな……」
流れ出る汗が心地良い。幼い頃の様々な習い事は本当に嫌だったけど、道場通いだけは大好きだった。
どんな練習をしたかは頭に入ってるので、実際の所師匠の出番はあまりないと最初は思っていた。
が、この世界で剣を使うにあたっては元の世界とはかなり違う。
相手がモンスターである場合も当然だけど、人型である場合も様々な武器・防具を相手にしないといけない。
モンスターはもとより、盾を装備した相手とすら立ち合いなどしたことが無い。
基礎を履修してある程度使える様になったら、それこそ師匠の教えの重要性が増す。
(まずはちゃんと動けるように剣を振ろう)
俺は一心不乱に素振りを続けた。
「お疲れ。良く振れてたよ。まず大切な事は剣に慣れる事と基礎体力だからね」
師匠が、庭のベンチに座って休憩する俺にタオルを手渡してくれた。
「じゃあ私は兵舎に行くけど、もう少し続けたら終了するように。無理はいけないよ」
そう言って俺の頭に手をのせた。
「ありがとうございます」
「稽古が終わったら、カズミと遊んでやってくれ。裏庭でレナちゃんとなにかやってたみたいだから」
師匠は軽く手を上げ、仕事に出掛けていった。
(そういえば魔術を教えてもらうって言ってたな)
「ヒロヤー!稽古終わった?」
素振りをしばらく続けてたところへ、カズミとレナが走り寄ってきた。
「うん。もう終わり」
「キャッ!」
カズミが両手で眼を覆う。あ、上半身裸だったわ俺。
「おー6歳児にしてはしっかりした身体してるねぇ」
レナが頬を赤らめながらもジロジロと見る。
「ごめん。すぐ服着たいけど、ちょっと汗だけ拭かせて」
俺は庭の端にある井戸へ走った。
桶に水を汲んで、タオルを浸して絞る。
「うひゃ!冷たくて気持ち良い」
「背中拭いたげようか?」
レナが背中越しに言う。なんか言い方やらしいから。
「わ、私が拭いてあげる!」
カズミが俺の手からタオルをひったくると、桶にもう一度浸して背中を拭ってくれる。
「ありがとう。はぁー気持ち良いわ!」
「で、魔術の方はどう?なんか使えるようになった?」
シャツを着ながら聞いてみた。
「魔術は素質とイメージだからね。素質が無きゃまず使えないし、素質はあってもイメージを魔力で具現化出来るようになるまでが大変なんだよ」
ベンチに腰掛けるレナが答えた。
「まぁカズミの場合、素質の方はあるからね。今はイメージを心の中で描く訓練ってとこかな。それが出来るようになれば初歩的な魔術数点はすぐに使えるようになるわ」
そう言ってレナが手のひらを差し出す。しばらくすると、その手のひらに淡い光の玉が現れた。
「これぐらいの魔術は一週間で使えるようになって欲しいわね」
「そんな短期間で出来るの?」
カズミに後ろからベストを着せてもらいながら聞く。
「『光の玉』の魔術は1番イメージを魔力で具現化しやすいんだって。頑張る」
そう言ってフンスッ!と鼻息荒く、両手でガッツボーズをとるカズミ。
「ところでさ、私にどんな魔術覚えて欲しい?」
「いや、まずは使える様になってからだろ?」
俺は呆れたようにカズミを見た。
「三人でパーティー組む想定で、どういう担当にするか?って話なら……私は回復・攻撃何でもござれよ。直接戦闘は……厳しいわね」
レナがカズミの質問をフォローする。
「なるほど。そういう話なら……身体強化とか支援系使えるようになって欲しいかな?」
「なんか地味ぃ……その辺はヒロヤが自分で使えるようになればいいじゃん」
カズミがふくれっ面をかます。
「地味って……」
「魔術の基礎さえ出来てれば、覚えやすい魔術だよ身体強化系は。剣士と相性いいし」
「じゃあやっぱりその辺はヒロヤ自身に任せて……私も派手な攻撃魔術覚えて、レナとふたりで暴れちゃう」
「……頼むから俺をその派手な攻撃魔術で敵ごと巻き込むなよ……」
「でさぁ、今日は何処に遊びに行くの?」
「私はレナの家のある辺り、村の中心街に行ってみたい!」
「あ、俺も。昨日レナの家に行っただけだからなあの辺は」
「ふむ。じゃあ案内しましょうか」
俺達はいつものように三人手を繋いで駆け出した。
放課後、お昼ご飯を済ませてカズミの家まで来た俺は、とにかく木剣を持って素振りを続けている。
まず最初に師匠となったミュラー騎士に
「昨日みたいに『身体が勝手に動くまま』振ってみなさい」
と言われ、俺は記憶にある『尾武無想流』の型を幾つかやってみた。
分かってはいたが、やっぱり型をなぞるだけで『身についてない』動きになった。昨日はたまたまだったんだな……
「ふむ……やっぱり私の知る東方の剣術によく似ている」
師匠の話によると、黒い瞳に黒髪という特徴は元々この大陸の東方がルーツだという。
「昨日領主様とも話したんだが、君の家の血筋もそちらの方らしい。私達もそうだから意気投合してね」
まぁ、何代も前に遡るらしいから東方の地について詳しくは知らないらしいが。
「ウェルニア帝国全盛期、東方に『ヒムカ』という最後まで屈さなかった小国があってね。やがて攻め滅ぼされ、一族やその民は大陸全土に散り散りになったと言われている」
その『ヒムカ』の話を詳しく聴くと、俺達の世界のかつての日本の様な文化だったみたいだ。
「とにかく、君の動きを見ているとそこで発達した剣術そのものだ。『一手一手に必殺を籠める』なら、先ずは正確な剣捌きとスピードを鍛えようか」
という師匠の見立てで、こうやって素振りを続けている。
「一点を見据えて……そこを狙い……どの太刀流れからもそこを正確に捉える……」
上段、右上段、左上段、右下段、左下段、右中段、左中段……
様々な角度から見据えた正面の一点を捉える。
(とにかく正確に、そして速く……)
「うん。懐かしいな……」
流れ出る汗が心地良い。幼い頃の様々な習い事は本当に嫌だったけど、道場通いだけは大好きだった。
どんな練習をしたかは頭に入ってるので、実際の所師匠の出番はあまりないと最初は思っていた。
が、この世界で剣を使うにあたっては元の世界とはかなり違う。
相手がモンスターである場合も当然だけど、人型である場合も様々な武器・防具を相手にしないといけない。
モンスターはもとより、盾を装備した相手とすら立ち合いなどしたことが無い。
基礎を履修してある程度使える様になったら、それこそ師匠の教えの重要性が増す。
(まずはちゃんと動けるように剣を振ろう)
俺は一心不乱に素振りを続けた。
「お疲れ。良く振れてたよ。まず大切な事は剣に慣れる事と基礎体力だからね」
師匠が、庭のベンチに座って休憩する俺にタオルを手渡してくれた。
「じゃあ私は兵舎に行くけど、もう少し続けたら終了するように。無理はいけないよ」
そう言って俺の頭に手をのせた。
「ありがとうございます」
「稽古が終わったら、カズミと遊んでやってくれ。裏庭でレナちゃんとなにかやってたみたいだから」
師匠は軽く手を上げ、仕事に出掛けていった。
(そういえば魔術を教えてもらうって言ってたな)
「ヒロヤー!稽古終わった?」
素振りをしばらく続けてたところへ、カズミとレナが走り寄ってきた。
「うん。もう終わり」
「キャッ!」
カズミが両手で眼を覆う。あ、上半身裸だったわ俺。
「おー6歳児にしてはしっかりした身体してるねぇ」
レナが頬を赤らめながらもジロジロと見る。
「ごめん。すぐ服着たいけど、ちょっと汗だけ拭かせて」
俺は庭の端にある井戸へ走った。
桶に水を汲んで、タオルを浸して絞る。
「うひゃ!冷たくて気持ち良い」
「背中拭いたげようか?」
レナが背中越しに言う。なんか言い方やらしいから。
「わ、私が拭いてあげる!」
カズミが俺の手からタオルをひったくると、桶にもう一度浸して背中を拭ってくれる。
「ありがとう。はぁー気持ち良いわ!」
「で、魔術の方はどう?なんか使えるようになった?」
シャツを着ながら聞いてみた。
「魔術は素質とイメージだからね。素質が無きゃまず使えないし、素質はあってもイメージを魔力で具現化出来るようになるまでが大変なんだよ」
ベンチに腰掛けるレナが答えた。
「まぁカズミの場合、素質の方はあるからね。今はイメージを心の中で描く訓練ってとこかな。それが出来るようになれば初歩的な魔術数点はすぐに使えるようになるわ」
そう言ってレナが手のひらを差し出す。しばらくすると、その手のひらに淡い光の玉が現れた。
「これぐらいの魔術は一週間で使えるようになって欲しいわね」
「そんな短期間で出来るの?」
カズミに後ろからベストを着せてもらいながら聞く。
「『光の玉』の魔術は1番イメージを魔力で具現化しやすいんだって。頑張る」
そう言ってフンスッ!と鼻息荒く、両手でガッツボーズをとるカズミ。
「ところでさ、私にどんな魔術覚えて欲しい?」
「いや、まずは使える様になってからだろ?」
俺は呆れたようにカズミを見た。
「三人でパーティー組む想定で、どういう担当にするか?って話なら……私は回復・攻撃何でもござれよ。直接戦闘は……厳しいわね」
レナがカズミの質問をフォローする。
「なるほど。そういう話なら……身体強化とか支援系使えるようになって欲しいかな?」
「なんか地味ぃ……その辺はヒロヤが自分で使えるようになればいいじゃん」
カズミがふくれっ面をかます。
「地味って……」
「魔術の基礎さえ出来てれば、覚えやすい魔術だよ身体強化系は。剣士と相性いいし」
「じゃあやっぱりその辺はヒロヤ自身に任せて……私も派手な攻撃魔術覚えて、レナとふたりで暴れちゃう」
「……頼むから俺をその派手な攻撃魔術で敵ごと巻き込むなよ……」
「でさぁ、今日は何処に遊びに行くの?」
「私はレナの家のある辺り、村の中心街に行ってみたい!」
「あ、俺も。昨日レナの家に行っただけだからなあの辺は」
「ふむ。じゃあ案内しましょうか」
俺達はいつものように三人手を繋いで駆け出した。
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