【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

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5話「神様夫婦」

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「あそこがれなのお家」

 村のメインストリートにある商店街の一画。

『ローゼン治療院』の看板が上がっている2階建ての家。

 黒板で見た文字と同じで日本語では無いのだけど、流石にこの世界で6年は生きた経験が意識せず働くのか、この文字もちゃんと読める。おそらく言葉なんかもそうなんだろう。

「ただいま~!お友達連れてきたよ!」

 レナが両開きの扉を開けて入っていく。

 俺とカズミは顔を見合わせて小さく頷き、意を決して扉をくぐった。なんせ扉の向こうは神様だらけの世界なんだから。



 部屋は小さな医院の待合室といった感じ。俺達が元居た世界の雰囲気がする。

「君たちが娘の言ってた転生者だね?」

 部屋の中でレナを抱き上げていた白衣の男性が歩いてきた。

 金色のたてがみの様な髪とあごひげ。ガッチリしててすごくデカい。

「まるでライオン……」

 カズミがそっと呟く。

「レナの父でルドルフという。娘から話は聞いてる。本当にすまなかったね」

 抱いていたレナを降ろすと俺達の前にしゃがみ込み、カズミと俺の手を取って包み込むように握りしめた。

「ヒロヤ・オブライエンです。……元の世界での事は本当にもう良いんです。大丈夫ですから」

 見た目と違って、そっと手を包み込まれたその優しい雰囲気に少し驚いた。

「私はカズミ。カズミ・ミュラーです。ルドルフさんは……その……やっぱり神様なんですよね?」

 カズミはもう片方の手をルドルフさんの手に重ねながら聞いた。

「そうだよ。こことは違う別の世界を担当してる」

「レナのお友達が来たのね!クッキー焼けたから早くおいで!」

 奥の部屋から女性の声がする。レナのお母さんなんだろう。

「おいで。お茶の時間にしよう」

 そういって奥の扉を開けるルドルフさん。同時に甘い香りが広がった。




(美味い!)

 焼きたてのクッキーとおそらくミルクティー。

 レナの母親『ジゼル』さんが振る舞ってくれたおやつが美味すぎる。

「チョコクッキーも美味しい!この世界でもチョコレートあるんですね!」

 カズミは蕩けそうな笑顔で頬を抑える。そういや好きだったなチョコ。

「気に入って頂けて嬉しいわ。さぁどんどん食べて食べて」

 ジゼルさんが調理場のオーブンからまた焼きたてのクッキーを持ってくる。

 レナに似た長い銀髪の美しい女性。

 ルドルフさんとは、あれだ。『美女と野獣』だ。

「ウチのレナのせいで、ほんとに申し訳ない事になっちゃってごめんなさい。でもね……私達、実はあなた達の転生に感謝してるの」

 席についたジゼルさんが言う。

「だな。俺とジゼルはそれぞれの世界の神としてずっと忙しくしててな……レナに親として家族として満足な事が何ひとつ出来なかったんだよ」

 ルドルフさんがクッキーを頬ぼるレナの頭を愛おしそうに撫でる。

「そうそう。レナが『転生させたあなた達を傍で責任持って見届ける』ってこの世界での生活を決めてね。それじゃあ私達も一緒に。って。こうやって家族として親子としてやり直せるなんて夢みたい」

 そんな父と娘のやりとりを楽しげに眺めながらジゼルさんが言った。

「おふたりとも、神様としてのお仕事は……大丈夫なんですか?」

 大きなミルクティーのカップを両手で抱え込んだカズミが聞く。

「千年は休み無く働いたからなぁ。百年ほど休暇させてもらうさ」

 ルドルフさんが豪快に笑う。

「本来の力のごく一部だけでこの世界に来てるだけだから、担当世界で何かあっても対応できるわ。心配しないで」

 ジゼルさんもつられて微笑む。

 うん。休暇は必要。ましてや家族としての絆を深めることに勝るものはない。それがどんな仕事であれ。

 そしてそんな幸せそうな3人を羨ましそうに眺めるカズミ。

(前世で結婚失敗しちゃってるからなぁ……きっとこんな家庭が欲しかったんだろうな)




「ほほぉ。冒険者を目指すのか。ならば少なくとも12歳までは勉強と鍛錬を怠らん事だな」

 俺とカズミが『この世界でしたいこと』を伝えると、ルドルフさんがミルクティーを飲み干して言った。

「村の学校は6年制。この国では冒険者として登録できるのが12歳からだ。ちょうど卒業する年だな。小さいながらこの村にもギルドの出張所はあるし、駆け出しにはちょうどいいモンスターもいる」

「そうね。ここで経験を積んでから大きな街に行けばいいわ。まぁレナの話によると、この世界の厄災も向こう100年は起きないと言うし。おそらく平和な時代が続くでしょうけど、冒険者の仕事はそんな時代でも引く手あまたの筈よ」

 ジゼルさんも賛成してくれる。

「ま、逆にいえば『世界の危機を救う』ような熱い冒険は無いでしょうけど、それはそれで三人でまったりのんびり冒険を楽しみましょ」

 そう言うレナが一緒に冒険者になってくれるのはほんと心強い。

「……さて、そろそろ帰らないと。カズミの家で父さんが待ってるかも」

 傾いた陽が窓から差し込み、治療院のリビングも柔らかなオレンジ色に染まりだす。

「だね……私達そろそろ帰ります。レナ、明日からよろしくね」

 俺達は少し高さのある椅子から「よいしょ」と降りる。

「ごちそうさまでした。俺、こんな美味しいクッキー食べたの初めてでした」

 俺とカズミはペコリと頭を下げた。

「こちらこそレナのことよろしく。これ持って帰って食べてね」

 ジゼルさんはそう言って俺とカズミに可愛い紙包みをくれた。その包みからはクッキーの甘い匂いがする。

「ありがとうございます!」

 カズミが嬉しそうに包みを抱きかかえた。

 リビングを出て、治療院の玄関に向かう。

「また遊びにおいで。いつでも歓迎するよ」

 レナを肩車したルドルフさんがニッコリ微笑む。

「はい!じゃあレナ、また学校でね」

 カズミがレナに手を振る。俺もレナを見上げながら手を振った。

「うん!また明日!」

 ルドルフさんの肩の上からレナも手を振る。

 俺達はもう一度頭を下げると、治療院を出た。




「優しそうな神様だったね」

 俺とカズミは手を繋いで家路についた。

「うん。とっても良い家族だった」

 カズミは少しうつむき加減で微笑んだ。

「……あんな家族になりたいね……」

 そう言って俺は少し強くカズミの手を握る。

 カズミは驚いたように俺を見て、それからはにかんだ様に笑った。その顔が赤いのは夕焼けのせいじゃないと思う。

「は、早く帰ろう!遅くなったら怒られちゃう!」

 思い切った事言っちゃったけど、流石にちょっと照れくさかった。俺はカズミの手を引き、早足で歩き出した。

「うん!急いで帰ろ!」

 ふたりで夕焼けの中を駆け出した。

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