【アルファポリス版は転載中止中・ノクターンノベルズ版へどうぞ】会社の女上司と一緒に異世界転生して幼馴染になった

思考機械

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2話「え?異世界?」

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「……ヒロヤ……」

(誰かが俺を呼んでる……)

 徐々に意識が覚醒する中、俺の名前を呼ぶ声が聴こえてくる。

「……ヒロヤ・オブライエン!居ないのですか?」

(え?『オブライエン』?)

 聞き慣れない名前に一気に意識が覚醒する。

 目を開けると、幼い少女の寝顔が見える。

(誰?)

「ヒロヤ・オブライエン!立ちなさい!」

「はい!」

 ヒロヤと呼ぶからには俺の事だろう。どうやら机に突っ伏して寝ていたようだ。隣の少女も同じ様な姿勢で眠っている。

 あちこちでクスクス笑う声がする。

 見渡すと、そこはどうやら教室内。しかし、俺の知る教室とはなにか違っている。

(洋風?)

 窓や壁に施された意匠が日本の無機質なそれと違い、かなり凝った作りになっている。

 そして黒板。日本語でも英語でもない。良くわからない文字。それは『マリア・デイトリッヒ』と書かれている事が分かる。先生の名前か?

(ていうか何で読めるんだろう……)

 そしてクスクス笑うクラスメイト達。

 みんな幼く、服装も西洋のそれっぽい。

「……寝ていたのですか……入学式の日になかなか豪胆ですね。流石は領主様のお子様でらっしゃる」

 教壇に立つ先生らしき女性。やれやれといった風に額に手を当てる。スタイルが良くて、そんなポーズも様になってる金髪眼鏡の美人。

「起きたついでに、隣のカズミ・ミュラーも起こしてあげなさい」

(カズミ・ミュラー?……和美・三浦?)

 隣に目をやると、俺が目を覚した時と同じ姿勢で眠る少女。

 うん。幼い顔つきだが、確かに三浦主任の面影がある。左目付近の泣きぼくろがそのまんまだ。

「……カズミさん。ほら、先生怒ってるよ。起きて」

 みんなの手前もあるし主任を下の名前で呼び、少女の肩を揺する。

「ん……尾武くん……?先生って……?」

 少女の目が開く。

「とにかく起きて……変な状況だけど、取り乱さないでね」

 小さい声で主任らしき少女に耳打ちする。

「取り乱すって……何が……って、え?」

 周りを見渡して、主任は完全に目を覚したようだ。

「ここ何処?なにこの状況?」

「学校だよ。とにかく起きて」

「カズミ。起きましたか?」

「はいぃ!す、すいません!」

 主任は立ち上がり、先生に向き直って頭を下げる。

「全く……領主様の息子さんといい、守護騎士様のお嬢様といい……ふたりともその豪胆さはお父様譲りなのですね」

 腰に手を当てて、呆れ顔でこちらを見る先生。教室内でのクスクス笑いが一段と大きくなる。

「お前ら仲良すぎだろ!」

「ふたりとも寝ちゃうなんて凄いね!」

「先生の話はちゃんと聞かなきゃダメなんだぞ!」

 あちこちから声が飛んでくる。

「……ごめんなさい」

 とにかく俺は頭を下げた。

「はいはい!静かに!」

 先生は手を叩いて場を静めようとする。

「とにかく!今日は式だけでしたが、明日から授業を伴った学校生活が始まります。皆さん、仲良くしましょうね。では解散」

 そう言って、先生は教室を出ていった。

「主任……ちょっと」

 俺は彼女の手を引き、教室の外へと連れ出そうとする。

「ま、まって!もう終わりみたいだから荷物を……」

 主任は机の横にぶら下げてあるカバンを手に取った。

「ほら、浩哉くんも」

「あ、あぁ」

 俺もカバンを手にして、主任の手を引っ張って教室を出た。

「ヒューヒュー!」

「夫婦で仲良くしろよ!」

「また明日ね!」

 主任も俺も、顔を真っ赤にしながらみんなに手を振った。



「とにかく訳がわからないな……ここは何処なんだ?なんで小さくなったんだろ?」

 俺は校舎裏のベンチで主任と話した。

「入学式って言ってたから……6才ぐらいかな?」

 そう言って主任は俺の顔をじっと見つめる。



「ふふ、可愛いね幼い尾武くんは」

「からかわないでください。主任こそ可愛過ぎでしょ」

 いやほんとに可愛いんだ。

 元の主任もキリッとした才女風の雰囲気を漂わせつつ、ドジかましたときの照れ笑いや一緒に飲んだ時の甘え顔がたまらなく素敵だったんだけど……

 今の主任は黒髪セミロングと左目の泣きぼくろはそのままで、以前の照れた時や甘えた時の素敵な瞳がデフォルトなんだよな。

「こら!主任って言わない!」

 そしてこうやって注意する時には不思議とキリッとする大きくて少し垂れた目。ころころとよく変わる表情は幼くてもやっぱり主任だ。

「どうも違う世界っぽいよここ。少なくとも日本とは違う」

「みたいですね。景色も建物や服装も日本じゃない」

 そう。風景もヨーロッパの田舎のようなのどかなものなのだ。

「名前も……」

「ですね。俺がヒロヤ・オブライエンで主任……じゃなくてカズミさんがカズミ・ミュラー」

「元の苗字をもじったようなのがウケるけど」

 そう言って幼い三浦主任が笑う。

「……そして今の俺達は子供……これって最近流行りの『異世界転生』……」

 俺がボソッと呟くと、三浦主任がそれだ!というふうに俺を指差す。

「転生したら○○だった件!観た!」

「……まぁスライムとかじゃなくてお互い人間みたいですけどね。幼くはなってしまってるけど」

「……それにしては転生時のお決まりとかなかったよね」

 おそらく主任が言いたいのは、転生時の神様からの説明とかスキルを与えられたりとかの事だろう。

「主任はチートスキルでも欲しかったですか?」

「……そりゃ全然知らない世界に来たんだもん。そういう有利なもの欲しいでしょ……つか!」

 俯いてモジモジ話してたと思いきや、また俺を指差す主任。

「その『主任』はもうやめて。あと敬語も禁止。ここでは同い年みたいだし、お互い幼いのに不自然だよ」

「ですね……じゃあカズミさん?」

「また敬語。そして『さん』は要らない」

「そか……じゃあ……カズミ?」

 少し照れくさい。

「うん。なに?ヒロヤ?」

「いや別に呼ぶ練習しただけだから」

「……なんか照れる」

「俺も」

 お互い照れて赤くなってると。

「ヒロヤ!何処?」

「カズミ!何処にいるの?」

 俺達を呼ぶ女性の声がする。

 やがて、校舎の陰からふたりの女性が姿を現した。

「ヒロヤ!もう……こんなところに居たのね」

「カズミ、入学式だから今日は母さんと帰るのよ」

 俺をヒロヤと呼ぶ女性は……間違いなく母だ。中学に上がる前に死んだ母だった。

 カズミを見ると、俺を見つめて頷いた。

「カズミのお母さんなのか」

「ヒロヤも?」

「うん。間違いなく亡くなった母だ」



「教室に迎えに行ったら『ふたりで仲良く何処かに行った』ってみんな言ってたから……」

 カズミの母らしい女性が、カズミの前にしゃがんで頭を撫でている。優しそうな瞳でカズミを見つめるその姿は、以前の主任をもう少し大人っぽくした様に感じるのは長い髪がそう思わせるのかな。やっぱりよく似ている。

「ヒロヤったら。もうこんな可愛いガールフレンドつくっちゃって」

 俺の母も、笑いながら俺の頭をクシャクシャと撫でる。

「しかも相手は守護騎士様の可愛い娘さんとか隅に置けないわね」

 左手で俺の両頬を挟み込んでウリウリと振る。

「そ、そんなんじゃないよ!」

「え?違うの?」

 カズミが悲しそうな顔をしてこっちを見る。やめろからかうんじゃない。

「領主様のご子息とかウチのカズミには勿体無いですよ」

「いえいえ、ヤンチャで元気が取り柄なだけのバカ息子ですよ」

 豪快に笑う母。うん。生前の母そのまんまだ。ヤンチャで元気はおそらく貴女に似たんですよ母さん。

「カズミ・ミュラーです。ヒロヤくんには仲良くしてもらってます」

 そう言って、緑のワンピースの両裾を摘んで俺の母に挨拶するカズミ。あざとい。あざといぞ。

「まぁ可愛い!こちらこそよろしくね。ほら!ヒロヤもご挨拶は?」

「……ヒロヤ・オブライエンです。よろしく……お願いします」

 カズミの母にペコリとお辞儀する。

「ヒロヤくん、ウチの娘をよろしくね」

 優しい微笑みで俺をみるカズミの母。あー俺の母とはエラい違いだ。おっとりとした感じでほんとに優しそうな女性だ。

「さ、帰りましょうか」

 俺達はお互いの母親に手を引かれて、学校をあとにした。



 帰り道は母親同士、なんか色々とくっちゃべってたが、俺とカズミはなんか喋れなかった。

 取り敢えず、現状の認識とかを話したかったんだけど、それぞれの親の前ではそういう話はできない。

 やがて、そこそこ大きな洋館の門の前に着いた。

「じゃあオブライエン様、お気をつけてお帰りください」

 どうやらカズミの家らしい。

「ありがとう。楽しかったわ。私ともこれを機会に仲良くしてね」

 そう言って俺の母は先に歩いて行った。母親同士なかなかに意気投合したようだ。

「あっ、ヒロヤ……」

 門を開けて、家に入る間際にカズミが俺に何か言いたそうにした。

「あ、あとで遊びに来てもいい?」

 色々と話もしたいので、俺の方からカズミにそう声をかけた。

「うん!待ってる!いいよね?お母さん」

 嬉しそうな笑顔で答えるカズミ。

「じゃあお昼食べてからね。ヒロヤくん」

「ありがとうおばさん!」

「ヒロヤー!早く行くわよ!」

 母が呼ぶので、追いかける。途中で振り返り、カズミの母親に頭を下げた。ふたりは笑顔で手を振ってくれた。

「何?もうデートの約束でもしたの?」

 追いつくと母がからかうように言った。

「ち、違うよ!お昼食べたらお家に遊びに行く約束したんだよ」

「あら?もうお部屋デートとか早くない?」

「だから違うって」

 母と手を繋ぎ、言い合いながら帰路についた。



(これが俺の家かよ……)

 着いた自宅は、さっきのカズミの家の倍ほどの大きい洋館。

(そういや『領主様』だって言ってたな……)

 その洋館の大きさに比例した門扉の前には兵士が1人立っている。

「お帰りなさいませ奥様」

 背筋をピシッと伸ばし、やや斜め上に視線を向けながら挨拶する。

「ただいま。どしたの今日は?畏まっちゃって」

 母は笑顔で兵士に問う。

「その……旦那様がお庭にいらっしゃいますので……」

 小さな声で兵士が答える。

「あ~。コウイチに稽古つけてるのね」

(コウイチ……誰?)


「お帰り、ヒロヤぼっちゃん」

 兵士は不動の姿勢のまま俺に視線だけを向け、笑顔でウインクしてみせた。どうも本来は気さくな人らしい。

「ただいま」

 俺も笑顔で答えた。

「あの人、仕事にはちょっと厳しい人だからね……すぐに屋敷に呼び入れますから。いつもみたいに笑顔で歩哨してねライデンさん」

 母はそう言って門をくぐっていった。

「こう気を張って立ってると、通りがかる村の人たちに怖がられちゃうんだよな。ほら、オレはこんな面だしさ」

 ライデンさんと呼ばれた兵士は頬の刀傷らしき皮膚の突っ張りを指差す。

「奥様は近所付き合いを気持ちよくなさりたい方だから、あんまり畏まられたくないみたいなんだよ」

 ライデンさんは溜息をついた。

「あなた~!コウイチの稽古はそのぐらいにして、お昼にしましょう!」

 母は庭に向かって声をかけながら、屋敷へと入っていった。

「ほら、ヒロヤぼっちゃんもお早く」

「うん。ライデンさん、ご苦労様です」

 俺は母の後を追って屋敷へと走った。

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