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1章 冒険者レティシア
16話 大型フォレストウルフ
しおりを挟むリディアさんをパーティに入れた私達は、集合場所へと到着します。
今回はカンダタさんが指揮官として一緒に行くそうです。
しかし、大型とはいえフォレストウルフ程度の討伐依頼にこんなに沢山の人が必要なんでしょうかね? 見る限り三十人くらいはいます。
「ギルガさん。大型とはいえフォレストウルフというのは冒険者にとってそれほど危険なんですか?」
「お前は戦った事があるんだろ?」
「ありますけど……あんなに弱い魔物にこんな大人数が必要なんですかね?」
「お前はな……」
ギルガさんは私の言葉に呆れています。
私とギルガさんの話を聞いていたリディアさんが「レティシアちゃんからすれば、あの魔物は弱いの?」と少し怒ったような目をして聞いてきました。
なぜ、怒っているのでしょう。
「弱いですよ。それは何故かと言うと、フォレストウルフの殺し方、壊し方を知っているからです」
「え?」
「リディアさんが何を怒っているのかは知りませんが、一度でも死ねば人間は終わってしまうんです。貴女はそのフォレストウルフを発見した時に、どうしましたか?」
「え?」
「もしかして、勝てるとでも思って襲いかかりましたか?」
「そ、それは……」
「襲いかかったんですね。まず、それが間違いなんです。私は、今ではフォレストウルフがどんな大きさであったとしても簡単に殺せますが、何も最初っから楽に殺せたわけではありません。罠を仕掛けたり、何度も斬り刻んだりといろいろ試したんですよ。その中には数々の道具も使ったこともありました。楽に倒せるようになるまでは結構時間がかかったんですよ」
実際は、三度目の戦いで一撃で殺していましたけど。
リディアさんが目をそらしているという事は恐らく勇んで魔物の前に出てしまったのでしょう。
今回は、たまたま生き残りましたが、次があるとは限りません。
私達はリディアさんが魔物に襲われた場所まで移動します。
その場所に辿り着いた瞬間、私はリディアさんが犯した間違いに気付きます。
「はぁ……。ギルガさん、今回の事はリディアさんのミスです」
「なんだと?」「え?」
「カンダタさんに伝えてください。すでにフォレストウルフのテリトリーに入ってしまっています。しかも、すでに見られていますよ」
「なんだと!?」
私の言葉に、冒険者達に緊張が走ります。
本当に彼等は大丈夫なのですかね……。
私からの伝言を聞いたカンダタさんは、冒険者達それぞれに役割を与えていきます。
初めて戦う魔物に対して慎重に慎重を重ねるのは、何も間違いではありません。
そう考えれば、カンダタさんはやはり優秀で強い冒険者だったみたいです。
リディアさんもカンダタさんの作戦に参加したそうでしたが、今回は止めておいた方が良いでしょう。
殺されかけたのですから、きっとフォレストウルフを前にすれば足がすくむと思います。
「ギルガさんは参加するんですか?」
「うん? いや、オレは一応Aランクだからな。今回はCランク以下の連中が戦う。ドゥラークも参加するんだろうな」
ドゥラークさんは実際のところはどうなのでしょうかね。
根は良い人そうですから、無様に喰い殺されるのはあまり見たくはないのですがね。
「あの人って、どうなんですか?」
「うん? 性格さえよければ、いや、本当は性格は良いんだ。ただ、口が悪いだけなんだ。お前がドゥラークをボコボコにした時、アイツは本気じゃなかった。憎まれ口を叩いても、小さいお前を殺すつもりは無かったんだろう。お前が異常過ぎただけだ。お前の事を危険だと察した時には、どうにもできなかったんんだろうな」
そうなんですかね。
あの時は殺さないように必死だったので(嘘)、そこまで気付きませんでした。
あ、フォレストウルフが現れますよ。
私は黙って指差します。ギルガさんがそれに気付き、冒険者さん達に注意を呼びかけます。
十秒くらいすると、木々を薙ぎ倒しながら大型のフォレストウルフが現れます。
大型と言っても、そこまで大きくはありませんね。
本当に大きいモノはこの三倍はあります。
冒険者達は、カンダタさんの指示でフォレストウルフを攻撃していきます。
ドゥラークさんがメインアタッカーをしている様です。
あの姿を見ると、本当に強いみたいですね。少し、見直しました。
「エレン、あそこに怪我をした人がいます。連れてきますから回復してあげてください」
「うん。分かったよ」
私は、怪我をした冒険者を引っ張ってきます。そしてエレンが《ヒール》を使って傷を治した後、元の場所に置いておきます。
こうする事で、カンダタさんの作戦の邪魔をしないようにします。
冒険者達が戦い始めて数十分。フォレストウルフはまだまだ元気みたいです。
このまま戦い続ければ冒険者の方が疲れ果ててしまいますね。
そう思ってみていると、疲れて気が抜けてしまった冒険者の一人をフォレストウルフが食べようとしています。あのままだと逃げられませんね。
カンダタさんも助けようと動きましたが、間に合わないでしょう。
私は足元にあった石をフォレストウルフの目に向かって投げつけます。
目に石が当たった事により、フォレストウルフは大きく後退した後、私を睨みつけてきます。
さっきの石で片目は潰れたみたいですけどね。
しかし、それが原因でフォレストウルフは私を敵認定したみたいで、威嚇してきます。
これは困りました。
「カンダタさん。冒険者達では、もうフォレストウルフを止められませんね。冒険者達の疲労も限界でしょうし、ここからは私がやります。と、いうよりも、アレも私を敵と見ているみたいですし」
というよりも、すでにフォレストウルフは私しか見ていないみたいです。
まぁ、見られたからといって怖くもなんともないんですがね……。
フォレストウルフは私に突進してきます。
とは言っても、さほど速くも無いんですがね。
私は突進してくるフォレストウルフを飛び越えます。
そして頭の上に乗ります。
頭の上に私がいる事に気付いたフォレストウルフは暴れますが、まぁ、最後の悪あがきでしょう。
「良く見ておいてくださいね。ここが、フォレストウルフの弱点です」
私はフォレストウルフの額を思いっきり殴りつけます。
すると大型フォレストウルフは地面に叩きつけられそのまま絶命しました。
「終わりました」
私はエレンの所に帰っていきますが、冒険者達もカンダタさんも誰も何も言いません。
人の話を聞いていないのですかね。
「終わりましたよ。後は勝手に解体なりなんなりやってください」
「いや、お前、俺達が苦労していた魔物を一撃で殺したのか?」
冒険者の一人が、声を震わせて聞いてきます。
「そうですね。だから言ったでしょう? 私はこの魔物の殺し方、壊し方を知っているんです。それだけですよ」
私は町に帰る準備をしていたのですが、なんとなく嫌な予感がします。
「はぁ……」
「どうしたの?」
エレンが私の溜息に気付いて、心配そうにしています。
「いえ……」
私はもう一度指を差します。
冒険者達はその指の先を見ます。
「もう一匹いたみたいですね」
そこには先程よりも一回り小さいフォレストウルフがいました。
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