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1章 冒険者レティシア
8話 初めてのお仕事 依頼の受付
しおりを挟む朝日が昇ると同時に私は起きます。
昨日は寝た時間が少し遅かったので、もう少し寝ていてもいいとは思ったのですが、こればかりは習慣になってしまっているので目が覚めてしまいます。まぁ、別に一日くらい寝なくても死にはしないですけどね。
起きて顔を洗って、軽く体を動かし汗を流します。これは訓練とか健康のためというよりも、朝ごはんを美味しく食べるための運動ですね。
ギルガさんはカンダタさんに呼び出されて飲みに行ったらしいですけど、朝になった今でも帰ってきていません。
しかし、エレンと二人で冒険者になって、遠くの国に行く事を最終目的と考えていたのですが、まさか、ギルガさんが私達の保護者兼リーダーになるとは思いもしませんでした。
当初の予定とは違いますが、セルカの町は元いた町とは国が違うので、あの町の関係者に見つかる事もないでしょう。それにあの町は近いうちに滅びるでしょうし。
アレ?
こんな朝早くに、誰かがこの家に近付いています。
私は目を閉じて誰かを探ります。目を閉じて集中すればどんな人間かくらいは分かります。
……ふむ。
この感じはギルガさんですね。
朝帰りとは随分とお楽しみだったみたいですねぇ。
あ、玄関のドアを開けた先に娘さんのトキエさんが立っているみたいです。
少し怒っている様ですね……。
そんな事も知らずにギルガさんが、私に気付きフラフラと寄ってきます。
顔色も青色に近いですし、今にも吐きそうですねぇ。
う、お酒臭いです。
「うぷっ、レティシア、起きるの早いな」
「そうですね。それよりもいいのですか?」
「何がだ?」
「トキエさんが待っていますよ。しかも少し怒っている様です」
「な、なに!?」
ギルガさんはただでさえ青い顔が更に青くなります。
「吐くのならどこか見えないところで吐いて下さいよ。ここで吐いたら、殴り飛ばしますよ」
「ははは。レティシアが言うと嘘とは思えないな」
「嘘ではないですからね。早く帰ったらどうですか?」
「あ、あぁ」
ギルガさんはフラフラした足取りで玄関へと向かいます。
玄関を開けるとトキエさんが鬼のような顔で待っていました。
玄関がゆっくりと閉まって、静かになりました。
トキエさんは私達がまだ寝ていると思っているので、大声は出さなかったんでしょうね。まぁ、エレンはまだ寝ていますが。
ギルガさんがあの調子という事は、カンダタさんも同じという事でしょう。
今日から仕事をするつもりでしたけど、リーダーのギルガさんがあの状態ですから……。
「はぁ……何なのでしょうかねぇ……」
一時間ほど体を動かした後、エレンが起きてきたのと同時にトキエさんが朝ごはんの準備が出来たと呼んでくれましたので、食べる為に戻ります。
食事の時に今日からどうするかを話し合います。当然ギルガさんはここにはいません。
その代わりにトキエさんが話に付き合ってくれます。
いっその事、トキエさんがパーティリーダーで良かったと思うのですが……。
トキエさんは元々ギルドの受付嬢なので依頼の受け方を教えてくれました。
私は魔物の素材を売りに行ってはいましたが、依頼は受けた事はありませんでしたし、エレンは領主の娘だったので冒険者とは無縁でしたでしょう。
依頼を受けるなんて簡単だと思っていたのですが、ちゃんと受付を通さなければいけないのですね。知りませんでした。
依頼を受けるにしても、リーダーがあの状態ですから依頼を受けれないかもと思い聞いてみると、個人で仕事を受ける事は出来るそうです。
仕事が出来るであれば、一度ギルドに行くのが良いでしょう。
そう思って準備を始めると、トキエさんが一枚の汚い紙を渡してきます。
ギルガさんが握っていたらしいのですが、紙はボロボロで何が書いてあるのか全く分かりませんでした。
「トキエさん、このゴミは何ですか?」
「お父さんが持っていたんだけど、「明日の仕事だー」って言ってたんだよね。つまり依頼書だと思うのよ。ぼやけた文字の配列を見る限り、依頼書っぽくも見えるし……」
「何が書いてあるか分からないね」
「はい。本当にあの人がリーダーでいいんでしょうか……」
初めての依頼書がこんなのだとすると、仕事を受けられるか分かりません。
「父親だから擁護してあげたいけど、擁護のしようがないね。でも、大丈夫だよ。ギルドに行けばお父さんが持って帰ってきていた依頼書を判別できるかもしれないし」
「本当ですか? こんなゴミの状態でも大丈夫ですか?」
「多分ね……」
どちらにしても、こんな読めない依頼書では仕方ありません。
ここは冒険者ギルドに聞きに行った方が良いでしょう。
「レティシアちゃん、ごめんね」
「いえ、トキエさんが謝る事ではないですよ。悪いのがギルガさんです」
「ははは、本当に擁護できないわ」
私とエレンは冒険者ギルドへと向かいます。
昨日の事があったからか、誰も私達には話しかけてきません。こうなるように、昨日は必要以上にボコボコにしておいたんですけどね。
カンダタさんには一撃で気絶させる事はできないと言いましたが、今までの経験上、頭を思いっきり殴ってやれば半分くらいの確率で気絶だけで生きていますからね。半分は死にますけど。
その後に障害?
そんな事、知った事じゃありません。
しかし、効果てきめんで良かったですね。
そうでないと、小娘二人ですから喧嘩を売られていたでしょう。
受付に行くとカンダタさんが来てくれて対応してくれました。
「ギルガさんは酒酔いでグロッキーだったのですが、カンダタさんは元気ですねぇ。ギルガさんよりもお年を召していますのに」
「アイツは酒酔いすらコントロールできないのか……全く、元ギルマスともあろう者が情けない。で、今日はどうした?」
「どうしたも何も、冒険者が冒険者ギルドに来る理由なんて、仕事以外無いと思うのですが?」
「仕事? リーダーのギルガがいないのにか?」
「何か問題でも?」
大体の仕事は私一人でも可能だとは思いますよ。まぁ、人を癒すなどの仕事はできませんけど。
カンダタさんは呆れた顔をして「こいつ等の保護者としてギルガを冒険者に戻したのに何をやっているんだ」と呟いていました。
貴方にも原因があると思いますけどね。
そんな事を考えていても仕方ないので、私は汚い紙を見せます。
「なんだ、このゴミは」
「これ、読めないんですよね。なんて書いてあったんですか?」
「だから、このゴミは何だ?」
「ギルガさんが握って帰ってきて、仕事とほざいたそうですよ。もし、この紙が依頼書でないんであれば、ギルガさんには鉄拳制裁を加えます」
「別に殺さないんであれば制裁しても構わんが、俺と別れた時には持っていなかったからな、少し待っていろ。調べてくる」
「はい」
そう言って、カンダタさんは受付奥の本棚を調べ始める。
私が若干イライラしていると、エレンが私を抱き寄せてくる。
「レティ、ギルガさんってあんなにお酒を飲む人だっけ? テリトリオの町にいる時は規則正しい生活をしている、子供の見本になるような大人に見えていたんだけど……」
「私は朝に冒険者ギルドの裏口に魔物の素材を卸しに行っていましたけど、いつ行ってもギルガさんが対応してくれてましたねぇ」
「という事は……」
確かに、あんなにだらしないギルガさんを見たのは初めてです。
そうですか……。
お酒を飲ませたカンダタさんが諸悪の根源ですね。
私がカンダタさんを睨み始めると、カンダタさんが私達の下へと帰ってきます。
「ん? どうした?」
「謝ってください」
「なんでだ?」
「ギルガさんがああなったのはカンダタさんのせいです」
「どうしてそうなる?」
「お酒を飲ませた貴方が悪い」
「お、おい。エレン嬢、こいつはなにを言っているんだ?」
「あ、あの、そのエレン嬢というのは止めて貰えませんか? エレンでいいです」
「分かった。で、とりあえず、今にも襲ってきそうに睨んでいるこいつを止めてくれ」
「あ、はい。レティ、ダメだよ。お酒を飲ませたカンダタさんが九割以上悪いけど、あとの一割はギルガさんが悪いんだよ」
「ちょっと待て、結局俺が悪い事になっているじゃないか」
「はい、ギルガさんは規則正しい生活をしている子供の手本になるような大人でしたからね。あんなに酔っぱらっている姿は見せた事がありません。という事は、カンダタさんが無理やり飲ませたとしか思えないんです」
「お、おい! それって、レティシアがこんな顔で俺を見ているのはエレンのせいじゃねぇか」
「違います。カンダタさんのせいです」
「お前も結構いい性格しているなぁ……」
二人で言い合っているのが楽しそうですねぇ。
エレンが楽しそうなのでカンダタさんに報復するのは止めておいてあげましょう。
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