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数年後の恋螢
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あれから数年、莫大な相続税も払い終わって、子どももすくすくと成長した。
「おとーさん!! ここに座ってちょうだい」
「な、なんだよ。急に……」
裕は怪訝な顔つきで、娘である千秋に指定されたダイニングテーブルに腰掛けた。その様子を冷やかな視線を送る息子の章太郎。二人はもう高校生だ。
すっかりと背も伸び、二人ともバースはアルファである。章太郎なんてバースはオメガかなと思ったのに、いまや頭脳優秀なアルファに育ち、雅也そっくりな顔立ちになった。そして、千秋は凛として美しい蝶のように我が家いちばんのしっかりものに成長していた。
「父さん、ちゃんと正座してくれないかな?」
「そうよ、お父さん、ちゃんとこっちを向いてくれないかしら?」
「な、ちゃんと座ってるよ……」
ちゃんと、ちゃんととあれほど口をついていたのに、まさか自分が子供に言われるなんて思いもしなかった。子供が成長するにたびに、よろこびが増し、愛があふれた。それなのに、それはほんの一粒の砂のように、あっという間に時間が流れてしまった。あれほどかわいかった小さな二人も遠い彼方へ消えた気がする。
「で、おとーさん、たろうちゃんといつ、結婚するの?」
「け、けっこん……」
「そうよ、結婚よ」
「そうだよ、父さん」
「……」
言っていることはわかっている。
太郎の苗字はまだ変わっていない。当の本人である太郎はいま友人の結婚式でいない。
「結婚よ、ケッコン。どうして、たろうちゃんとしないの? たろうちゃんはパパなのに、名前が違うじゃん。せめて籍いれてあげなよ!」
「そうだよ、とうさん。あんまりだよ」
いや、まってくれ。子供たち。たしかにこの二人は自分の旧姓を名乗っている。太郎は木村のままだ。
が、それには理由というものがある。あれはそうだ、茹だるような暑い日だった。
『裕さん、お話があります』
『なんだよ、改まって』
子供たちが寝静まったあとに呼び出された。ベッドで寝そべっていると、太郎が正座をして俯いている。
『あ、あ、あ、あの、僕、ずっとこのままがいいです。籍、入れなくていいです』
『籍を入れない?』
『せめてお子さんたちが成人してから一緒になりませんか?』
『今じゃだめなのか?』
『子どもたちのことを考えても、すぐにはなんて言えません。ゆっくりと時間をかけて、二人に、いや、裕さんたちに見合うような男になりたいんです』
太郎は真剣な眼差しを裕に向けた。いつもなら潤んだ瞳を向けて、いまにも泣きそうだそうな瞳で好きです、かわいい、愛してますと口にするくせにこういうとき頑なだ。もう答えは決まっている、そういう顔をしている。
『……わかった』
そう承諾した自分がいる。
それを、話した。
「はぁああ? お父さん、それって、たろちゃんが私達のために我慢してんでしょ? なんで太郎ちゃんにそんなの関係ない、すぐに籍いれようって言ってないの? はぁああああ? マジで意味わかんないんだけど」
「そうだよ、父さん。やることやってるんだから、人としてケジメはつけるべきだよ」
「……ケジメ」
やることやってるという言葉がぐさりと胸に刺さる。バレている。家でしてないのに、太郎と致してる情事が赤裸々に子供たちに知れ渡っている、それだけで恥ずかしくなった。
「そうよ! とにかく、たろちゃんが可哀想! 今日だって、結婚式にせっせっとご祝儀配りにいってんのよ? 幸せのお裾分けだからって笑ってかわいそうだったわ。ありえない。父さんひどい!」
「あのさ、父さんはなんにも思わなかったの?」
「た、太郎は太郎で色々考えてるんだし……」
「はあああ? 指輪そのままつけててよく言うわ! ありえないんだけど! おとーさん、今日結婚しなきゃ太郎ちゃんは私たちがもらうからね! いい!?」
「はい?」
「はいでしょ!? 今日の夜、どっか行って話してきなよ。いい? 今日決めてこなきゃ私たち太郎ちゃんと三人で暮らすわよ」
「そうだよ。父さんもちゃんと太郎さんと向き合ってケジメをつけたほうがいい。僕たちだってもう子どもじゃないんだ。しっかり話し合ったほうがいいよ」
そう、返された。
ものすごい迫力に、ぐうも言い返せない裕だった。
◇◇
「……ということがあった」
「え……?」
太郎が帰ってきて、話したいことがあるとそのまま手を引いてホテルに連れ込んだ。びっくりする太郎に、裕はベッドに正座している。
「子どもたちに話した」
「大きくなってからは家の中では決してしないようにしてたんですけど……」
「たろう、そうじゃない。いや、それもあるが、ちょっとちがう」
「あ……、そう、ですよね」
裕は顔を上げて、しゅんとしている太郎に鋭い視線を送った。
「結婚しよう」
「え?」
「太郎、結婚しよう」
太郎は目を丸くした。
たしかに職場のデスクには写真立てを立て、ロケットペンダントには裕と自分の写真をはめている。頭のなかではすでに運命の恋人として仕上がっているので頭が追いつかなかった。
「け、結婚ですか?」
「そう。いや、ちゃんと式あげろっていわれた。結婚式もこじんまりところでいいからやりたい」
裕は眉を寄せながら頭をガリガリとかいた。これから結婚するのに、なんだか雰囲気ぶち壊しである。数秒おいて、やっと目の前の恋人は目を輝かせた。
「は、はい!! はい! はい!」
「ぐっ、く、くるしい……」
太郎は裕に飛びかかるように抱きついた。頬をすりすりさせてよろこんでいる。
「うれしいです」
「う、うん」
「好きです」
「おれも、す、好きだ」
「愛してます」
「俺も愛してる」
腕を掴まれ、引き寄せられ、ぎゅうううときつく抱きしめられる。胸の中で抱かれて裕は焦った。しまった。これはプロポーズだ。もっといいところですればよかったと、後悔が裕の頭の中をかすめた。
「……すごい。ゆ、ゆうさん、う、う、うれし……」
「もっとちゃんとしたところで話せばよかったな」
「いいです。めちゃくちゃ感動して泣いてますから。こんな顔でステーキ食べれません」
「なんだ、それ」
ぷっと噴き出して、裕は太郎の顔を眺めた。整った顔立ちは涙で濡れそぼっている。たしかにこれじゃ、なにも味わえないだろう。
「うっ、でも裕さんは食べたい」
「ふは、ばかだなぁ。……んっ」
唇を奪うようなキスをされた。かすめるようなそんなキスだ。
「ずっとずっと大切にします。守ります」
「俺も。おまえのこと、守る」
「……それと、うなじも噛んでくれよ」
結局のところ、自分も頑なにうなじを噛もうともしない太郎に寂しさを感じてしまっていた。
「わ、わかりました」
「……うれしい」
裕は太郎の袖を引っ張って唇をのせた。
太郎の逞しい胸にもぐりこんで、ぐりぐりと胸に顔を押しつけた。触りたい。太郎が欲しい。そろそろ限界だった。ここのところ繁忙期でろくに触れてない。
「…………したい」
「……は、はい」
「……ん」
真っ赤になりながら、太郎の腰に手をまわした。
「……ん」
「が、我慢できそうにないですけど……」
「いいよ。……めちゃくちゃしても」
「ゆ、裕さん!?」
太郎は胸の中ですっぽりとかくれている裕を振り返る。顔は隠れてみえないが、耳が桃色にほんのりの色がのっている。
子どもたちもここにはいない。
今夜こそは触れていたいと裕は指を絡めて、くっとひっぱった。
唇を重ねて、舌を絡める。
深くまで求めて、愛を誓う。
まだまだ恋も愛も続いている。
ちなみに結婚式のパンフレットに囲まれて、つわりに気づくのはまだ先のこと……。一卵性の双子が産まれるなんて、本人たちはまだ知らない。
「おとーさん!! ここに座ってちょうだい」
「な、なんだよ。急に……」
裕は怪訝な顔つきで、娘である千秋に指定されたダイニングテーブルに腰掛けた。その様子を冷やかな視線を送る息子の章太郎。二人はもう高校生だ。
すっかりと背も伸び、二人ともバースはアルファである。章太郎なんてバースはオメガかなと思ったのに、いまや頭脳優秀なアルファに育ち、雅也そっくりな顔立ちになった。そして、千秋は凛として美しい蝶のように我が家いちばんのしっかりものに成長していた。
「父さん、ちゃんと正座してくれないかな?」
「そうよ、お父さん、ちゃんとこっちを向いてくれないかしら?」
「な、ちゃんと座ってるよ……」
ちゃんと、ちゃんととあれほど口をついていたのに、まさか自分が子供に言われるなんて思いもしなかった。子供が成長するにたびに、よろこびが増し、愛があふれた。それなのに、それはほんの一粒の砂のように、あっという間に時間が流れてしまった。あれほどかわいかった小さな二人も遠い彼方へ消えた気がする。
「で、おとーさん、たろうちゃんといつ、結婚するの?」
「け、けっこん……」
「そうよ、結婚よ」
「そうだよ、父さん」
「……」
言っていることはわかっている。
太郎の苗字はまだ変わっていない。当の本人である太郎はいま友人の結婚式でいない。
「結婚よ、ケッコン。どうして、たろうちゃんとしないの? たろうちゃんはパパなのに、名前が違うじゃん。せめて籍いれてあげなよ!」
「そうだよ、とうさん。あんまりだよ」
いや、まってくれ。子供たち。たしかにこの二人は自分の旧姓を名乗っている。太郎は木村のままだ。
が、それには理由というものがある。あれはそうだ、茹だるような暑い日だった。
『裕さん、お話があります』
『なんだよ、改まって』
子供たちが寝静まったあとに呼び出された。ベッドで寝そべっていると、太郎が正座をして俯いている。
『あ、あ、あ、あの、僕、ずっとこのままがいいです。籍、入れなくていいです』
『籍を入れない?』
『せめてお子さんたちが成人してから一緒になりませんか?』
『今じゃだめなのか?』
『子どもたちのことを考えても、すぐにはなんて言えません。ゆっくりと時間をかけて、二人に、いや、裕さんたちに見合うような男になりたいんです』
太郎は真剣な眼差しを裕に向けた。いつもなら潤んだ瞳を向けて、いまにも泣きそうだそうな瞳で好きです、かわいい、愛してますと口にするくせにこういうとき頑なだ。もう答えは決まっている、そういう顔をしている。
『……わかった』
そう承諾した自分がいる。
それを、話した。
「はぁああ? お父さん、それって、たろちゃんが私達のために我慢してんでしょ? なんで太郎ちゃんにそんなの関係ない、すぐに籍いれようって言ってないの? はぁああああ? マジで意味わかんないんだけど」
「そうだよ、父さん。やることやってるんだから、人としてケジメはつけるべきだよ」
「……ケジメ」
やることやってるという言葉がぐさりと胸に刺さる。バレている。家でしてないのに、太郎と致してる情事が赤裸々に子供たちに知れ渡っている、それだけで恥ずかしくなった。
「そうよ! とにかく、たろちゃんが可哀想! 今日だって、結婚式にせっせっとご祝儀配りにいってんのよ? 幸せのお裾分けだからって笑ってかわいそうだったわ。ありえない。父さんひどい!」
「あのさ、父さんはなんにも思わなかったの?」
「た、太郎は太郎で色々考えてるんだし……」
「はあああ? 指輪そのままつけててよく言うわ! ありえないんだけど! おとーさん、今日結婚しなきゃ太郎ちゃんは私たちがもらうからね! いい!?」
「はい?」
「はいでしょ!? 今日の夜、どっか行って話してきなよ。いい? 今日決めてこなきゃ私たち太郎ちゃんと三人で暮らすわよ」
「そうだよ。父さんもちゃんと太郎さんと向き合ってケジメをつけたほうがいい。僕たちだってもう子どもじゃないんだ。しっかり話し合ったほうがいいよ」
そう、返された。
ものすごい迫力に、ぐうも言い返せない裕だった。
◇◇
「……ということがあった」
「え……?」
太郎が帰ってきて、話したいことがあるとそのまま手を引いてホテルに連れ込んだ。びっくりする太郎に、裕はベッドに正座している。
「子どもたちに話した」
「大きくなってからは家の中では決してしないようにしてたんですけど……」
「たろう、そうじゃない。いや、それもあるが、ちょっとちがう」
「あ……、そう、ですよね」
裕は顔を上げて、しゅんとしている太郎に鋭い視線を送った。
「結婚しよう」
「え?」
「太郎、結婚しよう」
太郎は目を丸くした。
たしかに職場のデスクには写真立てを立て、ロケットペンダントには裕と自分の写真をはめている。頭のなかではすでに運命の恋人として仕上がっているので頭が追いつかなかった。
「け、結婚ですか?」
「そう。いや、ちゃんと式あげろっていわれた。結婚式もこじんまりところでいいからやりたい」
裕は眉を寄せながら頭をガリガリとかいた。これから結婚するのに、なんだか雰囲気ぶち壊しである。数秒おいて、やっと目の前の恋人は目を輝かせた。
「は、はい!! はい! はい!」
「ぐっ、く、くるしい……」
太郎は裕に飛びかかるように抱きついた。頬をすりすりさせてよろこんでいる。
「うれしいです」
「う、うん」
「好きです」
「おれも、す、好きだ」
「愛してます」
「俺も愛してる」
腕を掴まれ、引き寄せられ、ぎゅうううときつく抱きしめられる。胸の中で抱かれて裕は焦った。しまった。これはプロポーズだ。もっといいところですればよかったと、後悔が裕の頭の中をかすめた。
「……すごい。ゆ、ゆうさん、う、う、うれし……」
「もっとちゃんとしたところで話せばよかったな」
「いいです。めちゃくちゃ感動して泣いてますから。こんな顔でステーキ食べれません」
「なんだ、それ」
ぷっと噴き出して、裕は太郎の顔を眺めた。整った顔立ちは涙で濡れそぼっている。たしかにこれじゃ、なにも味わえないだろう。
「うっ、でも裕さんは食べたい」
「ふは、ばかだなぁ。……んっ」
唇を奪うようなキスをされた。かすめるようなそんなキスだ。
「ずっとずっと大切にします。守ります」
「俺も。おまえのこと、守る」
「……それと、うなじも噛んでくれよ」
結局のところ、自分も頑なにうなじを噛もうともしない太郎に寂しさを感じてしまっていた。
「わ、わかりました」
「……うれしい」
裕は太郎の袖を引っ張って唇をのせた。
太郎の逞しい胸にもぐりこんで、ぐりぐりと胸に顔を押しつけた。触りたい。太郎が欲しい。そろそろ限界だった。ここのところ繁忙期でろくに触れてない。
「…………したい」
「……は、はい」
「……ん」
真っ赤になりながら、太郎の腰に手をまわした。
「……ん」
「が、我慢できそうにないですけど……」
「いいよ。……めちゃくちゃしても」
「ゆ、裕さん!?」
太郎は胸の中ですっぽりとかくれている裕を振り返る。顔は隠れてみえないが、耳が桃色にほんのりの色がのっている。
子どもたちもここにはいない。
今夜こそは触れていたいと裕は指を絡めて、くっとひっぱった。
唇を重ねて、舌を絡める。
深くまで求めて、愛を誓う。
まだまだ恋も愛も続いている。
ちなみに結婚式のパンフレットに囲まれて、つわりに気づくのはまだ先のこと……。一卵性の双子が産まれるなんて、本人たちはまだ知らない。
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ご指摘ありがとうございます。確認して差し替えました<(_ _)>
マタヤッチャイマシタ‥‥…。
こちらこそ、いつもイイネなどありがとうございます。
アルファポリスでもお読みいただきうれしく感じております。
コメントいただけただけでもうれしく、またへんなところなどあれば、いつでもご指摘ください(m´・ω・`)m