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第二十二話

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 両肩を揺さぶられて、ぐわんぐわんと上体が前後して二度目のはっとなる。

「ニアニアニーア!」

「レイン。お疲れ様です。もうおわりですか?」

「うーんそうしたいんだけども、これさ、お願いできる? えっとね、今日はちょっと仲間うちで集まりがあるから~ごめん~!」

 どさり。
 両手を合わせておねだりする量じゃない。

「……ええと、ぼくもきょうは用事があるので、明後日までだったらいいですよ。明日は交通フェアの係があるので、それでもいいですか?」

「いいよ~。全然助かる~。これから友達によばれて、急いでいかなきゃならないんだ。えーと、資料が足りなかったら机の右の引き出しにあるから。鍵はあけとくから、勝手にとっていって。じゃあね~ありがとう~」

 さささ……。
 レインはうれしそうにすぐに去っていく。

 しまった。仕事を増やしてどうする。

 時計に視線をむけるとすでに退庁時間で、残業決定だ。
 しょうがない、アーサーくんとの約束は直行するしかない。

 ……とりあえず、目の前にあるものを片づけていくしかないな。
 
 それからぼくは怒涛の勢いで書類を整理し、頼まれたものも処理していく。
 途中、目深に帽子をかぶった清掃員のお兄さんが入ってきたけど脇目も振らずにがんばった。気を遣ってくれたのか静かに作業をしてくれて助かった。
 こんもりとあった書類はなくなり、きっちりとファイリングした。
 ふと、ユニコーンホスト詐欺事件の資料が足りないことに気づいて手が止まる。

「あれ……。これ、ちょっと証拠物件の写真が足りないな。レインはもういないし勝手にとっていいよっていわれてるしちょっとみてみようかな……」

 レインのデスクにいくと性格に似合わず、意外ときれいに整頓されている。
 机の上には可憐なダリアが花瓶が飾られ、机上カレンダーにはバツとサンカク、マルがつけられていた。おそらく巡回ルートのあたりでもつけているんだろう。

 ナンバーワンや人気嬢の出勤を頭にいれておくとスタッフや客からも情報を集めやすい。

 右の引き出しを引くと、ファイルが積み重ねられて、ファイル名を確認していくつかとって脇にかかえる。
 そのとき、あっと思ったときには遅かった。コードに足を絡ませて、ガタンとぼくはよろめき、ファイルをぜんぶ床に落としてしまう。

「いててててッ……、えっ…これ……、なんだろう……」

 しゃがんでとろうとして、はたと足元にある黒い存在に気づく。

 真っ黒でよくわからなかったけど、そこには金庫があった。
 屈んで、足元にあるものを矯めつ眇めつ眺める。

 デスクの下に隠れてあった四角い箱。四方八方角度をかえてよくみると、アーサーくんが教えてくれた最新の防犯対策であったプレミアム耐火金庫にそっくりだ。
 プロントパネルはマグネット式により簡単に取りつけできるので、壁や家具に同化して違和感なく置くというやつ。

「しかも扉が開いてる……。物騒だな。まったく、金庫を開けっ放しにするなんてうっかりしてるというか。レインはおっちょこちょいだなぁ……」
 
 ふぅとため息をひとつついた。
 金庫の扉が開けっぱなしになっていたのだ。ぼくは取手をつかんで閉めようとすると、そばに何枚か書類が落ちていた。

「これ……。ソフィアの原材料と調合についてだ。どこから仕入れるのかまで書いてある……。レイン、仕事のために特定ルートを調べて厳重に保管してたのかな……」

 たしか「テチチ」は警察官という噂だ。
 まさかレインが元締めなんて……。

「い、いや……。あのレインが主犯なんてありえない。仲間を疑うなんて最低だ」

 ぼくは書類を戻し、しっかりと取手を握って指先をおしつけるようにバタンと扉を閉めた。
 
 レインはソフィアのことを単独で調べてたのかもしれない。
 この案件は堕としのゴローさんの班が担当していたけど、独自のルートで捜査していた可能性だってある。証拠もなく、勝手に決めつけちゃ失礼だ。

 ……遊んでばっかりで仕事をサボっていると思ってたけど、しっかり警察官としての職務を全うしてるんだ。きっとそうだ。

 レイン、ちょっとでも疑ってごめん。ぼくも真面目に仕事をこなそう。
 しっかりするんだ、ニア。
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