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第十九話

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 差しだされた手のひらの上には薄型のポータブルタイプのものがあった。

「えっと、これは……?」

「うん、これは自信作の盗聴器発見センサー。無線電波をキャッチして、スパイカメラも検知可能な最新モデルだよ。すぐに音と振動で知らせてくれて、ちかよると警告音が大きくなるんだ。やっと業務プロレベルまで完成できたんだけど、きみに特別にあげるよ~!」

 うれしそうな顔でアーサーは黒くて四角いものをみせる。
 正直なところ必要ないし、そんな大層なものいらない……。
 そして申し訳ないがうれしくもない。

「ええとっ……、そんな急にわるいですよ。ぼくの家に盗聴器なんてないし、狙われるほど気にかけている人なんていないですから……。その、だいじょうぶですから」

 丁重に、そして失礼のないように答えた。
 かなしいかな。それは事実だ。
 ぼくの寝室は落ち着きあるセルリアンブルーに統一されていて、奥にあるクローゼットにはリルくんの衣類(巣)がいくつかあるだけだ。なんどもいうけど盗聴器なんてあるわけがない。
 あるとすればいつもコツコツと騒音を撒き散らすあやしい隣人の部屋だろう。
 そもそも盗聴器をしかけるなんて犯罪だし、捜査や合法的に許可がとれたときだけだけにするべきだ。

 それでもアルコールが入っていると大胆になるのか、ずいっと顔を寄せてアーサーがぼくの手を握ってそれを渡してきた。

「まままま。気にしないで。僕の自信作なんだ。すぐに見つけて…いてっ。ルーベンス、わかっているよ。あげるだけだし、余計なことはしゃべってないつうの!」

「アーサー、それ以上は余計なことを口にするなよ」

「わかってるって! ね、ニアさん、だいじょーぶだから⭐︎」

「わっ…ちょっと……」

 アーサーはルーベンスにこづかれながらも、押しつけるようにぼくの手を折ってつつむようにそれを渡した。
 
 そんなあやしいもの、警察官であるぼくがもらってもいいのだろうか。
 申し訳なくて返そうとしたけど、すぐにアーサーはワインボトルを抱えたレインにロックオンされてしまった。

「わあ、すごい! アーサーさん、発明なんてするんですか~!? その防犯対策についてもっとレインに教えてください~!」

 やいのやいのよってきて、アーサーのグラスにトクトクとワインが注がれる。
 バチンとアーサーにウィンクされて、ぼくはどうしていいのかわからない。レインは邪魔してくるなオーラをだしてくるし、ここは帰るときにでも返すしかない。
 ぼくは手のひらのものをポケットに入れて、口直しに水を飲んでひと息ついた。レインはギルからアーサーへと標的をかえたようで猛攻撃をしかけている。
 隣でモソモソとロンさんがサラダらしき葉っぱを咀嚼しているのが目に入った。ギルは竜人と話しているし、だれも話しかける人はいない。

「ロンさん、サラダばっかりですね。お肉は食べないんですか?」
「えっ……ごほっ……」

 サラダの葉っぱにむせて、いきなり話しかけてきたぼくに驚いた表情をむけてきた。

「えっと……、うん、ちょっと胃腸の調子がわるいんだ。ありがとう。ええと、ニアさんもギルにむりやり?」

「……まあ、そんな感じです」

「そっか。ギルはさ、口は悪いけどお節介野郎でいいやつだから悪く思わないで。なんだっけ、サブスクにハマっているんだっけ? 雑誌の予約購読とか年間購読できるやつだよね。おもしろいね」

 トマトをつまみながら、穏やかに笑ってしゃべる姿がかわいい。
 リルくんとはちがうけど、おっとりとしているのか、そばにいると癒される。
 
 しかも、ギルは彼にぼくがサブスクにハマっているとしかいってないようだ。
 どタイプのアルファが一定の料金でやってきて、月数回の性交渉とヒート期間を過ごしてくれる。
 イチャイチャしたり、蜂蜜と生クリームをぬったくってお風呂に入ったり、なんてくわしくしゃべると胃に穴をあけてしまうおそれがある。

「ええ、むこうからやってくるのですごく便利でいいですよ。そういえばロンさんはあの竜人さんとはお知り合いなんですか?」

「えっ……ごほっ……、ゴホゴホ……、いや、べつにそんな……」

 トマトが気管につまったのか、激しくむせた。図星らしい。涙目になる彼に水のグラスを渡してやる。

「うまくいくといいですね。彼、不愛想だけどロンさんとはよく話しているみたいだし。ああ、戻ってきた。じゃあ、また今度職員食堂で一緒に食べましょう」
「う、うん……。おれ、いつも食堂でうどん食べてるから声かけて」

「奇遇ですね。ぼくもいつもあそこのうどんを食べているんです。だしがおいしくて……」

 素うどんだけど、あながち間違ってはいない。
 そうこうするうちに竜人くんがやってきたので、ぼくはまた定位置であるテーブルの端にもどった。
 ふたりに視線をむけると、なにやらしゃべっているし、やっぱり知り合いなんじゃないだろうか。

 そんなことを思っているうちに、ロンさんが真っ赤になって立ち上がってすぐに座った。温厚な彼が驚くほど衝撃的な話をしているってことか。うまくいきそうでなによりだ。
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