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第十五話
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ロンさんがあまりにもびっくりしているので、ギルが訝しげな顔で聞いた。
「なんだ、知り合いか?」
「……い、いや。きょうが初対面だよ。うん」
「うんってなんだよ。へんなやつ」
ギルが首を傾げるなか、ロンさんがは端っこに身を隠すように席を移動した。なんのことかぼくもわからず、ぼうとその様子を眺める。
「あー……。こわいのか。ルーベンスはな、竜人なんだよ」
その言葉にぼくは目を見開いて驚いた。
ロンさんに視線をむけると、彼もびっくりして固まっている。
——そんな、噓だろう。
この店の客のように獣人や妖精がいる日常だけど、一度も彼ら種族を目にしたことがないのがほとんどだ。
彼らは天上人ともいえる存在だし、神秘的な力を宿しているともいわれていて都市伝説と化している。まさか合コンの席にくるなんて考えもしなかった。
でも、やっぱりここは合コンの席だ。ありとあらゆる噂があっても彼の恋人事情を考えてしまう。
……竜人と結ばれる人なんてどんなひとなんだろう。
まちがいなくぼくではない。ぼくにはリルくん(サブスクアルファ)がいるし、むすりと不愛想なひとは苦手だ。
せめてロンさんみたいな不幸に星に生まれたひとと結ばれてどんな障害からも護ってほしい。
そんな驚愕してかたまっているぼくらの視線に慣れているのか、気にもせず、竜人ともう一人の青年はテーブルにちかよる。
ギルがワインを二本注文している間にひょろっとした細身の騎士がむかいに腰かけた。
髪は癖っ毛のヘーゼルブラウン。人懐っこい目で挨拶してくる。なんとなくその目がリルくんに似ていて、ドキッとしてしまった。
「……はいはいはい。全員席に座ったか。片方がアルファ勢で、もう一方がオメガさんたちね。それでじこしょーかいをまず開始するぞ。こっちが生活保安課のニアちゃん。で、こっちのダンゴムシじゃなくて同僚のロン。もうひとりは遅れてくるみたいなんでまたあとでな。んじゃそっち側もよろしく~」
「ギル…いいかたが…雑…」
「そうそう、おれのかわいい甥っ子な。ロン、どうだ。とーってもかわいいだろ?」
どうだっと紹介された噂の甥っ子はかわいいというよりも、逞しいというか、剛健たる風貌に屈強という言葉が合う。
「か、かわ……いい……とおもいます……」
ロンさんが苦し紛れに答えたが、目を伏せて視線をそらしている。うん、むりしてるのがわかるし同意する。
「なんで敬語なんだよ。つうか、ちょうかわいいだろう~。あ、やべ。紹介とめてしまったな。わりぃわりぃ。次の方どうぞ~」
ぼくの目の前に座ったひょろりとしたリルくんの似の彼が立ち上がった。
「ままま。じゃあ、次はぼくかな。えーと、名前はアーサー・タレス。騎士団員です。所属は秘密。前はセキュリティ本部にいたから、防犯対策でなにか聞きたいことならいってね」
「……ルーベンス・ウォーターです。騎士団第五師団所属。以上です」
淡々と所属が名前が告げられて、騎士団出陣前の打ち合わせみたいな自己紹介タイムが三分もしないで終わる。
……しん。
だれも取り次がない。一瞬だけ、沈黙が漂う。
「そ、そうなんですね。すごいですね……」
パチパチパチパチ……。
場を盛り上げる役のロンさんですら顔が青ざめている。和気あいあいとした雰囲気もなく、すぐにお鉢がこっちに回ってきた。
「ロロロロロロ……ええと、ロン・ヴィンセントです。事故処理班で、地下にいつもいます……。ええと趣味は映画鑑賞と読書です。い、いじょうです……」
え……、もう終わりなのか。
ちらりとロンさんを盗みみると顔を真っ赤にしてうつむいている。かわいい。いや、まってほしい。ぼくはまつ毛をパタパタして、赤面して座るロンさんを二度見した。ロンさんの背後にリルくんにそっくりなお客さんがみえた。
そういうときに限って、うっかり彼に言葉責めされている自分を思い出してしまう。
……だめだ。幻覚すら見えるぐらいぼくも緊張してしまっている。なんたって竜人がいるんだ。ここは冷静沈着にすんなりと終わらせよう。
「ええと、ニア・パタルです。警察局刑事部生活保安課風営法第三係です。趣味は土いじりです。家でまったり過ごすことがすきです」
あながち間違いじゃない。
土いじりは好きだけどすぐに枯らしてしまう。たまに生活保安課の花壇の手伝いを担うくらいだ。
本当は家でまったりリルくんとイチャイチャして日頃の仕事のストレスを発散するのが趣味になっているといったらギルに殴られる。
「へぇ。まったり、ね……」
見かねたギルが含んだ視線をこっちに投げてきて、すぐに口封じの呪文を唱えるまえにぼくは口をつぐむ。
「よし、とりあえず自己紹介は終わったな。あとは各自自由に移動しながらしゃべって飲んで楽しもうぜ~」
ギルが小気味よく手を叩いて、場が仕切られた。さすがだ。
さっそくアーサーくんがぼくの隣にやってきて、さっきの王立秘話をペラペラ話しはじめた。
よりにもよってリルくん似の青年がそばによってきた。邪険にあつかうわけにはいけない。
それから十分もたたずに眠気が襲う。大げさだけど、グラスに睡眠薬が混入されているんじゃないかというぐらいにおそろしく眠い。
失礼ながらアーサーくんの話が退屈で、単位をとり損ねた退屈な講義みたいなのが原因かもしれない。
「なんだ、知り合いか?」
「……い、いや。きょうが初対面だよ。うん」
「うんってなんだよ。へんなやつ」
ギルが首を傾げるなか、ロンさんがは端っこに身を隠すように席を移動した。なんのことかぼくもわからず、ぼうとその様子を眺める。
「あー……。こわいのか。ルーベンスはな、竜人なんだよ」
その言葉にぼくは目を見開いて驚いた。
ロンさんに視線をむけると、彼もびっくりして固まっている。
——そんな、噓だろう。
この店の客のように獣人や妖精がいる日常だけど、一度も彼ら種族を目にしたことがないのがほとんどだ。
彼らは天上人ともいえる存在だし、神秘的な力を宿しているともいわれていて都市伝説と化している。まさか合コンの席にくるなんて考えもしなかった。
でも、やっぱりここは合コンの席だ。ありとあらゆる噂があっても彼の恋人事情を考えてしまう。
……竜人と結ばれる人なんてどんなひとなんだろう。
まちがいなくぼくではない。ぼくにはリルくん(サブスクアルファ)がいるし、むすりと不愛想なひとは苦手だ。
せめてロンさんみたいな不幸に星に生まれたひとと結ばれてどんな障害からも護ってほしい。
そんな驚愕してかたまっているぼくらの視線に慣れているのか、気にもせず、竜人ともう一人の青年はテーブルにちかよる。
ギルがワインを二本注文している間にひょろっとした細身の騎士がむかいに腰かけた。
髪は癖っ毛のヘーゼルブラウン。人懐っこい目で挨拶してくる。なんとなくその目がリルくんに似ていて、ドキッとしてしまった。
「……はいはいはい。全員席に座ったか。片方がアルファ勢で、もう一方がオメガさんたちね。それでじこしょーかいをまず開始するぞ。こっちが生活保安課のニアちゃん。で、こっちのダンゴムシじゃなくて同僚のロン。もうひとりは遅れてくるみたいなんでまたあとでな。んじゃそっち側もよろしく~」
「ギル…いいかたが…雑…」
「そうそう、おれのかわいい甥っ子な。ロン、どうだ。とーってもかわいいだろ?」
どうだっと紹介された噂の甥っ子はかわいいというよりも、逞しいというか、剛健たる風貌に屈強という言葉が合う。
「か、かわ……いい……とおもいます……」
ロンさんが苦し紛れに答えたが、目を伏せて視線をそらしている。うん、むりしてるのがわかるし同意する。
「なんで敬語なんだよ。つうか、ちょうかわいいだろう~。あ、やべ。紹介とめてしまったな。わりぃわりぃ。次の方どうぞ~」
ぼくの目の前に座ったひょろりとしたリルくんの似の彼が立ち上がった。
「ままま。じゃあ、次はぼくかな。えーと、名前はアーサー・タレス。騎士団員です。所属は秘密。前はセキュリティ本部にいたから、防犯対策でなにか聞きたいことならいってね」
「……ルーベンス・ウォーターです。騎士団第五師団所属。以上です」
淡々と所属が名前が告げられて、騎士団出陣前の打ち合わせみたいな自己紹介タイムが三分もしないで終わる。
……しん。
だれも取り次がない。一瞬だけ、沈黙が漂う。
「そ、そうなんですね。すごいですね……」
パチパチパチパチ……。
場を盛り上げる役のロンさんですら顔が青ざめている。和気あいあいとした雰囲気もなく、すぐにお鉢がこっちに回ってきた。
「ロロロロロロ……ええと、ロン・ヴィンセントです。事故処理班で、地下にいつもいます……。ええと趣味は映画鑑賞と読書です。い、いじょうです……」
え……、もう終わりなのか。
ちらりとロンさんを盗みみると顔を真っ赤にしてうつむいている。かわいい。いや、まってほしい。ぼくはまつ毛をパタパタして、赤面して座るロンさんを二度見した。ロンさんの背後にリルくんにそっくりなお客さんがみえた。
そういうときに限って、うっかり彼に言葉責めされている自分を思い出してしまう。
……だめだ。幻覚すら見えるぐらいぼくも緊張してしまっている。なんたって竜人がいるんだ。ここは冷静沈着にすんなりと終わらせよう。
「ええと、ニア・パタルです。警察局刑事部生活保安課風営法第三係です。趣味は土いじりです。家でまったり過ごすことがすきです」
あながち間違いじゃない。
土いじりは好きだけどすぐに枯らしてしまう。たまに生活保安課の花壇の手伝いを担うくらいだ。
本当は家でまったりリルくんとイチャイチャして日頃の仕事のストレスを発散するのが趣味になっているといったらギルに殴られる。
「へぇ。まったり、ね……」
見かねたギルが含んだ視線をこっちに投げてきて、すぐに口封じの呪文を唱えるまえにぼくは口をつぐむ。
「よし、とりあえず自己紹介は終わったな。あとは各自自由に移動しながらしゃべって飲んで楽しもうぜ~」
ギルが小気味よく手を叩いて、場が仕切られた。さすがだ。
さっそくアーサーくんがぼくの隣にやってきて、さっきの王立秘話をペラペラ話しはじめた。
よりにもよってリルくん似の青年がそばによってきた。邪険にあつかうわけにはいけない。
それから十分もたたずに眠気が襲う。大げさだけど、グラスに睡眠薬が混入されているんじゃないかというぐらいにおそろしく眠い。
失礼ながらアーサーくんの話が退屈で、単位をとり損ねた退屈な講義みたいなのが原因かもしれない。
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