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第十話
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「おおげさだよ……。きょうはそれほど忙しいわけじゃないし」
「倒れたら、ぼくが看病するからいつでもいってね?」
……むぎゅぎゅ。
ああ、どうしよう。
どうせならいまから倒れて傷病休暇を申請しつつ、ずっと看病してもらってヨシヨシいいこ、熱を測って癒されっぱなしでいたい。
「ニアさん?」
「あっ、ああ。すみません。どうぞ中に入ってください」
慌てて冷静を顔に貼り付けてぼくは彼をキッチンのイスへと案内した。
それからぼくたちはお互いの進捗状況を交換し、(ぼくは市役所に勤める福祉課の公務員として通っているので日頃集まる苦情対応について)会話を楽しんだ。
「妹の手術が成功してやっと退院できそうなんだ」
「そうなの? それはよかった。ずっと心配でこないだ聖ワタラ教会に祈ってきたんだ」
「ありがとう、ニアさん。やっとこれで一苦労が報われるかな」
妹さんについては先々週に聞いていて、ぼくはサブスクのプレミアムに加入することに決めたからよく憶えている。
入会まもないぼくに、どうしてこの仕事をしたのか、リルはすぐにプライベートな事情を打ち明けてくれた。
リルくんは妹がやっと病院から退院することになり今度お祝いするらしい。彼の妹は魔力代謝系疾患の難病で、十五のときから入院生活を送っている。
リルくんはご両親に共に早くに先立たれ、彼は妹さんの入院費のために大学進学をあきらめて、魔法高等学校卒業後はすぐに就職という道を選んだという。
妹さんの入院費を稼ぎながらコツコツと働いていたけど、妹さんの容態が急に悪化して手術費用が必要となり、リルくんはこの仕事を始めたらしい。
かなり嘘くさい詐欺によくある話だけど、推しの話は口をつぐんで信じなければならない。
その事情もあいまって昼間も働いているらしく、顧客はぼく一人だ。
ほんとうに? と食い下がって訊いてみたものの、本当だそうだ。ナンバーワンじゃないけど、オンリーワンでよかったと心底感動して思った。
ちなみにプレミアムの特典もあり、延長料金を気にせず、好きなときによびだせるけど、スケジュールは彼の都合に合わせて呼んでいる。
だから指名料、オプション(コスプレ、ノーパン、服破り、巣作り材料の衣類や下着のお持ち帰り)をしっかり現金払いで支払っている真面目な良客で通っているつもりだ。
「……えっと……ニアさん?」
「あ……」
リルくんの整ったキュートな顔をみつめられ、ぼくの顔が熱くなる。
「やっぱり疲れてる?」
「い、いえ……。だいじょうぶです。ぼうっと考えごとをしていました。デザートはどうします?」
「あっ、それはね。ふふふ。今日は特別メニューをお願いしたいところなんだ。これでね」
じゃーんと蜂蜜のチューブとホイップクリームの箱がテーブルに置かれた。
にっこりと満面の笑みを浮かべて、その笑顔にくらりと気絶してしまいそうになる。彼はぼくの手をとって、持ち上げると紳士然として手の甲にキスをした。
「デザートはニアさんにしたいんだ☆」
ううううううううううううううううう…‥‥。
かわいい。
夏のボーナスもぜんぶ貢いでしまいたくなる。
「倒れたら、ぼくが看病するからいつでもいってね?」
……むぎゅぎゅ。
ああ、どうしよう。
どうせならいまから倒れて傷病休暇を申請しつつ、ずっと看病してもらってヨシヨシいいこ、熱を測って癒されっぱなしでいたい。
「ニアさん?」
「あっ、ああ。すみません。どうぞ中に入ってください」
慌てて冷静を顔に貼り付けてぼくは彼をキッチンのイスへと案内した。
それからぼくたちはお互いの進捗状況を交換し、(ぼくは市役所に勤める福祉課の公務員として通っているので日頃集まる苦情対応について)会話を楽しんだ。
「妹の手術が成功してやっと退院できそうなんだ」
「そうなの? それはよかった。ずっと心配でこないだ聖ワタラ教会に祈ってきたんだ」
「ありがとう、ニアさん。やっとこれで一苦労が報われるかな」
妹さんについては先々週に聞いていて、ぼくはサブスクのプレミアムに加入することに決めたからよく憶えている。
入会まもないぼくに、どうしてこの仕事をしたのか、リルはすぐにプライベートな事情を打ち明けてくれた。
リルくんは妹がやっと病院から退院することになり今度お祝いするらしい。彼の妹は魔力代謝系疾患の難病で、十五のときから入院生活を送っている。
リルくんはご両親に共に早くに先立たれ、彼は妹さんの入院費のために大学進学をあきらめて、魔法高等学校卒業後はすぐに就職という道を選んだという。
妹さんの入院費を稼ぎながらコツコツと働いていたけど、妹さんの容態が急に悪化して手術費用が必要となり、リルくんはこの仕事を始めたらしい。
かなり嘘くさい詐欺によくある話だけど、推しの話は口をつぐんで信じなければならない。
その事情もあいまって昼間も働いているらしく、顧客はぼく一人だ。
ほんとうに? と食い下がって訊いてみたものの、本当だそうだ。ナンバーワンじゃないけど、オンリーワンでよかったと心底感動して思った。
ちなみにプレミアムの特典もあり、延長料金を気にせず、好きなときによびだせるけど、スケジュールは彼の都合に合わせて呼んでいる。
だから指名料、オプション(コスプレ、ノーパン、服破り、巣作り材料の衣類や下着のお持ち帰り)をしっかり現金払いで支払っている真面目な良客で通っているつもりだ。
「……えっと……ニアさん?」
「あ……」
リルくんの整ったキュートな顔をみつめられ、ぼくの顔が熱くなる。
「やっぱり疲れてる?」
「い、いえ……。だいじょうぶです。ぼうっと考えごとをしていました。デザートはどうします?」
「あっ、それはね。ふふふ。今日は特別メニューをお願いしたいところなんだ。これでね」
じゃーんと蜂蜜のチューブとホイップクリームの箱がテーブルに置かれた。
にっこりと満面の笑みを浮かべて、その笑顔にくらりと気絶してしまいそうになる。彼はぼくの手をとって、持ち上げると紳士然として手の甲にキスをした。
「デザートはニアさんにしたいんだ☆」
ううううううううううううううううう…‥‥。
かわいい。
夏のボーナスもぜんぶ貢いでしまいたくなる。
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