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第七話

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 で、やってきました非日常。
 ザ・オフ。仕事が終われば公僕のぼくも自由だ。
 週末休みの代わりに、リルくんが平日コースで我が家(アパート)にくることになっていた。
 合コンもあるけど、サブスクなので取りやめは急にできないのが実情で、リルとのせっかくの予定をキャンセルなんてできるわけがない。

  自由バンザイ。

 もちろん部屋も寝室も塵ひとつなく、ベッドシーツもおもらし用のタオルも新品に替えた。コンドームの箱は二ケースも万全に用意してあるし、カーテンもしっかりと閉め切った。寂しき隣人のために防音魔法をかけておいたけど、古風なアパートなので効きがわるくなっている気がする。

 壁に耳をそばたてると、隣からコツコツと尖ったもので叩くような音が聞こえた。どうせぼくの押し殺した声で相殺されるので、そこはお互いさまということで苦情は申し立てず様子見することにしようと決めた。

 玄関のブザーが鳴り響いて、ぼくはさながら悪魔に立ちむかうヒーローのようにすくっと立ち上がる。

 扉を開いたとたん、彼のやさしくてふんわりと柔らかな香りがした。それと石鹼のような清潔感ある香水がして、それが花束だとわかるまもなく、ぼくの視界が胸に閉じ込められた。

「……ニアさん、会いたかった」

 ……むぎゅ。
 ぎゅっと力つよく抱きしめられて、勘違いしそうになるほど身体が熱くなった。
 鍛えられてしっかりとした身体にある大胸筋があたる。驚くなかれ、硬そうにみえるが実はふわっともちもち柔らかい。

「ぼぼぼぼぼぼぼくもだよ……」

 顔面いっぱいに彼の匂いを浴びて、相変わらず過度に緊張してしまう。
 ただし、ぼくは客なので勘違いはしてはいけないし、適切なマナーを尊重しなければそのままイタくてヤバい客になるまえに理性を奮い立たせる。

 般若心経。神への誓い。聖書第十二章。死人の中からよみがえらせた神を思い浮かべて冷静さを取り戻す。神よ仏よ、なんでもいいからこの興奮を止めてくれ……。

 熱い抱擁をされつつ、謎の呪文を唱えながら受け止めて、すっと彼から離れた。とりあえず、一呼吸してリルくんのかぐわしい芳香を身体に取り入れる。

「リルくん、ひさしぶりだね。さ、家のなかにどうぞ」

 リビングにはゾマー・カルトッフェル・ザラート(夏のじゃがいもサラダ)と大きな丸いオムレツが熱々で用意してあるのをすっかり忘れていた。
 定時に上がって、すぐに彼の大好物をつくったのだ。

「ニアさん、相変わらずクールだね。今日は朝までコースだけど、仕事終わりで疲れてない? だいじょうぶ?」
「だいじょうぶです。しっかり寝ていますし、最近うちの部署は超過勤務にうるさいんです」

 刑事部屋は過労死よりも殉死が多いので、血の気がさかんな部署だし残業で死ぬ刑事はほとんどいないのが実情ともいえる。
 リルくんがぼくの手首を掴んで、細くて狭い廊下でふたりとも立ち止まった。

「ニーアさん、敬語はなしだよ。今日はたっぷり甘えてもらうんだから」
「ご、ごめんなさい。あっ……。つい、仕事のくせが残ってて……」
「こら」
 ふりむいたら、額にかるくデコピンされた。
 もしかしたらぼくはエムッ気があるのかもしれない。
 ドムサブオプションの追加……って。
 ああ、いけない。ふだんからオンとオフを切り替えていないので妄想がごっちゃになる。
「……ええと、その、奥に夕食がつくってあるんだ。どうかな?」

「やった。ニアさんの料理は絶品で忘れられないんだ。お腹ペコペコだったからめちゃくちゃうれしい」
「う、うん。がんばってつくったから食べて……」

「……ニアさん、だいすき。仕事が忙しいんだからあまり無理しないで。いつか倒れるんじゃないかと心配なんだ」

 さっきよりもフェロモンの威力を数倍増し増しにしたあらん限りのぎゅっ……。
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