聖騎士たちに尻を狙われています!

トノサキミツル

文字の大きさ
上 下
14 / 14

最終話

しおりを挟む

「わわっ、ヤバノちゃんひかないでよ~」
「…………ソータそういうことだ。だからランス、おまえは王都に帰れ」
「えっ」
「え~っ!」
「おまえは帰って王妃の相手でもしてろ」
「やだよ~。ちょっと声をかけたら、執念深く蛇みたいにしつこくつきまとってくるし、ねちねち絡みついてくるし大変だったんだよ~。やきもちなんて焼いちゃって周りにも疑われるからこっちにきたのに~」

 ランスはあまえた子どものようなすねた話し方で俺を持ちあげて膝の上に乗せる。

「なっ、なっ……」
「だまれ。さっさと荷物をまとめて王都へもどれ」
「やだやだやだ~」
「え……っ……と」
 
 話についていけない。
 わけわからずに目をきょとんとしていると、クロが俺に視線を戻した。

「ランスが王妃と密通していることなんてだれでも知っていることだ。ソータ、このペテン師に騙されるな。こいつの貞潔なんてすでにない」
「へっ、じゃあ……」
「ちょっと、ちょっと~! 密通なんてしてないよ~。ちょっとお茶したり、お話しただけだし~。歴とした聖騎士もとい童貞だったよ~」

 本当かよ……。
 じと……とした目でみると、ほんとに童貞なんだよ~とつぶやいて、ちんちんを俺にみせつけるようにくいくいと腰を押しつけてくる。

「なっ……!」
「ほら、みてみて~。きれいなピンク色でしょ? ベビーピンクだよ?」

 視線を落とすと、ちょっと半だちになっているので、そこから目をそらす。

「やめろ、ランス。これからは俺とソータ、ふたりで聖杯を探す。どうせ俺に許嫁がいるとかなんとか吹き込んだんだろ。もう婚約破棄されてむこうは所帯をもっているのに、よけいなことを言うな」
「へ?」
「え~! やだやだやだ。だってさ、指輪なんてあげるからだよ~。どうせヤバノちゃんをひとりじめするつもりなんでしょ~!」
「わっ、わっ……」
「やめろ。はなれろ」

 ランスが全裸のまま抱きついてきたが、クロがかばって阻止した。ふたりで押し合って、無邪気にじゃれあっているようにもみえる。

「だまれ。これ以上おまえのあそびにつきあうつもりはない」
「え~、三人でいいじゃん」
「……おまえは、ほとんど一緒にいないだろう」
「朝と夜はいるよ~。そんなに怒ることないじゃん。もうせっかくだからさ、ソータに決めてもらおうよう」
「へ?」
「…………そうだな」

 急に、ふたりがこちらへ視線をむける。ぎしりと寝台が軋んで、灰色と青の瞳がならぶ。
 いや、なんつうか。なにそれ。
 こっちみんな。
 
「ランスはかえっ……」
「え~帰ったら、王妃と不倫に走ろうかな~」
「は?」
「だってさ、ヤバノちゃんのおしり天才すぎて忘れられないじゃん。イチャイチャしてまぎらわせるしかないじゃん……。この国がめちゃくちゃになってもさ、王様ぷんぷんでもさ、しょうがないよね。ぜんぶヤバノちゃんのせいだけど~」
「は?」
「ランス、口を挟むな。ソータ、どうなんだ?」
 
 いや、どうなんだというか……。
 王都に帰ってほしいような、ないような……。
 けど、帰ったら不倫とかはやめろ。俺のせいで、王宮がめちゃくちゃになるのもいやだ。つうか、こまる。

「ソータ、どうなの?」
「うっ」
「ソータ、どっちなんだ?」
「ううっ、……三人で一緒がいいと思う。思います」

 そう口にすると、ランスは両手をあげてよろこんだ。腑に落ちないのか、クロは不満そうに腕を組んでいる。

「じゃあ、三人で決まりだね!」
「……チッ」

 不機嫌そうにクロが舌打ちをした。


 次の日、村を離れて森の奥へいくことになった。行きがけにギルドマネージャーであるおっさんのところに寄った。
 ルゥを店の前の丸太につないで、新しく手に入れた餌の皿をだした。熟れた果実をそこに置くとランスがうしろから声をだした。
「なんかさ、ルゥ太った?」
「へ?」

 確かによく見ると、ふっくらとしたような気がする。クロが横腹をなでると、気持ちよさげに身体をすりすりしている。

「……餌は適度な量をやっているぞ」
「でもさ、ずっと食べてない?」
「クッ!」
「気のせいだって。皿から餌が出るわけじゃねぇし」
「そうかな~」
「クッ!」
「ランス、いくぞ」
「はいはい~」

 二人が先に店の中にはいり、俺は道端に屈んでゆっくりと撫でる。

「ルゥ、おやつは一個だけな?」
「クッ!」
「おとなしくまってろよ?」
「クッ!」
 あまい匂いを発散させたやわらかな果実をひとつだけ置いて、首をなでた。
 すぐに食べてなくなるだろうなと思って店に足を踏み入れて、振りかえる。
 かつかつと嘴でつつく音がしたと思った。
 気のせいか。おやつはまだ皿の上にあった。


 店の中は変わらず、暗くて煙草と酒の匂いで充満していた。おっさんは長椅子に腰かけて酒瓶を片手に、ごくごくと飲んでげっぷをしている。

「ここを出ていくのか?」
「ああ」
「うん、また長旅だよ~」
「そういえば、ソータのケツはどうなった? サービスにみてやるよ」
 おっさんが立ち上がり、ごそごそと透明の水晶を目の前に置いた。膝を折って、尻に水晶をむける。ふわんと薄ぼんやりとした光がゆらめいた。
「お。ケツのレベルが際限なく上がったぞ」
「は?」
「レベル三〇〇〇だ。すげぇな!」
「は?」
「すごい! 僕がたっぷり中に出したおかげだね!」
「……は?」

 まじまじと水晶をみると、たしかにケツマンコ三〇〇〇と記されてあった。
 たしかにやばい量を注がれたのは事実だけども……。
 ケツのレベルの実感がないんだけど……。

「これは、今日の旅は打ち切りだね。お祝いしなきゃだめだね」
「は?」
「ああ、旅は明日にしよう」
「……ちょっとまて。聖杯はどうなるんだよ。そんなんじゃ、一生手に入られないだろうが」
 俺はつい、余計な一言を発してしまった。するとおっさんがこっちをみた。

「おいおい、ケンカすんじゃねぇよ。おまえらチームだろうが。聖杯探求なら童貞が一人いればいいんだ。それよりもケツの魅力度を上げて、効率よく探したほうがいいぜ。開発も順調なんだ、そっちを頑張ればいいんじゃねぇか」
「は?」

 おっさんの横からの余計なアドバイスを投げられ、ふたりが視線を合わせた。おい、本当にやめろ。おい。ふたりとも納得するな。

「……なら、俺もできるな」
「じゃあ、最後は三人でやろうよ~。クロが脱童貞しても、ソータが探せばいいじゃん! 僕たちが戦って守れば無敵だし~」
「は?」
「…………なるほど。そうだな」

 顎に手をやり、なにやら考えているクロが深くうなずいている。
 ……あ。
 これ、やばいやつだ。
 逃げようとしたら、ふたりにがっちりと腕をつかまえる。

「せ、聖杯はどうなるんだよ!」
「それは、だいじょーぶだよ~」
「ああ、心配することはない」
「おう、おまえら仲よくすんだぞ!」

 ゲラゲラとおっさんが笑う。
 朝からすでに三本は瓶を空にしているっぽい。

「きょうはお祝いだね~。目隠しとかしちゃおうよ~。かなりきつきつだったけどレベルも上がったし、そろそろ二本同時もいけそうだね!」
「…………ああ」
「さ、娼館に連絡しなきゃ」
「……ああ、頼む」

 いや、無理だし。
 これから旅に行くはずがおかしな方向になってるし。
二本ってなんだ。同時ってなんだ。
 いや、いやいやいや……。

「ケ、ケツにそんなことできねぇよ!」
「チートだからだいじょうぶ」
「…………ああ、最強だ」

 ランスは微笑を浮かべて、クロは神妙な表情でうなずきながら言う。もちろん両腕をがっちりとつかまえて、逃げられない。

「ソータの尻はチートケツマンコだからなっ」

 おっさんが愉快そうに酒を呑んで、げらげらと笑った。全然笑えないし、クソきしょい。

「お、おれのケツはそんなんじゃねぇっ!」

 俺はずるずると店の前に連れ出された。ルゥはまだおやつをカツカツと食べ続けている。

 帰りたい。
 ケツマンコってなんだ。
 つうかチートてなんだよ。

「なんだ、まだ食べているのか。いくぞ」
「クッ!」
「いろんなこと楽しもうね!」
「やだやだやだやだ!」

 俺たちは完全に、なにか大事なことを見逃していたということをまだ誰も気づいていない。

 おわり
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

海月
2022.04.22 海月

初めまして。
楽しく読ませていただいていますが、5話目と6話目が、3話目と4話目と重複していて、少し混乱しました。
お知らせだけでもと思いお送りしました。

2022.04.22 トノサキミツル

ご指摘ありがとうございます。確認したら重複しており、修正いたしました。全然気づいていなかったので、とてもありがたく思います。ありがとうございます😭

解除

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目

カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。