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第四章 亡霊少女
55 エリーゼ
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「エリーゼ・・・」
「久しぶりね、グレン」
言葉が出ない。
何故?
どうしてここに?
死んだんじゃなかったのか?
何故昔の姿のままで?
様々な疑問が浮かんでは消え、一向に言葉が紡げない。
いや・・・よく見ればその姿は・・・
「グレン」
エリーゼの呼びかけに、バッと顔を上げたグレンはその声の主を見つめた。
気がつけば、彼女は目の前に立っていた。
「何か、聞きたいことが有るんじゃなぁい?」
「・・・・・・・・・・死んだと・・・・・・・聞いた、が」
「んっふふ」
やっとの思いで絞り出したその問いかけに、優しく彼女は微笑んだ。
「エリーゼ・・・・・・」
「おかしな事を聞くのね、グレン」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・生きているように見えるのかしら?」
一瞬で空気が変わる。
先日、大隊長との会話で感じた怖気とは異なる物だ。
「亡霊・・・か?」
「・・・・・・グレン」
「・・・・・・何だ?」
「私が、どうやって死んだのか・・・・・・聞いてるかしら?」
「・・・・・・・・・・」
「上も下も槍を突き立てられて・・・・・・痛かったわ・・・・・・」
「・・・・・・」
エリーゼの問いを、グレンは答えられずに黙って俯いている。
「帝国の人たちに、私はボロクズみたいにされて・・・・・・いえ、それ以下ね?あれは」
「・・・・・・」
反応できないグレンを尻目に、エリーゼは自らが如何にして最後を迎えたのかを、グレンに詳細に事細かく伝えたのだ。
「最後は、本物の槍で串刺しにされたの」
「・・・・・・」
「でもね?グレン」
グレンは面を上げた。
そこには
「私、まだ生きていたの」
穴だらけ化物がいた。
あちこち千切れ、垂れ流し、飛び出した・・・・・・少女だったものがそこに居た。
「・・・うっ」
彼は思わず息を呑んだ。
「私、こんなになってもね・・・信じていたのよ?」
再び元の少女姿に戻ったエリーゼは、グレンに優しく語り続ける。
「な・・・にを・・・しんじていた?・・・・・・」
最早想像はついていた。
だが、聞かずにはいられない。
「貴方・・・行ったわよねぇ?『僕が君を守る』って」
「・・・・・・言った、よ・・・・・・確かに、俺は」
子供の頃の約束だった。
よくある物語の、セリフの一つだ。
子供同士の、会話の中の一つだ。
そう思えれば、どんなに楽だろうか。
「最後には、あの村は焼き尽くされたの・・・・・私諸共全てね」
「俺は・・・逃げた。」
「ええ、知っているわ」
「そんな俺に・・・敗残者の前に何故10年も経って現れたんだ?」
どうにか言葉を絞り出せるようになったグレンは、エリーゼに問う。
「時期が来たの」
「時期・・・」
「真紅の夕暮れ時に赤い戦士は、敵を討ち滅ぼす・・・・・・炎龍とともに」
「・・・・・・あの伝説は・・・最終的には国を滅ぼすことになる」
「知っているわ、グレン・・・炎龍は、貴方ね?」
「俺はそんな大それた者じゃねえ・・・・・・」
「そして」
「やめろ・・・・・・」
グレンの制止を他所に、エリーゼは続ける。
「漆黒の怨念と怨嗟を纏う騎士は・・・」
「止めろ!!!」
椅子から飛び上がり、鬼の剣幕で吠えるグレンに、エリーゼは言葉を止める。
「それ以上続けんじゃねえ!!!」
「・・・・・・・んっふっふっふっふっふ」
「なんだ・・・・?」
年相応の無邪気な笑顔で笑いだした亡霊を前に、彼は困惑した。
「やっと、盛り上がってきたじゃないのグレン」
「・・・・・・」
グレンは再び椅子に座り直す。
「見て、グレン」
グレンはエリーゼが指す方向を見る。
「綺麗な夕日じゃない・・・」
「俺は、嫌いだよ・・・・・・この色は」
「真っ赤に燃えて、血が燃え尽くされていくみたい」
「・・・・・・」
「グレン」
「何だ?」
「またね」
「えっ?」
「また、同じような時に来るわ」
「止めろ・・・」
「貴方が、いつ、何処で、何をしていようとね?」
「止めてくれ・・・・・・」
「じゃあね、グレン」
そう言い残し、彼女は姿を消した。
霧のように静かに、姿をくらました。
暗がりになった部屋に、グレンは一人取り残される。
「久しぶりね、グレン」
言葉が出ない。
何故?
どうしてここに?
死んだんじゃなかったのか?
何故昔の姿のままで?
様々な疑問が浮かんでは消え、一向に言葉が紡げない。
いや・・・よく見ればその姿は・・・
「グレン」
エリーゼの呼びかけに、バッと顔を上げたグレンはその声の主を見つめた。
気がつけば、彼女は目の前に立っていた。
「何か、聞きたいことが有るんじゃなぁい?」
「・・・・・・・・・・死んだと・・・・・・・聞いた、が」
「んっふふ」
やっとの思いで絞り出したその問いかけに、優しく彼女は微笑んだ。
「エリーゼ・・・・・・」
「おかしな事を聞くのね、グレン」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・生きているように見えるのかしら?」
一瞬で空気が変わる。
先日、大隊長との会話で感じた怖気とは異なる物だ。
「亡霊・・・か?」
「・・・・・・グレン」
「・・・・・・何だ?」
「私が、どうやって死んだのか・・・・・・聞いてるかしら?」
「・・・・・・・・・・」
「上も下も槍を突き立てられて・・・・・・痛かったわ・・・・・・」
「・・・・・・」
エリーゼの問いを、グレンは答えられずに黙って俯いている。
「帝国の人たちに、私はボロクズみたいにされて・・・・・・いえ、それ以下ね?あれは」
「・・・・・・」
反応できないグレンを尻目に、エリーゼは自らが如何にして最後を迎えたのかを、グレンに詳細に事細かく伝えたのだ。
「最後は、本物の槍で串刺しにされたの」
「・・・・・・」
「でもね?グレン」
グレンは面を上げた。
そこには
「私、まだ生きていたの」
穴だらけ化物がいた。
あちこち千切れ、垂れ流し、飛び出した・・・・・・少女だったものがそこに居た。
「・・・うっ」
彼は思わず息を呑んだ。
「私、こんなになってもね・・・信じていたのよ?」
再び元の少女姿に戻ったエリーゼは、グレンに優しく語り続ける。
「な・・・にを・・・しんじていた?・・・・・・」
最早想像はついていた。
だが、聞かずにはいられない。
「貴方・・・行ったわよねぇ?『僕が君を守る』って」
「・・・・・・言った、よ・・・・・・確かに、俺は」
子供の頃の約束だった。
よくある物語の、セリフの一つだ。
子供同士の、会話の中の一つだ。
そう思えれば、どんなに楽だろうか。
「最後には、あの村は焼き尽くされたの・・・・・私諸共全てね」
「俺は・・・逃げた。」
「ええ、知っているわ」
「そんな俺に・・・敗残者の前に何故10年も経って現れたんだ?」
どうにか言葉を絞り出せるようになったグレンは、エリーゼに問う。
「時期が来たの」
「時期・・・」
「真紅の夕暮れ時に赤い戦士は、敵を討ち滅ぼす・・・・・・炎龍とともに」
「・・・・・・あの伝説は・・・最終的には国を滅ぼすことになる」
「知っているわ、グレン・・・炎龍は、貴方ね?」
「俺はそんな大それた者じゃねえ・・・・・・」
「そして」
「やめろ・・・・・・」
グレンの制止を他所に、エリーゼは続ける。
「漆黒の怨念と怨嗟を纏う騎士は・・・」
「止めろ!!!」
椅子から飛び上がり、鬼の剣幕で吠えるグレンに、エリーゼは言葉を止める。
「それ以上続けんじゃねえ!!!」
「・・・・・・・んっふっふっふっふっふ」
「なんだ・・・・?」
年相応の無邪気な笑顔で笑いだした亡霊を前に、彼は困惑した。
「やっと、盛り上がってきたじゃないのグレン」
「・・・・・・」
グレンは再び椅子に座り直す。
「見て、グレン」
グレンはエリーゼが指す方向を見る。
「綺麗な夕日じゃない・・・」
「俺は、嫌いだよ・・・・・・この色は」
「真っ赤に燃えて、血が燃え尽くされていくみたい」
「・・・・・・」
「グレン」
「何だ?」
「またね」
「えっ?」
「また、同じような時に来るわ」
「止めろ・・・」
「貴方が、いつ、何処で、何をしていようとね?」
「止めてくれ・・・・・・」
「じゃあね、グレン」
そう言い残し、彼女は姿を消した。
霧のように静かに、姿をくらました。
暗がりになった部屋に、グレンは一人取り残される。
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