皇國の防戦記

長上郡司

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第三章 山岳城塞奪還戦

45 後へ、後へと

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「抵抗が止んだな」




「ボルゾフ将軍を討ったからな」




グレンは再び開門装置へと向かう。




「隊長、このまま行けば、今回の第一功はうちの隊ですかね?」




「あぁ・・・」




「壁上砲の制圧に、塞将の撃破、そして主目標である城門の解放・・・どう考えても内の隊より上は無い」




部下の質問にヴォルゲンが答える。




「いや~報奨がっぽりっすね!何買おうかなぁ~」




「おい、ギルバートまだ終わってないぞ、後にしろ」




浮かれきった部下をヴォルゲンが諌める。




グレンよりさらに若い彼は、経験が浅い、中急遽今回の作戦に投入されたものの、見事に生き残った。




先程、ボルゾフが放った槍を寸でで回避した事と言い、なかなか運が良いようだ。




そうこう話しているうちに、グレン等は開門部屋の前に着いた。
















「誰か扉の前にいるぞ・・・」




開門部屋の前に誰かがいた。




兵装からして、明らかに敵である。




「まだ粘るつもりみてぇだな」




そう言うとグレンは斧を構える。




「誰から死にたい?」




悠然と敵に近づくグレン。




「貴方は“戦闘龍”ですね?」




「何?」




「私はボルゾフ将軍の副官であります、ハーベルと申します」




ハーベルは、畏まってグレンに名乗る。




「ボルゾフ将軍の?・・・仇討ちにでも来たのか?この人数で」




「いえ・・・殿に代わり、感謝申し上げます。グレン・バルザード」 




ヴォルゲンの問いに、片膝を付き胸に拳を当てる。




完全な敬服の証である。




異様な光景に、グレンは少なからず動揺したようだ。




「何故、俺に感謝する?」




「殿は・・・ずっと、後悔しておりました。“あの時、共に戦っていれば・・・”と」




「・・・」




副官の話にグレンは静かに耳を傾ける。




「国が飲まれ、家族を捕られ、自らの誇りは砕かれた・・・この十数年、殿はまるで・・・・・・生ける屍そのものでした。」




「・・・」




「それが・・・先程、貴方との戦っていた殿は・・・心底喜ばれていた。」




「・・・」




「最期は、笑って旅立たれました。ありがとう、グレン・バルザードこれで、私たちもようやく役目を終えることが出来ます」




“役目を終える”その言葉にグレンとヴォルゲンは、全てを察した。




「そうか・・・」




「・・・達者でな」




副官達数名の部下は、それだけを伝えると去っていった。













「さっきのあれ、どういう意味だったんですか?」




やり取りを見ていたギルバートが質問をした。




今正に開門装置を操作しようとしていたグレンの手が止まった。




「あいつらは・・・」




グレンは言葉に詰まる。




「ボルゾフ将軍の後を追うそうだ」




ヴォルゲンが代わりに答えた。




「え・・・」




それを聞いたギルバートが絶句した。




「あいつらは“役目を終える”と言ったな?」




「はい・・・」




「そう言うことだ」




「そんな・・・せっかく助かったのに・・・」




「あいつらが望んだことだ。俺らにはどうにもならん」




ヴォルゲンが冷徹に、ギルバートを諌める。




「滅んだとは言え“ガルディア騎士団”の一員だった連中だ、これ以上帝国の為に手を汚したくは無かろうさ」




「・・・そう言う物ですか」




暗い顔でヴォルゲンに訪ねるギルバート




「納得出来ていないようだな?」




「・・・はい」




「お前はまだ若い、これから色々な事を見て聞いていけば良いさ」













「ヴォルゲン先生の人生講座は終了か?」




再びグレンは開門装置の前に立つ。




「そんなもん開いた記憶はない」




船の舵のような形のそれは、鎖を介して城門を高く跳ね上げていた。




「開けるぞ」




「あぁ」






















城門内側が大人しくなったものの、城壁及び城門外は変わらず騒然としていた。




壁上砲は沈黙させられたが、弩や落石などを用いて守備を継続する帝国軍に対し




壁上右翼から突破出来ず、依然として城内に降下出来ない皇國軍




戦闘は降着状態に陥っていた。




「ブラド隊長!グレンはまだ開けないんですか!?」




「敵を引き付けるったって限界がありますよ!」




「グレンを信じろ、あいつは必ず成し遂げる奴だ」




弱音を吐く部下を諌め、白兵戦に加わるブラド。




“グレンまだか!?”




流石に限界が近いことは察していた。




ソフィアの援護部隊も同様に限界が近い。













その時、大きな駆動音が城塞内外に響き渡った。










「開いたか?」




「あぁ、開いたっぽいな」




「とりあえず、どうにか為りそうだな」




「あぁ、久々に疲れたな今回の作戦は」




「そうだな・・・ヴォルゲン」




「ん?」




「お疲れさん」




「どうも、隊長もな」






















城外の皇國軍将兵から歓声が溢れた。




副官ハーベルは、城門の陥落を確信した。




この城は、もう落ちる。




帝国軍将兵は恐慌状態に陥り、我先にと城内から、帝国領内への脱出を図る。




ハーベルはその様を尻目に、城の守閣に入っていく。




中にはすでに彼の部下が集まっていた。




「諸君、我らが殿は、神聖なるガルディアの誇りと共に、一足早くヴァルハラにて我らをお待ちだ」




ハーベルは部下に告げる。




全員迷いの色はない。




「殿は、皇國の若き龍を前に、笑顔で旅立たれた。我らも、散っていった者達も再び笑顔で再開できるだろう」




ハーベルは、短刀を抜いた。




「諸君!」




配下も、それに続き短刀を抜く。




「ガルディアに!永久の栄光あれ!!」




「ガルディアに!永久の栄光あれ!!」













その言葉と共に、ガルディア騎士団はボルゾフの後を追った。

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