皇國の防戦記

長上郡司

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第三章 山岳城塞奪還戦

37 悪夢

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とある帝国兵は、足が止まっていた。




彼の目の前では戦闘が繰り広げられていた。




いや・・・正確に言えばそれは戦いではない。




一方的な虐殺だった。




眼の前には、薙刀のような長刀を振るう赤髪の女が居た。




その女は、沢山の刀を身に着けていた。




背中に二振りの刀を、腰の側面と後方にそれぞれ二振りの、大小合わせて六振りの刀を身に着けていた。




彼女は戦闘中に状況に応じて刀を入れ替え、あらゆる局面に対応している。




・・・が、今は全ての刀を鞘に収め、薙刀のような武器を振るう。










その矛は、異様なほどの切れ味だった。




全身を重装備に固めた帝国軍重装歩兵を、まるでバターを切り分けるが如く、滑らかに切り裂いていく。




かつてはグレンを、ヴォルゲンを切り裂いたその❝悪魔の矛❞で、今は帝国軍将兵の命を、魂を刈り取っていくのだ。










そう、死神の鎌のように・・・










グレンの荒々しい戦い方とは全く異なるその様は、戦場をまるで舞踏会の会場の如く優雅に、可憐に舞い踊るのだ。




現状を忘れ、呆然と見つめていた帝国軍兵は、フッと我に返った。




そのまま気づかないままに切り裂かれていたほうが、幾分かはマシであったのではないだろうか。










もう、誰も居ない。




自分だけだ。




誰も、どこにも、居ない




彼以外は全員が血の海に沈められていた。










悪魔が彼に気がついた。










動かない。




彼は凍りついていた。




剣を振るうことも




踵を返して逃げ出すことも




彼は出来ない。










悪夢だった。




質の悪い夢なら・・・どれほど良かったことだろうか・・・




一歩、一歩、また一歩と彼に近づいてくる。










死が、




明確なる死が




近づいてくる。







彼の剣の間合いに、悪魔が入ってきた。







動けない




彼は




何も




動けなかった。







「・・・?」







悪魔が何かを呟いた。




聞き取れずに居た彼は、只々困惑していた。







もう一度、彼女は囁いた。







「あなたが最後なの?」







それが彼の、この世で最後に聞いた言葉だった。













そうして、帝国軍城門守備兵は全滅した。
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