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《カナリアの侍女リーリア》

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~リーリアside~

私はリーリア・バリスタ伯爵令嬢。
大好きな人がいました。
誰にもなびかないクールな男の子。既に婚約者がいるらしいんだけど、その人のことは嫌いなんだって。しかもその女は、私と同じ伯爵令嬢。だから、イケるって思った。私が彼の恋人になれば、私が彼と結婚できるって思ったの。

まぁ、7歳だもの。
いくらでもやり直しがきくもの。
女は度胸!恋は突っ込むものってお父様もお母さまも言ってたもん。
だから、私は彼カルド・デイニス公爵子息に告白をした。
こっ酷く振られたけど、諦めない!
お父様もお母さまも諦めなければ大丈夫って言ってたもん!

だから、私は彼に色々プレゼントしたり、世話したりした。
でも、彼は全然振り向いてくれない。
でも、諦めないわ!私、頑張る!

そんなある日、彼が変なにおいのする革袋を渡してきて、
「あいつの家に侍女として入りこみ、あいつにこれを仕込めば、考えなくはない」
と言ってきた。なんか、すんごく怪しいけど、なんかすごく怖いけど、私頑張る!

そしたら、お嬢様がぶっ倒れた。
カナリア・モブハント伯爵令嬢。
儚くて今にも消え入りそうなお嬢様。同い年の女のことは思えない程大人っぽいのに、同い年とは思えない体格の小さな女の子だった。初めて会った時、絵本の中から出てきた妖精かと思った。綺麗な女の子。たまに歌うんだけど、その声がまるで清水の様に清らかで、とっても美しい歌だった。
そんな彼女に私は薬を…。

罪悪感で私は1週間くらい吐き続けた。おかげで誰も私を疑わなかった。

2か月に一度位カルド様は私に毒薬を渡す。
私は震えながらも命令通り毒薬を彼女に飲ませる。
その後すぐに彼女は倒れる。それを見て、罪悪感に私も倒れる。
本当、悪循環。。

分かってる。
分かってるんだ。止めなきゃいけない。
それに毒薬なんて使ったところで、この屋敷には王都で一二を争う医者が常駐しているんだから、無駄なことなんだ。
本当はわかってるんだよ。
それに、お嬢様はなんとなく気づいてる気がする。
心無しか、「止めない?こんな事」って目が言ってる気さえする。口にはしないけど。
でも、きっと、口にしてくれたら、私だって逆上して、逆に大暴れして、お嬢様に暴力をしようとかして、捕まってそしたら、きっと止めれる。でも、そんなことしたらうちにも迷惑かける。本当、私はどうしたらいいんだろう?
それにカルド様は全然私と話してくれない。
私が成功させないからって言うけど、本当に私のこと奥さんにしてくれるの?本当に?
答えてくれないカルド様はさっさと私に薬だけ渡して去っていく。

お父さまもお母さまも私のことを心配するようになってきた。
行儀見習いとして公爵家に行かせたのに、何でか伯爵家にいることにも色々言われた。長男のカルド様の指示で婚約者様のところにって言ったら、一応納得してくれたけど…。

3年も経てば、流石に理解してきた。
今は自棄になってると思う。
でも、やっぱりやめられない。
クスリを盛った後、やっぱり私は倒れてしまう。罪悪感で押しつぶされる。
最近、魘されるようになった。

本当、やってられない。
気付けば、体重もどんどん減っていった。
私自身が病人みたいと同僚の人たちにも言われた。
無理はしなくていいって言われた。

本当、ここの人たちは優しい。
いや、公爵家だって、悪くなかった。カルド様以外皆優しくしてくれてたもの。

それに気付いた時、私の恋は消失した。

そして、それに気付いた後に呼び出された日、私は彼にちゃんとこう告げた。
「もうこんなこと止める。」
と。

そしたら、今度は脅迫された。
カルド様は
「クスリを持ったのはお前の意思だろう?お前が悪いんじゃないか?」
て言って来た。
「このことがバリスタ伯爵にバレたら、お前は家を追い出されるのかな?それとも御家断絶かな?」
と楽しそうにカルド様は言った。

此奴は外道だ。
極悪人だ。

何で気付かなかったんだ?
気付けたはずなのに、毒薬を渡した時点で気付けばよかったのに。
本当、私はバカだ。
愚か者だ。

ごめんなさい。お嬢様。
ごめんなさい。お父様。
ごめんなさい。お母さま。

本当に、ごめんなさい。

私は自殺するかそれとも薬を盛るかと悩みまくった。
でも、選んだのは薬を盛り続けることだった。

私こそ極悪人だ。
本当、私は外道だったんだ。
本当、私なんか死んじゃえばいいんだ。

それを止めてくれたのは、お嬢様のお兄さま。
衛兵が私を捕まえてくれた。

あぁ、これでもうやらなくていい。
これであの外道の手下をやらなくていい。
ごめんなさい。お嬢様。
ごめんなさい。お父様。
ごめんなさい。お母さま。

気付けば、捕まってから4年も経っていた。
私は気が狂っていたらしい。
とても酷く強迫観念に囚われていて、何度も自殺を試みていたらしい。
その証拠に手首には無数の傷跡があった。

既に同い年の子は学園を卒業し、成人を迎えていたらしい。まぁ、年齢で言えば、私も成人を迎えていた模様。
そう、気付けば既に16歳になっていた。

お父様とお母様はしばらくは療養しなさいと言い、無理だけはしてはいけないと言ってくれた。
それから、誰に聞いてもあの後のことを教えてくれなかった。
私はバリスタ家の5女。
だから、上の姉に聞いた。でも、姉は可哀そうな子を見る目で私を見て、頭を撫でて、
「今はまだ考えなくていいのよ。」
と言って教えてくれなかった。

半年くらい、誰も何も教えてくれなくて、逆に落ち込んで来始めた頃、一番下の弟が教えてくれた。
「姉ちゃんも兄ちゃんも過保護と情報を全く教えないのは全然違うぞ!このままじゃ、逆にリー姉ちゃんが壊れるぞ!」
と叫んだあと、あの後のことを言葉は下手だがちゃんと一生懸命話してくれた。
その後、姉も兄もかなり考え込んだ後、付け加えるように詳細を話してくれた。

簡潔に言うと、誰も何も罪に問われなかったと言うことだった。
勿論、注意は言われたらしいけど、まだ皆幼いから許されたんだそうだ。
でも、クスリの管理不行き届きに関しては先代公爵がこっ酷く怒られたんだそうだ。

その後、直ぐにカルド様とカナリア様は婚約を解消され、カナリア様は公爵家の末弟のエルド様と婚約を結んだんだそう。
そして、先日、カルド様も辺境ド田舎の男爵家に婿入りしたんだそうだ。

エルド様は現在11歳だから、結婚はできないけど、カナリア様ととても仲睦まじいんだそうだ。市勢には、彼らの恋愛本が出ているんだとか。
なにせ、エルド様がカナリア様への熱愛を始めたのは5歳の頃。彼女の為に世界中の医療を学び、彼女の為にあちこち動き回った結果、この国は飢餓に苦しまず、疫病にも苦しまないでいるんだそうだ。
なんだか壮大で、真実味が無いけど、どうやら本当のことらしい。
それは、本になるかもと思ってしまった。

勿論、本の内容のほとんどは史実と妄想が1対9で、恋愛パートはほとんど妄想らしいんだけど、1か月に二度花プレゼントとかは本当らしいとか何とか。
興味が出たので、読みたいと言ったら、姉が何でか4冊も持ってたから1冊かして貰った。

なんか、『布教用』なるものがあるんだそうだ。

本の内容はなんか途中冒険譚みたいになってたり、ド甘な恋愛話になったりだったけど、多分だけど、うん、恋愛パートは確かに9割妄想だと思った。うん。
お嬢様はかなりの奥手だし、まず庭にもほとんど出る体力が無かったからこのバラの咲き乱れる云々は無理。うん。
確かにそう言えば、あのくそ野郎の遣いと言って弟と名乗る人が花を毎月2回以上は持ってきては、使用人に花を渡した後、玄関付近で立ちっぱなしで居たっけ。この本みたいに直接渡してはいなかった。うん。
私が正気を失った以降のことはよく知らないから何とも言えないけど、前半のほとんどは妄想だと思う。
そして、ちょいちょい悪役として登場する謎の男って、どう考えてもあのくそ野郎じゃないかな?
実際はもっとくそ野郎だと思った。
恋路の邪魔をするどころか婚約者を殺そうとしたんだもん。
この話の中に私は居ない。
そう、居ないんだ。

ドッと荷が下りた気分になった。
お嬢様は私のことをどう思っていたのかとかは一応、弟から聞いた。
お嬢様は私を恨んでいないって言ってたって。
でも、罪悪感は拭えてない。

だから、けじめをつけようと思った。
お父様とお母様に言って、お嬢様のところに挨拶に行くことにした。
モブハント伯爵も快く了承してくれた。

末の弟が一緒について来てくれると言って、手をつないで一緒に行った。
モブハント伯爵家は前と全く変わっていなかった。
たまに聞こえる歌。変わらないあまり派手さのない庭。
時間がとてもゆっくり流れているようだった。
私を衛兵に突き出してくれたモブハント家の長兄様エレイン様は、私を見て、とても可愛そうなものを見る目で見て
「大変だったね。早くに見つけれれなくてごめんね。」
と言って撫でてくれた。
「カナリアも待ってるよ。」
と言って、彼自ら、カナリアお嬢様のところに案内してくれた。
私はその間、号泣して、何度もごめんなさいごめんなさいと言った。
弟のビィーが私の顔にでっかい布を何度も押し当ててきて、その度私はずびずびと鼻をかんだり、涙を拭いたりした。
後に知るのだが、この布は、洗濯済みのオムツだった。ショック。
まぁ、とても吸収率のいい柔らかいいい布だったけどさ。

そして、カナリアお嬢様のところに案内され、ドアが開き、彼女は歌うのを止めた。
そして、手を広げて
「おかえりなさい、そして、ごめんなさい。」
と言われた。
もう、私は脱水症状が出て倒れそうになるほどズビズビ泣いて、泣いて泣きまくってしまった。
布はとても大活躍しました。
私の瞼はまるでカエルの様に腫れ、あんまり開かないくらい腫れちゃったせいで、弟はめっちゃ笑った。なんだか、私もそれにつられて、気絶から覚めた後、笑ってしまった。
それから、カナリアお嬢様とちょっと会話して、今がとっても幸せなんだとおっしゃってくれて、もうまた泣きまくってしまって、あまりに泣きまくったから、気付いたら日が暮れていて、帰る帰ると言ったら、
「お姉ちゃんの目が蛙だから帰るん?」
とか弟に言われ、
「な、な、ハハハハハ!」
とエレイン様に大笑いされ、カナリア様も苦笑いされ、なんやかんやでお泊り会ってことになった。
よくわからないけど、夜遅くまで女の子同士で恋愛話をして眠る会なんだそうだ。
初めて聞く。

カナリア様はただ弱い方と思っていたけど、話してみれば、普通の女の子で、エルド様のことになるともう、可愛いったら無い。真っ赤になって色々話してくれた。
本当、私の恋なんてまやかしばっかりだったと言ったら、新しい恋を探せばいいって言われた。

「うちの兄なんかどう?」
とか言われた。
まぁ、その時は笑って、流した。

そして、次の朝、モブハント伯爵家に残していた渡し損ねていたものとして、ほんの少しだけど渡された。大体の物は4年前にバリスタ伯爵家に送ったらしいんだけど、事件の証拠として一応押収されていたものとして残っていたものを渡された。

それは、私の日記だった。
そして、帰るあいさつの後、カナリア様が部屋に戻ったのを確認して、エレイン様が来た。
「ごめん。僕はこの事件の責任者になった際、君の日記を読んでしまった。」
謝られた。
「いえ、仕方がありません。それにそのおかげで私は救われたのですから。」
「え?本当に?」
「はい。本当にありがとうございます。そして、本当に申し訳ありませんでした。」
それから二三会話をして、家に帰った。
お父様もお母様も優しく私を迎えてくれた。

お父様は近衛副団長なのにお休みを取って待っててくれたみたい。
本当、私は良い家族を持ったと思う。

本当、ごめんなさい。
そして、ありがとう。

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