悪役令嬢予定でしたが、無言でいたら、ヒロインがいつの間にか居なくなっていました

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おまけ

中庭にて(リース嬢)

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・・・こんにちは。中継は中庭です。

こちらに黒ぶちの猫さんがいると聞いて、来てみました。


こそこそと中庭に私は来た。きょろきょろと周りを確認すると中庭の中央にある噴水のところに黒い1cm程度の毛玉が見える。

近づいてみると、1cmの毛玉が転がっていた。そのまま転がって、噴水にモフンと入っていった。


「?」

じーっと船の様に浮かぶ毛玉を見ていると足元に温くて柔らかい感触が。

足元を見ると黒縁の猫さんが足に自分の毛皮をこすりつけている。


や、やわらかい。かわいい・・・。


思わず、顔がにやける。

「にゃーん?」

と言ってみると、猫さんが

「にゃ?」

と返事する。

「・・・かわいいです。」

思わずしゃがんで、猫さんに顔を近づける。


「にゃ。」

猫さんはそう言った。猫さんも顔を近づけてきて、私の鼻と自分の鼻をくっつけた。

「・・・あいさつされたー。」

思わず、少し上を向いて、にやける。

「かわいいなぁ。・・・撫でて良い?」

と猫さんに聞く。

「にゃ。」

猫さんは地面に横たわって、フカフカのお腹を見せつける。

恐る恐る。手を伸ばし、背中の方を撫でてみた。


もふん。

とても柔らかい感触が手に伝わる。ゆっくり撫でる。

「や、やらかい。」

思わず、うっとり。


猫さんが私をじーーと見ている気がする。

「ねこさん、ありがとう。」

「にゃーん。」

猫さんは、私の言葉がわかるかのように目を細めて鳴く。

思わず、滅茶苦茶撫でました。


撫でながら、ふと、会話練習をしようと思い立つ。

「ねこさん、なー?」

「にゃーん。」

「ねこさん、私はリースと言います。」

「にゃ?」

「にゃーん。」


そうだ、猫語で喋れば伝わるかもしれない・・・。猫語?

「にゃにゃにゃん。にゃににゃにゃ、にゃーすににゃーにゃす。」

「・・・にゃ?」

・・・駄目だよね。猫語喋れないもん。転生特典とかないか・・・。


帰る時、木の根元に真っ赤な水溜りが・・・。

・・・え?せ、先生呼ばなきゃ!

急いで、先生を捕まえて、中庭の異常を伝えると、

「こっちで何とかしておきますので、授業にいっていいよ。」

と言ってくれたので、戸惑いながら教室に向かった。




次の日


気のせいだろうか?

中庭の木が増えた気がする。

きょろきょろすると風もないのにガサガサという音が。


・・・ゆ、幽霊?昼間なのに?いや、幽霊は本来夜に見えるだけで、昼間にもいるって聞いたことがある。


昨日の血だまりを思い出す。

こ、怖い。

猫さんが、噴水近くのベンチで待っているけど・・・。

・・・あーしっぽが誘ってる。


こないのかにゃ?って言ってる気がする!


・・・どうしよう。怖いけど・・・。


ガサガサドスン。

何か落ちた!

「きゃ!」

反射でつい、叫んで逃げてしまった。



放課後に少し中庭を見る。そこに猫はいなかった。

・・・少しうつむく。


ちょっとだけ・・・見るだけ・・・。

中庭の入り口に猫さんがいた。

「にゃん?」

猫さんが駆けてきた。

「よかった。」

思わず、笑顔が出る。

「にゃ!?」

あ、驚かせてしまったらしい。

「いや、あのね。・・・いや、・・・。あ・・・。」

言葉がうまく出なかった。

ふと、言い訳をと思った。

「あのね、猫さんに・・・相談に乗って欲しくって。」

混乱して、本音がポロリと出てしまった。

「にゃーん?」

猫が任せろって顔をしている。

「あ・・・え・・・あの・・・。」

また、言葉に詰まる。

「時計がね。みんなが・・・えっと・・・。」

こう、上手く言えなくて、アワアワする。

「リース?どこだい?」

兄上の声が遠くから聞こえた。

「あ、じゃあね。猫さん。」

急いで、兄上のもとに向かった。



次の日


教室の机の上に、みんなとおそろいの腕時計が置いてあった。

猫さんが置いてくれたのかな?


・・・お礼いわなきゃな。


警戒しながら、今日は中庭を見てみる。

さわさわと気持ちが良いくらいの風が吹いている。

葉っぱもガサガサしていない。さわさわ軽く風で揺れてはいるけど。


キョロキョロと確認する。


何も変わっている様子はない。ホッと安堵のため息が出た。


「幽霊さん、いないよね?」

と小さく聞いてみた。


・・・

返事はない。


「にゃーん?」

黒縁の猫がどうしたの?って感じで足元に寄ってきた。

「猫さん、ここは幽霊出たりするのかな?」

猫さんが猫さんらしくない顔をしている。何言ってるの?って言うか呆れたみたいな顔。


「猫さん?もしかして、人間じゃないですよね?」

というと猫さんの前足がビクンと大きく揺れた。


え?本当に人間なの?

「にゃ~ん?」

地面にごろんと転がって、お腹をぺろーんと見せて、上目遣い。


・・・可愛い。

思わず撫でる。

滅茶苦茶撫でる。


キンコンカンコーン。

気付いたら、昼休みが終わっていた。


「あ!ごめん。またね。」

急いで、教室に戻った。


教室について思った。

猫さんにお礼言うの忘れていた。

放課後に会いに行こうと思ったけど、想像以上に兄上が早く迎えに来てくれたので、行けなかった。


明日は欲望に負けずに、お礼を言わなきゃ。

と決心する。



次の日


今日も中庭に異常はない。

相変わらず、木の根元に血溜まりはあるが、先生が固有のもんだと言っていたので、安心して中庭に入っていった。

いつもの通り、噴水の前のベンチで猫さんが待っていた。

「猫さん、わたくし、リースと言います。」

「にゃ?」

え?また?って顔の猫さん。

本当に人間らしい顔の猫さんだ。

「おと・・・おとも・・・・。」

「・・・に。」

猫さんは、手の甲をポンポンと軽く叩いてくれた。

深呼吸して

「お友達になってください!」

と少し大きな声で言ってしまった。


・・・恥ずかしい。


つい、辺りをキョロキョロ確認した。誰もいないよね?


風がいつもより強く吹いていて、風のせいかどうか分からないが、木々がガサガサを音を立てている。誰もいないと思いたい。

「に!にゃーん。」

猫さんが、任せろって感じで返事してくれた。


「・・・よかったぁ。」

思わず、膝をついてしまった。ついでに猫さんをベンチから自分の膝の上に移動させる。

「にゃ?!」

驚く猫さん。

「猫さん、ありがとう。お友達1号だー。」

と言うと猫さんが照れたようにうつむいている気配がした。ただ、右下を向いているだけなんだけど。


少しだけ喋る練習をしながら、猫さんを撫でていたら、昼休みが終わろうとしていた。

「に、なーなーん。」

と猫さんが何か訴えていた。

首輪を示しているようだった。そこにはネームプレートがあるのに名前は書いていない。

「あれ?昨日までこんな首輪してたっけ?」

思わず、そう口にした。猫さんはまた、ギクリとしていたが、言いたいことはどうやら、名前を言って欲しいらしいこと。

「・・・名前が欲しいの?」

と聞くと肯定したように

「にゃーん。」

と答えた。

考える。
・・・猫さん。
猫さんはにゃーん。
最近は「に。」って鳴く。
名前が「に」はダメだろう。
「に、なーなーん。」ってさっき鳴いてた。
「にななん」?だ、ダサいかな?
ここは安牌で、「ナーン」?
いや、カレーのナンが頭によぎった。駄目だ。
安牌と言えば、「たま」?
駄目だ、今、またサ〇エさんのタマと言う名前の猫が頭で丸い球から出て踊ってしまった。

・・・やばい。あのダンスが取れない。頭の中でサ〇エさんのタマが滅茶苦茶踊り始めた。しかも、一つだけ、タマが球から飛び出て、コサックダンスを踊り始めた。

ちょ、やめて、頭が混乱する!!!


・・・よし、ナーコにしよう。ナーンとタマとコサックダンスで、頭がいっぱいだ。

「ナーコとかどう?」

「にゃ!」

肯定されたようなので、ホッと一息。

「にゃ?」

と首をかしげる猫さん。

「え?や、コサックダンスが・・・。」

「にゃあん?」

「いや、違う・・・人間のお友達も欲しいなぁって・・・。」

「にゃ。」

任せろって感じの猫のナーコさん。

キンコンカンコーン

とベルの音がして、私は急いで教室に戻った。


少し遅れて、先生と黒髪の猫耳を付けた生徒が現れた。

「編入生のナーコ君だ。今日からこのクラスの生徒になる。仲良くしてやってくれ。」

と担任が言うなり、ナーコと呼ばれる生徒が私のところに来た。

「よろしく。リースちゃん。」

と彼女は言った。にんまりと笑う姿は中庭の猫のナーコさんにそっくりだった。

「・・・うん。よろしくおねがいしましゅ。」

噛んだ。


うぅ・・・締まらないようぅ・・・。

舌が痛いし・・・。



それから中庭に言っても猫のナーコさんに会えない時が増えた。その代わり人間のナーコが、積極的に話しかけてきてくれる。

「リースちゃん。って呼んでるけど、リース様って呼んだ方がいい?」

と聞いてきたので

「リースちゃん・・・でもいいけど、リースって呼び捨てはダメかな?」

と言ったら、困った顔で

「ダメ。それは伴侶だけにゃ。」

と言われてしまった。

そっか。・・・伴侶・・・。


ロイス王子の顔が浮かんだ。学園に来て、しょっちゅう会うようになり思うのだが、ロイス王子、イケメン過ぎると思うのだ。顔もいいし、頭もいい。少し羨ましいくらいだ。


「ん?どうしたの?リースちゃん。もしかして、ロイス王子のこと?」

とナーコが聞いてきた。

「え?!ちがうちがうよ!」

とすぐ否定してしまった。

「にゃーん。」

とナーコが猫みたいに鳴いた。

見抜いているぞと言われている気がした。

「違うったら、違うって!」

否定するほど図星と言っている気がして、混乱してしまう。
若干、過呼吸気味になる。

混乱がマックスになって、頭に血がのぼってきた。気付いたナーコが手の甲を人差し指と中指で交互にトントンと叩く。

一定の間隔で、トントンと。


少しずつ、息が整う。

「ありがとう。ナーコ。」

「気にしないで、ごめんね?興奮させちゃった。」

ナーコの目は何だか物凄く懐かしいものに感じた。

それに、この独特な手の甲の叩き方・・・隣に住んでいた・・・名前は忘れてしまった女の子の・・・。


・・・思い出せない。

顔は覚えているのに・・・どうしてだろうか?


それからも人間のナーコは相談に乗ってくれた。ナーコはナーコの友人を紹介してくれて、少しだけど、喋れるようになった気がする。

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